冥契のルペルカリア 第四幕「天鵞絨の夜具」の感想・レビュー

ガチ百合LGBTと友人への愛憎を通して二律背反の感情を描く話。
倉科双葉は百合的恋愛感情の先に相手の幸福こそが第一という報われない愛を貫く。
箱鳥理世は友人を好きであるが故に嫌いであるというメビウスの輪を受け入れる。
双葉も理世も決して重なることは無い友人への二律背反の感情を内包しているのだ。
双葉は自分にとって都合の良い虚構世界を跳ねのけ自らの恋愛観を確立する。
理世は自分の未練を自覚して、再び役者へと舞い戻るのであった。

同一人物に対する決して交わらない二律背反の感情

ガチ百合LGBT倉科双葉

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  • 「相手の思いを尊重出来ないのなら、恋をすることなんてやめてしまえ!」
    • 倉科双葉はガチ百合です。この人物が演劇をやりたいと主人公を巻き込んだことから物語はスタートしていました。公演会では役を獲得することに成功するのですが、なんとその配役は愛する女を権力者に進呈しなければならずさらには強姦されるというモノだったのです。その強姦される女性の配役は、双葉が恋愛感情を抱いている天使奈々菜であったため、お芝居の役作りとはいえ葛藤に晒されるのでした。そもそも双葉が新米なのに役を勝ち取れたのは、ガチ百合だからでした。すなわち人生の切り売り。役を演じるのではなく、リアルに寝取られることとなるため、その感情が発露されるというわけです。このギミックに気付いた双葉は苦悩し心に隙が生れます。そこを折原京子が巧みに突き、自分にとって都合の良いことが全て叶う虚構世界へと誘うのです。この場面での見どころは、真の愛情というものは相手の幸福を一番に考えるものであると双葉が唱える箇所となります。虚構世界で自分と相手が結ばれたとしても、相手の気持ちが自分に向いていないなら、それは支配とは変わらぬと述べ、折原京子の甘い誘惑を跳ねのけるのでした。ガチ百合とは好きな相手の女の心が決して自分に向かぬと知っているからこそ、相手が自分以外の存在(しかも男)と結ばれ幸福になることが、自分にとっても幸せという複雑な境地。

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表裏一体の愛憎箱鳥理世

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  • 好きと嫌いが混じり合う、混沌とした思い
    • 箱鳥理世は主人公と同様に、折原氷狐の演技を見て、演劇を挫折した存在として登場します。主人公が役者への未練を捨て去ったのに対して、理世は未練を捨てきれないでいました。そのため劇団の事務として裏方を支えるという役割で演劇にぶら下がっていたのです。第四幕では理世を役者に復帰させるために、折原氷狐に対するコンプレックスを解消させることがメインとなります。主人公の妹であった折原氷狐と箱鳥理世は幼少期に同じスクールのレッスンを受けていました。この時から理世は主人公に好意を抱いていたのですが、氷狐の本性を垣間見てしまうのです。氷狐は主人公がまぐれ当たりをしたことを見抜いており、主人公が失敗しきった時期を見計らって役者デビューしようと目論んでいました。さらには役者としてデヴューを果たすと、配役の登場人物の心情を掘り下げる為に恐ろしいほどに自分を配役の境遇に落とし込んでいったのでした。理世はこのような過程を経てトモダチだった氷狐に複雑な感情を抱くようになります。
    • そしてトドメとなるのが、オーディションで体よく利用され、演技も見られないまま落とされたことでした。氷狐が演じることになったのはカリギュラであり、それは絶対孤独の存在でした。理世が受けたのはそのカリギュラを理解しているが故にカリギュラを殺そうとする存在でした。ここでは理世は氷狐を殺す勢いで対峙することが求められていたのに対し、氷狐の助役として並び立とうと願ってしまうのです。ここでの理世の役割は、氷狐が理世を切り捨てられるかという踏み絵の機能でした。カリギュラの存在は絶対孤独。ここで氷狐が情を見せていたのなら監督は氷狐を切り捨てていたでしょう。まさに演劇に対する狂気。この狂気に晒された理世は、演劇を楽しもうとしていた自分に絶望して心砕け散り、演劇をやめることとなったのでした。以上により、理世は氷狐に対して、好きでありながら嫌いでもあるという混沌とした思いをいだくようになったのでした。
    • 役者に絶望した理世がそれでも演劇から離れなかったのは劇団ランビリスに救われたからでした。究極の自己満足集団。そしてまた主人公から自分がやりたい演劇像を目指しても良いのだと肯定されることとなります。こうして二律背反アンビバレンツな想いを全て内包しながら、演技が好きだから演劇をする役者を目指して、理世は復帰を果たすのでした。

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冥契のルペルカリア感想まとめ