ツルゲーネフ/神西清訳『はつ恋』(新潮文庫)

ツンツン系お嬢さまに惚れるが、何人ものオトコが存在し手玉に取られながらも、初恋の葛藤に苦しむ。
しかも、自分の父親がその女性を奪い取るという展開。

ほんの束の間たち現れた私のはつ恋のまぼろしを、
溜息の一吐き、うら悲しい感触の一吐きをもって、見送るか、見送らないかのあの頃は、
私はなんという希望に満ちていたことだろう。
何を待ちもうけていたことだろう。
なんという豊かな未来を心に描いていたことだろう。

しかも私の期待したことで、一体何が実現しただろうか?
今、私の人生に夕べの影が既に射し始めた時になってみると、
あのみるみるうちに過ぎてしまった朝まだきの春の雷雨の思い出ほどに
すがすがしくも懐かしいものが、他に何か残っているだろうか?