雑録

ソレヨリノ前奏詩の感想・レビュー

体験版は破局ENDでメインヒロインの永遠(トワ)さんが断髪して終了するが製品版ではいきなり2年後。
(※体験版の感想はコチラ→http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20141228/p1)
断髪状態はほとんど描写されず、ぼっち状態を克服したトワさんはクラスの人気者に。
一方主人公くんはトワさんへの未練がたらたらで、その想いを小説化し人気作家になっていた。
トワさんの行動に苛まされる主人公くんは二人のヒロインによって救われるが、救済されるとループ。
並行世界で二人の女を攻略して人生を肯定した主人公くんは、とうとうトワさんを救済する。
しかしまぁ同日発売のサノバウィッチとネタが被ってしまいましたなぁ。

真響(まゆら)√…生存理由の肯定編


  • セカイ系ではなく社会的紐帯を
    • まゆら√は自らの生存理由を肯定できずにグチグチと悩む主人公くんが、無条件承認してくれる天使まゆらによって救済されるはなしです。自己否定的な男が女に肯定されて、元カノとセカイ系するよりも社会的紐帯を求めるのですね。またここでは卒業してしまった先輩が主人公くんに人生の道を説く先達として重要な役割を占めることになります。主人公くんは体験版でトワさんに振られて以来、2年間鬱屈した日々を過ごしてきました。そんな主人公くんの傍にいて支え続けてくれたのは幼馴染みのまゆらさんでした。しかし主人公くんは酷いもので自分が辛いときにはまゆらさんに甘えるものの、他人を傷つけることで自分が傷つくのが嫌だからとまゆらさんを遠ざけようとします。そんな身勝手な主人公くんに対してもまゆらはギャーギャー騒いだり落ち込んだりしながらも主人公くんを見捨てません。主人公くんを無条件に受け容れ続ける信頼と心の強さを持つまゆらさんマジ天使。心に深い傷を負った主人公くんはまゆらに癒されながら、人生のレクチャーを先輩から受けることで次第に生きることに対して前向きになっていきます。「夕日が綺麗だろ?これが人生、これがセカイだ。太陽だって、いつも空のてっぺんにいるわけじゃない。こうやって落ちていく時もあるんだ。だが陽はまた昇る。人生も一緒だ。いいときばかりではないし、もちろん悪いときばかりでもない………失敗したって平気だ。セカイは続くんだ!」。先輩の言葉には励まされますが、主人公くんが心情吐露する場面がカットされていたり、テキストが端折られている場面もあって割と残念であったりもする。



  • 主人公くんが自己肯定感を持つと元カノが破壊工作
    • 集団から自ら孤立することを望みがちで人間と関わろうとしない主人公くんを、かろうじて社会につなぎ止めてきた存在がまゆらさんでした。まゆらシナリオのイベントでは主に夏祭りの準備を通して主人公くんが社会的連帯の重要性を学んでいきます。しかし主人公くんが自己肯定感を持つとトワさんが精神攻撃を仕掛けてきて、主人公くんは精神崩壊。まゆらと結ばれて幸せを築こうとする主人公くんに対して、トワさんは過去の贖罪を迫り、救われてはいけないとなじるのですね。

前にも言ったでしょう。宮坂君は生まれた瞬間に能力を持つという罰を受けているって。あなたは生まれてきた時から既に欠けているの。それがあなたが受けた罰なのよ。でも、あなたはその欠けた能力を使うことでしか、自己表現ができない………能力なしにあなたがあなたでいられるわけはないわ!その力を行使することでしか、あなたは他の人間に認められない。役に立つことができない………可哀想なモンスターなのよ。罪を認めなさいよ。わたしの未来を壊したという過去をずっと、責め続けなさいよ。

    • こうしたトワさんの精神攻撃にいったんは屈しかける主人公くんですが、天使まゆらと先輩のレクチャーにより復活します。トワさんと復縁することはそれはそれは魅力的な提案だが、そうするとセカイが二人になってしまう。社会を棄てて二人で生きることは人類の歴史と文化の否定だぜ☆とセカイ系を拒否してまゆらと共に社会の中で生きることを選びます。主人公くんはまゆらのヒーローとなることで社会と繋がることができたのです。小説家としてデビューしていた主人公くんはこんな自分でも物語を書くことで、人々を救済できるかもしれないと、文章を書き連ねていきます。こうして自分を承認し続けてくれる女神のようなまゆらさんによって救済された主人公くんは人生を肯定できるようになったのでした。しかしエンドロールすら流れずに時間軸はループされ、はるか√に突入です。

はるか√…呪いの祝福編



  • 異能は忌避するものではなく神からのギフト
    • 都築はるかは資産家の娘でぶっ飛んだ思考の持ち主。覆面作家である主人公くんが参加させられた文学賞授賞式に同席しておりその正体を知っている人物です。当初はるかさんは主人公くんに新作を作らせるためにアプローチしてきます。つまりは主人公くんとトワさんの中を煽って更なる物語を綴らせようとしたのですね。はるかさんは新作のために自分が恋のライバルとなり主人公くんをトワさんからの呪いから解放していきます。はるかさんが主人公くんに行ったのは異能の祝福。エンパシー能力を忌避する主人公くんに対し、その力は素晴らしいものであると讃えてくれたのです。主人公くんは女によって救済され主体的意思を確立することができました。以下祝福場面引用。

力は使う人間の意志によってコントロールされるべきなんです。人を傷つける刃物だって生きるためのお料理に使うのが普通ですし、お医者様は人を治すために使っています。刃物や銃器なんて特別なものでなくとも、おそらく誰もが使っている言葉は誰よりも多くの人間を傷つけてしまう凶器になりえます。誰もコミュニケーションをとらない世界では喧嘩も殺人もどんな問題も起こらないでしょう。でもより多くの人間は自分の幸せや誰かを幸せにしたいという想いから、それでも言葉を交わします。相手の感情が読める力だってきっと、そんなものの一つの形でしかないんですよ。



  • 異能の積極的な使用
    • はるかによって祝福された主人公くんはエンパス能力に前向きになれましたが、ここでちゃぶ台返し。なんとはるかは豹変し、主人公くんに対し冷たい言葉を吐き、目の前からいなくなるのです。打ちひしがれる主人公くんでしたが、2年前のトワさん事件の時とは違っていました。はるかによって祝福を受けた主人公くんは、その異能を積極的に使って、問題解決を試みるのです。主人公くんの武器は小説を書くこと。はるかが期待していた三作目を周囲の人々の協力によって完成させます。主人公くんはそのエンパス能力によってはるかのホントウの心を見抜いていたのですね。はるかはいじめを受けていた少女を救えなかったことを後悔していると主人公くんに告げていましたが、本当にいじめられていたのははるか自身であったのです。はるかはその出自から「正直であれ」と育てられたがために人間関係を円滑にするための嘘をつくことを学んでこなかったのです。故にハブンチョされる結果になったのですが、はるかが自分の信念を曲げて嘘をつき、相手におべっかを使うといとも簡単にコミュニケーションをとることができました。この結果、はるかは虚言を用いて自分の心を隠すようになってしまいました。主人公くんは異能によって、この嘘を見抜いており、はるかの豹変も本意ではないことが分かっていたのです。新作を発刊した主人公くんは、トワさんとの関係も清算します。主人公くんはトワさんに2年前に自分を叱ってくれてありがとうと述べるのでした。こうしてはるかによって異能を祝福された主人公くんは、その異能を使って噓吐き少女を救うことができたのです。「俺はエンパシーがあるから、はるかと付き合うことができる。はるかは嘘をやめることができないからすぐ迷子になる自分を見つけてくれる俺を求めてくれる」と両者共存の関係となってハッピーエンドを迎えました。しかし時間軸はループし、トワさん√に突入です。

永遠(トワ)さん√…ツンドラめんどくさい系少女を救済するはなし


  • 小説の力でトワさんのとの関係を築け
    • 体験版でトワさんに振られ精神崩壊した主人公くん。しかし、製品版の並行世界でまゆらさんに自己肯定され、はるかに呪いを祝福された主人公くんは、強さを身につけ再チャレンジできる社会を要求。3周目にしてトワさんと対峙することになります。トワさんからのトモダチに戻ろうという提案を一蹴した主人公くんは、逆にトワさんを題材にした小説を書きたいとモデルを要請し二人の関係が始まります。ここで重要な舞台装置となるのが夢セカイにおける電車の中でのトワさんとの逢瀬。この夢セカイはトワさんの閉ざされたココロを表現しており、主人公くんはその異能により、ココロの中にアクセスできるという手法ですね。主人公くんはこの場所において、トワさんがホントウは救いを求めていることを知ったのでした。真実を知った主人公くんはトワさんを救済するために立ち上がり、筆を手に取ります。主人公くんはその小説の中でホントウは救いを求める少女を描き出し、それをトワさんに読ませることによって、ココロの壁を揺さぶったのです。小説を読んだトワさんは、自分のありのままの心の中が書かれていることに発狂し、主人公くんの目の前で小説をライターで焼き捨て海の中にダイブ。慌てて主人公くんはトワさんを繋ぎ留めるのですが、結婚をしてくれとねだられることになるのです。こうしてあっという間に入籍展開。

もう傷つきたくないけど、傷つかずに生きることなんて、きっとできない。だったらせめて−せめて私は確かなものが欲しいの……わたしはもう、あなたと恋はしたくない。あなたと二度恋をしたわ。二度とも、終わってしまった。だから、もういいの。もう、したくない。ねぇ、一つだけ訊いていい?昔、わたしと家出をして−うちの家庭を壊したと、今でも思ってる?そのことを後悔してる?わたしはもう恋をしたくないけど、だけど…確かなものが欲しい。あなたはわたしに許されたいと思っている。それと−うぬぼれじゃなければ、わたしを求めてる?じゃあ、すべてを解決しましょう。結婚して。


  • 主人公くんのアンガージュマンとトワさんの孤独
    • 主人公くんはかつては自分の異能「エンパシー」能力を非常に忌避していました。しかし、製品版並行世界で女により救済され自分を受け容れた主人公くんは、3周目セカイで周囲の登場人物達と絆を結んでいきます。積極的な社会参加、つまりはサルトルでいうところのアンガージュマンを行うのです。アンガージュマンとは自己を社会の中に投げ込むことを言います。高校倫理の用語集的には「社会の状況は客観的な固定したものではなく、人間は社会の中に参加することによって、一定の状況の中に自己を拘束すると同時に、その社会をみずからの自由な行為によって、新しい状況へと作り変えていく」ということ。作中でこの役割を担っているのが主人公くんの悪友Aであり、足の怪我によりこれまで打ち込んできた陸上を断念し荒れてしまった男の子です。主人公くんは悪友Aの暴力事件を契機に疎遠になっていた関係を復活させます。「俺は蒼太に昔みたいに元に戻れなんていわないよ。チンピラでも別にいい。だけど自分を責めてる蒼太はもう見たくない」とありのままの悪友を受け容れてあげるのですね。こうして主人公くんの周囲にはまゆら・はるか・先輩・痴女生徒会長・蒼太と社会の絆が形成されたのです。
    • しかし、このようにして主人公くんが前を歩き始めると精神崩壊しちゃうのが我らがトワさん。主人公くんが前に進んでいったのに対し、自分は何も変われないと孤独を感じてしまいます。この孤独の壁はトワさんのココロを押し潰し、感情をすり減らして廃人化させていきます。三度主人公くんはトワさんを失ってしまうのでしょうか?いいえ、そんなことはありません。主人公くんは己の武器である小説を描いて「三作目」を執筆してトワさんのココロとリンクさせ、最後に残ったトワさんのココロを解放するのです。感情が消え失せてもトワさんに残っていたのは、主人公くんへの愛情。この愛情を呼び覚ますことでトワさんは自分の心の壁を打ち破ることに成功します。過去のトワさんの心象風景を巡歴しながら現在のトワさんに辿り着く演出は結構ステキです。最後の「わたしを愛して」の台詞もなかなかグッとくるものがありますね。こうして主人公くんによりトワさんは救済され、今の幸せはこれからもっともっと幸せに成るためのプロローグなんだ!とタイトル解題されてグランドエンドを迎えます。

あなたが教えてくれたのよ。わたしの中に、こんな感情があるってことを。あなたのために、あなたのためだけにこの心はあるのよ。愛してる、終。あなたをずっと愛していた。あなたと引き離されたとき、小さな恋が終わって。あなたと自分を傷つけた時、二度目の恋が終わって。もう二度と恋をしたくなくて−でもわたしは別のものを見つけた。いえ、ずっとあなたに向けていた心のかけらを、見つけ出したのよ。愛してる…あなたは壁の向こうに、壁のずっと向こうに離れていってしまったけど。私のこの気持ちだけは消えなかった。壁の中で押し潰されそうになっても。あなたへの愛が残ったわ。終…あなたが好き…好きよ…この気持ちをなくしたくない…ずっとずっと好きでいたい、愛していたい。あなたに愛されたい。



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