冥契のルペルカリア 最終幕「魔白の彼方」の感想・レビュー

死の狭間にある者たちがその未練により構築された思念体世界で生きる強さを得る話。
構造だけ見ればリトバスなのだが演劇を主軸としたトラウマ克服は読みごたえがある。
現実を認識した主人公により虚構世界は崩壊し、実妹は何も言わずに消えようとする。
そこで重要な役割を果たすのが主人公の親友倉科双葉であり言葉を交えろと促すのだ。
愛憎で焦がれていた兄妹がその想いを交わしてお互いを理解し合う所はグッとくる展開。
虚構世界は無意味ではなくそこで力を得たヒロインたちは無事に火災を乗り越える。
そしてまた演劇の舞台へと身を投じるのであったとハッピーエンド。

虚構世界を通して現実を生き抜くための強さを得る

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  • 愛憎を抱えていた兄と妹との和解
    • 【1】最終幕では虚構世界が構成された背景と兄妹の和解が描かれていきます。虚構世界の構造はリトバスなノリ。現実世界では主人公たちが劇団ランビリスのハムレット公演に集まってきていました。主人公は実妹が死んだショックで精神崩壊していましたが、倉科双葉と共に演劇を見に来ていたのです。そして火災が発生し、めぐり以外の劇団ランビリスのメンバーは死に絶え、めぐりも祖父の遺体を目にして動けなくなってしまいます。主人公もまた燃え上がる炎の中で生き抜こうとする意志を示せず焼かれようとしていました。他の攻略ヒロインたちもそんな感じ。このような状況の中で、主人公を救おうとする霊的な実妹の想いが、未練を抱いていた人々の想いと結びつき、虚構世界を構築したのでした。虚構世界はこの火災事件に対し、何とかして生き延びようとする意志を持たせるためのセカイだったのですね。これまでのシナリオでは攻略ヒロインたちがトラウマ解放され虚構世界から離脱していきました。最終幕は主人公の番です。
    • 【2】登場人物たちの離脱により虚構世界が維持できなくなったため、実妹はそのまま消えて行こうとします。それを阻止するのが我らが親友ポジションの倉科双葉。もう双葉が最高のメインヒロインだよ。双葉はLGBTのガチ百合でありましたが、本性を晒せば忌避されることは百も承知であったので、仮面を被って社会の常識の中で生きてきました。しかし、ある時夜の公園で演劇の練習をする少女を見て一目ぼれしてしまいます。まぁそれは役作りとして女装した主人公だったというオチになるのですが。こうして仮面が剥がれた双葉は主人公と自由に振る舞える気心の知れた友達になれたのでした。それ故、双葉が主人公の妹に対して、言葉を交わせと促すシーンはとても良い場面に仕上がっています。
    • 【3】そんなわけでついにクライマックスがやってきました。主人公と実妹が和解するシーンですね。それぞれが自分のうちに巣食う感情をぶつけ合っていきます。ここで主題となるのが、主人公に生きる意志を持たせること。実妹は自分が演劇の死を表現する為に実際に死んだ時の心境を説明するのです。役者としての到達点だと思ったから最高の芝居を作り上げたかったのだと実妹は述べます。そんな妹に対し、生きている限り役者なのだから最高傑作は次作でなければならず歩みを止めて、立ち止まることは挑むことの放棄であると主張するのです。はい、超巨大ブーメラン。この発言は主人公自身に突き刺さることになります。妹の死により生きる気力がなくなった主人公。火災を前にして逃げようともせず死を受け入れようとする主人公。そんな主人公が死ぬことを否定するのですね。この言葉を聞いた妹は虚構の人生にも意味があったのだと噛みしめ、兄に対して愛を示し満足して消えていきます。
    • 【4】ラストは虚構世界から現実に回帰した場面からスタート。当然、火災にまみれている最中です。覚醒した主人公は火災の中で生きている人たちを救いに行きます。勿論、その対象には祖父の死体を目の前にして愕然とし続けるめぐりも含まれるわけでして、傷ついためぐりに手を差し伸べるのです。虚構世界で祖父の真意を知っためぐりは憎んでいた祖父への感情を払拭し、愛情を確かめることが出来たのでした。火災から生き残ったメンバーたちは苦難を乗り越えて劇団を再結成。その名もルペルカリアということでタイトル回収。新たな一歩を踏み出すのでした。

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冥契のルペルカリア感想まとめ