九里幾雄夫「主題学習の計画と実際」平田嘉三編『新しい世界史教育の方法』所収、明治図書、1972、35-47頁

ここでの主題学習の位置づけとしては「基本的事項の系統主義的学習をあくまでも土台と考え、その上にたってより分析的に、より理論的に、より総合的な高次の学習内容と形態をもつもの」とする。

  • 主題学習における3つの不幸
    • 1:文部省主導の導入であっため教育の国家統制と反発され主題学習の発想が混乱してしまった。
    • 2:昭和37年以前では世界史5単位だったのが主題学習の導入とともに4単位に削減された事の矛盾
    • 3:実施方法が自発的な生徒のグループ学習・発表学習と独断された。

1)主題学習の計画

(1)主題設定の視点と実例
  • 昭和38年度実施学習指導要領の設定基準
    • 主題設定の基準は大雑把なものであり、具体例として「シルクロードと東西交渉」他4つの例が示されているに過ぎなかった。
  • 昭和48年度実施学習指導要領の設定基準と具体例
    • 〓:政治的、経済的、社会的、文化的、国際的な諸点から多角的・総合的に学習できるもの
      • 例1:世界史における草原・オアシス・海
      • 例2:未開から文化圏への成立へ
    • 〓:地域ごとの比較考察的な、あるいは地域相互の関連的な学習のできるもの
    • 〓-a)地域ごとの比較的考察:構造的なもの・普遍と特殊の関係
    • 〓-b)地域相互の関連的学習:文化圏学習の設定から横に分断されがちな各地域を交渉史的視点から世界史の可能性を問題にする
      • 例9:東西文化の交流―陸と海―
      • 例10:農耕民族と遊牧民族との抗争
      • 例11:ロシアの東進と東アジア
      • 例12:イギリスと植民地の拡大
    • 〓:世界の歴史上の事象の発展を、時代別、地域別にある程度大きくまとめて学習できるもの
    • 〓-a)「いつ」「どこで」「どんな内容で」取り扱うかをきちんと設定しておかないと系統学習との重複が起こり、主題学習独自の意味と役割が不明確になる。
    • 〓-b)系統学習と主題学習の密接な関連と相互補完性:時折、全ての歴史に渡る部門史(「女性の歴史」、「科学の歴史」、「西洋文化の流れ」など)を主題にすることがあるが、それはお門違いであり主題学習とは全く異質の歴史学習である。
      • 例13:イギリス議会政治の発展
      • 例14:ナショナリズムの変遷
      • 例15:西部開拓と南北戦争
      • 例16:社会主義運動(思想)の変遷
      • 例17:ワイマール体制とその崩壊
      • 例18:仏教の伝播とその変化
      • 例19:儒教と中国官僚制度の変遷
(2)人物を取り扱う場合の実例(省略)

2)実施上の問題点

(1)一つの実践から
  • 昭和42年における実践(世界史6単位のうち2単位を主題学習に使う)
    • 約50ばかりの教師作成の主題から生徒に興味に従って選ばせ、年間計画を作成
    • 調べ方とまとめ方についての相談
    • 参考書の推薦(それぞれの主題について参考書リストがなくては不可能に近く、生徒が読みこなしまとめ得る書物がなくては。その主題設定自体に無理がある)
    • 生徒のまとめたプリントの修正
    • 板書および資料プリント作成の注意
    • 生徒の発表中、適切な助言
    • 発表レポートの提出
  • 昭和44年度からの実践
    • 今日における「生き方の論理」をマスメディアの情報に押し流されぬ目覚めた深部にある歴史の逃れの把握を目指す。
    • 歴史教育を通じて落ち着いた政治的教養に関する教育を意図。
    • (〓)テキストの採用
    • (〓)講義式(各主題について感想レポートを提出させテストは行わない)
    • (〓)テキストは副読本並に使用、その各章に対応する6主題を設定
    • (〓)一学期だけに限る
(2)実践後の検討と反省
  • 〓:学習方法 ―生徒の自主的研究か、教師の講義方式かについて―
    • 自主的な生徒の発表学習は効果が薄い、教師の主体的な講義方式に、より安定した充実な効果がもたらされる。
    • 主題学習は高次の歴史学
      • 主題学習の展開は、参考書の選定ひとつとっても基本的な知識以上の歴史学の成果に対する見通しを必要とする。比較史的考察、構造的分析、相互的把握力が必要。
  • 〓:「いつ」「どこで」実践するか
    • 系統学習との重複を避け、密接な関連を持たせる構想。
    • 系統学習の中に組み組むことによって「無用の重複を避け、かつ主題学習を取り入れることによって系統学習そのものも内容的に軽減させる」方式。
  • 〓:主題題目の可否
    • 現代政治に関心のあるもの、英雄または未知なる世界に関する興味
    • 全体として東洋史嫌いの反面、興味を示した一国のなかでは一番多い。

3)具体的な展開例

  • 主題「ワイマール体制とその崩壊」
  • 1)目標(なぜこれを選んだか)
    • 〓:現代史は系統学習では、時間的にじゅうぶんに取り扱えないおそれがある。むしろ、その全てを包括できないが、かえって、第一次世界大戦から第二次世界大戦までの諸問題の集中的表現としてのこの主題を展開することにより、ゆうに系統学習の欠をも補いえる。
    • 〓:現代の特殊構造的特質が、まさに1930年代の大衆社会の状況への転換に、重要な一面があると考えられる。その総合的理解が今日及び未来への展望をも持つ。
    • 〓:ヒトラーという人物像を一つの核として現代的興味をもって展開できる
    • 〓:すぐれた参考文献が容易に手に入りやすい。
  • 2)どこでいつ実施するか
    • 系統学習の「現代世界の成立と展開」の第一次世界大戦と第二次世界対戦の間のところで、世界恐慌全体主義の内容を再編制・深化させ、約2時間の配当で組み込む。
  • 3)実践プラン
    • 主題の意味
      • 民主的といわれたワイマール共和国がどうして長続きしなかったのか。その中からなぜナチス独裁が生まれたのか。
    • 指導上の留意点
      • 単純な善玉・悪玉史観による道徳的・感情的な態度ではなく、一時代の歴史の対象として客観的な考察を進める。
    • 内容の展開(省略)