はじめに
- 本章の課題
- ベーシック・インカムがシティズン・シップとどのような関係にあるのかという問いに取り組む。
- 方法と意義
- シティズンシップを権利中心的見解と義務中心的見解の両側面に分析的に区別し、それぞれBIとどのような関係にあるのか考察する
- 「BIのシティズンシップへの貢献の意味」を明確にすることに意義がある。
1.ベーシック・インカムと権利
(1)リベラルな平等の保障
- BI:無条件の所得保障制度、各人の平等な受給資格を保証する=各人は等しく財を受け取る権限を有する。
(2)脱労働中心的なシティズンシップ;労働と生活との切り離し
- BIの無条件性は、労働の有無と所得の関係の切り離しを意味している
- 労働観の変化
2.ベーシック・インカムと義務―互恵性原理を中心に
(1)互恵性の観点からのBI批判
- BIは互恵性原理を侵害するので望ましくない
- 「互恵性」とは?「社会的生産物をよろこんで共有しようとするそれぞれの市民は、当該コミュニティに対して、その見返りに、それに相応する生産的貢献を行う義務を有する」こと
- BI導入が必然的に有償労働以外の「社会的に有用な活動」の活性を導くのかどうか
- ハーバーマスの公的自律※ただし条件提示にとどまる
- 「国家市民は、その私的自律が保障されている限りにおいて、民主的参加権によって保障された公的自律を適切に主張することができる」
- ハーバーマスの公的自律※ただし条件提示にとどまる
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- リットルの互恵性からのBI批判
- 「ベーシック・インカムの提唱者たちは、所得と労働との切り離しがコミュニティ領域での自発的な活動の増大をもたらすと提起するかもしれない。しかし、彼女たちは、コミュニティ関係がどのように十分に発展することになるのかという点について、十分に解明していない」
- リットルの互恵性からのBI批判
(2)互恵性への反批判1:自由な社会における自由の擁護
- フィッツ・パトリック
- アッカーマンとアルストート
- より直接的に、個人の権利は常に尊重されるべきなのであり、そうだとすれば、制度の「悪用」者の選択の結果として「悪用」していないものが自由なライフプラン設計のための財産権を侵害されるべきではない。
(3)互恵性への反批判2:政府からのより高度な「貢献」の必要性とその現実性への疑問
3.ベーシック・インカムは義務としてのシティズンシップを促進しないのか?
(1)BIの修正によつ互恵性原理の組み込み
- BIの無条件制を制限することによって互恵性を確保
- 1「ベーシック・キャピタル」「ステイクホルダー・グラント」
- 成年になった時点で各人に一定額の現金を一括給付する
- 社会への「生産的貢献」のために利用される
- 定期的な給付ではなく、一度きりの給付なので、その効果は永続的とは限らない
- 死亡時に給付額と同額を返済する義務(アッカーマンとアルストート)
- 成年になった時点で各人に一定額の現金を一括給付する
- 2参加所得
- 無条件のBI支払いへの妥協→BIに互恵性原理を組み込む
- 有償労働に関わらず「より広く定義された社会的貢献」を現金給付の条件とする
(2)有償労働による互恵性の侵害―BIと「多様な互恵性」
- 有償労働での形態での「貢献」は、他の形態での様々な「貢献」を侵害する
- 1.無償労働の軽視:家事労働など
- 2.「政治」への関与の低減;広い意味での社会における集合的な問題解決への関与
(3)「多様な互恵性」への疑問について
- 1:BIは他の「貢献」を必然的に導くとはいえないのではないか?
- 他の政策手段との組み合わせによって「貢献」の選択肢を可視化し、利用可能にする
- 労働時間の短縮、インフォーマルセクター(有償労働ではないが社会的に有用な活動)
- ex1.「アクティブな政治的シティズンシップ」 ex2.「パパ・クォータ」
- 他の政策手段との組み合わせによって「貢献」の選択肢を可視化し、利用可能にする