『青空の見える丘』の感想メモ

青空の見える丘』をクリアしました。
学園モノの日常系ストーリー。典型的なキャラゲーでしたけど、過去のトラウマや三角関係へのけじめ、漢たちの熱い友情の展開で、深みがあり味わい深いものになっていますよ。こくまろ?

 

主人公:秀樹は親の都合で田舎から泣く泣く都会へと出てきた男の子だった。幼馴染の春菜や子夏、お姉さん的存在の柊花と別れるのが辛く、都会へきてもウジウジしていた。そんな彼を救ったのが伊織で、彼女の叱咤激励夫婦漫才のおかげでしっかりとした人物へと成長していった。高校2年の春、そこへ春菜が子夏と共に都会へと転校してくる・・・

 

◆西村春菜
秀樹との田舎での幼なじみ。手紙の交換などで縁があり完全には切れていなかった。あかるく素直なほんわり娘だが、独りでなんでも抱え込みがち。今回の引越しは父親の海外出張と母親の入院のためなのだが、周囲には内緒にし、寂しさを見せないようにしている。幼い頃から秀樹一直線であったが、別れる際にした約束は秀樹が男前になることだった。そう、自分のために秀樹を束縛しないように。

 

秀樹は男を磨いていたが、それは全て伊織のおかげ。そんなもんもんを抱え込んでいるうち、秀樹との情交は重ねられていく。そしてついに妹の子夏が母親の所へ泊まりにいって独りきりになるとその心情を吐露してしまう。秀樹に抱いてとせがむがその頭には伊織の影がちらつく。奇妙なバランスで成り立っていたみんなの仲は、誰かを選ぶことで崩れ去ってしまう繊細な関係。それに気付いた春菜は逃げ出してしまうのであった。春菜を選ぶということは伊織とのけじめをつけること。伊織との関係に幻想を打ち砕き、寧ろ逆に励まされた秀樹は春菜のもとに赴く。

 

春菜の思いつめるその性格には緩衝材としての大切な人物が必要。秀樹の自己犠牲の精神にはそれを認めて褒めてあげる大切な人物が必要。春菜と秀樹は二人で重い思いを引きずっていく。二人の想いは重なり合いついでに体も重なり合うが、実から出た錆のためか春菜を妄執する人物に秀樹は刺されてしまう。傷自体はたいしたことはなかったが、秀樹は目を覚まさない。

 

そんな秀樹のまどろみの仲、田舎にとどまる巫女姉さん:御代柊花から夢にジャミングが行われる。秀樹の友達の心情のヴィジョンを叩きつけられ、ようやく目を覚ます。友情パワーで大団円を迎えた秀樹を待っていたのは彼を包み込む優しいぬくもりである春菜。二人は倒れ得ぬように周囲に支えられながら、周囲を支えて生きていくという展開でハッピーエンド。

 

◆藤宮翠
図書館に住まうミステリアスクーデレ不思議系ボクっ娘。愛称は"すいすい"。自己の客観化や相手の分析が得意で黒ストを愛用している。彼女の口調や嗜好は数年前に死去した姉をトレースしたもの。そうすることで彼女の追悼をするために。当時すいすいは姉が病気でちやほやされるのにほのかな嫉妬を抱いた。そのことであまり積極的に仲良くしようとせずシコリが残ってしまっていた。

 

ある日、姉の聖の死霊がすいすいに憑依してしまう。成仏させてあげるには未練から開放させたあえるのが定石。聖は死亡する際に、"呪い"で病死することに決意していた。その"呪い"とは空き教室の怨念に祟られた者は死亡するというものであった。そんな呪いは嘘っぱちであったが、自殺者と事故脳死が出たために、呪いではなく"噂"で苦しめられることになったのである。聖は"噂"を鎮めるため、自分の病死を呪いの人身御供と見せかける。死期を悟っていたが、誰にも死にたくないといわなかったことで、逆にすいすい達を苦しめることになっていた。普通に死ねるほど、淡い関係だったのだと。

 

そんな未練を聞き出し、鏡の中で姉妹対面。お互いに理解し直して無事に聖は昇天するのでした・・・


◆西村子夏
春菜の妹。秀樹の幼なじみであったものの"妹"としてしか見られていなかったことや姉の恋心を知っているため、秀樹への想いに苦しむ。彼女の場合自分の存在価値を"役割"として見出そうとしていたのである。それ故、秀樹に対し積極的なもののどこか一線が出来てしまっていた。

 

その一線を乗り越えて二人は結ばれるのだが、妹に大好きな人をとられて泣く春菜の描写は思わず感情が揺さぶられたね。ここを読者にアクを残さないような形に仕上げたところはえろげ的に秀逸だが、どろどろする表現も見てみたかった気がしないでもない。そうすると鬱げーになっちゃうか。

 

ようやくこれから恋人関係が始まるのかというところで、子夏は事故に逢ってしまう。意識不明の中、秀樹はショックを受け廃人状態。夢の中の田舎で子夏と邂逅を果たすも、彼女がいなくてもシャンとせよとのことを告げられる。そう、子夏がいつ目覚めてもいいように。秀樹は哀しみを引きずりながらそれでも子夏のために前へと進む。秀樹が前へと踏み出すその一瞬とも永遠ともいえない時間を経て、ようやく子夏は目を覚ましてハッピーエンド。

 

◆諏訪ののか
のんびり生徒会長、実は意図的に腹黒。いいとこの令嬢で外国へと旅立つ身となっていた。青春に墓標を立てるべく、最後の関係にと秀樹との関係を結ぶ。ののかが最後にみせたのは繋ぎとめて欲しいという暗黙の願い。秀樹は友情パワーで元気玉を作り、空港へと駆けつける。しかし直後に飛行機は出発し、秀樹の叫ぶ声だけが残った。項垂れる秀樹の前にひょっこりと現れるののか。じつは飛行機には乗っていなかったというオチ。周囲から祝福を受けながら、諏訪グループの会長と合間見える。で、そこはえろげ的ご都合主義で瞬間的に気に入られハッピーエンド。

 

◆速水伊織
秀樹が都会へと引越してからの幼なじみ。気高く優しく、白鳥のバタ足の如く水面下の自己犠牲でクールビューティーを気取る。だが本当はさみしがりやさん。一時期は自分に自惚れており荒れていた。加えてテニス部のエースだったこともあり何かと妬まれ、それを全てかなぐり捨てていた。それが災いしイジメが発生。それでも気高すぎたため、体育倉庫で強姦されかける。そこを助けたのが秀樹でもあり、ふたりの絆はより一層深まったのだった。しかしこの事件により、伊織はテニス部を辞めていた・・・

 

居心地のよい二人の関係であったが、春菜の出現により転機を迎える。もう一度テニスと向き合うために現実と戦う伊織。強姦の恐怖を秀樹に吐露したことで、けじめをつけ再起を図る。だがそこへ現れたのがイジメの首謀者。今度は練習試合で正々堂々と勝負を挑んできたのだ。そこでの秀樹との掛け合いはグッときて、こう

伊織:甘えてちゃいけないのよね。
秀樹:いや甘えても全然かまわない。

伊織:前を見なきゃいけないのよね。
秀樹:いいや、今だけを見ていても生きていけるだろうな

伊織:格好悪いわよね、今の私。
秀樹:はっ、これから格好良くなるんだろ(ニヤリ)

 

青春というか挫折者の復活という栄光をだな!!感じるのです。

 

テニスとも再び向き合えるようになった伊織を待っていたのは、春菜との対決。居心地の良い友人関係である3人の仲は、前に進めば誰かが痛い思いをしなければならんし、全員が痛い思いをしなければならないということ。春菜が墓標を立てる描写もなかなかなのですよ。