一 はじめに ― 問題の所在
二 十九世紀アメリカニズムの歴史像
1 アメリカニズムの起源(1) ―「辺境」としてのアメリカ
3 アメリカニズムの起源(3) ―「理念国家」としてのアメリカ
- 「辺境」と「聖地」のメタファーの弱点
- 「アメリカ化」された政治理念と「辺境」・「聖地」
- ピューリタンの「聖地」であったアメリカは、独立革命によって旧世界からの離脱を終え、それとともにいまや共和主義と自由の実現という世俗的な目標をめざすべき「天命」を負う→そのとき「辺境」は西漸運動がアメリカに下された天命の着実な実現を意味するようになる
- 「アメリカという国民国家のユニークさは、その長い歴史において・・・・・・それがつねに国家を創造したそもそもの理念に忠実でありつづけ、個人主義的な世俗的ナショナリズムの諸原則をほぼ実現してきた点にある。それはいまもなお、国家形成当初の約束であったデモクラシーのモデルでありつづけているのである。そして、そのことは、この国家が内部に矛盾を抱えながらも、復元力と発展可能性を有していたことの証なのである」 Liah Greenfeld,Nationalism:Five Roads to Modernity(Cambridge,Mass.:Harvard University Press,1980),32
- ピューリタンの「聖地」であったアメリカは、独立革命によって旧世界からの離脱を終え、それとともにいまや共和主義と自由の実現という世俗的な目標をめざすべき「天命」を負う→そのとき「辺境」は西漸運動がアメリカに下された天命の着実な実現を意味するようになる
4 排除の構造(1) ―人種主義(racism)
5 排除の構造(2) ―排外主義(nativism)
- 国家創生神話にもとづく国民創出過程における排除の構造
- 理念に立脚した無垢の国民精神を守り、人類の救済という天命の担い手としての国民的士気の維持する方法→ヨーロッパからの孤立
- 矛盾点:西部開拓を実際に担っていく労働力の決定的不足という問題
- ヨーロッパとの文明史的競争に勝利するために、ヨーロッパからの移民に依拠せざるを得ないという事態→アメリカの「例外意識」の危機→「反ヨーロッパ的」排外主義
三 二〇世紀アメリカニズムの形成
1 十九世紀アメリカニズムの危機
- 「辺境の消滅」
- 19世紀アメリカニズムの例外性→自由土地の存在に支えられている
- 「土地が消滅するとともに、合衆国においては、それまで一時的に停止されていた経済法則があらためて開始され、避けることのできないおしあいへしあいがはじまるだろう。地代は高騰し、賃金は抑圧され、都市は混雑し、社会階級は相互の戦いに明けくれることになるだろう」→「アメリカのヨーロッパ化」
- 1)農本主義から産業主義への転換:1880年代以降の農民連盟運動、90年代の人民党などの政治運動 ←産業社会の到来に対する西部および南部の農民たちの抵抗と適応
- 2)巨大企業の登場と労働組合の成長:個人の時代から組織の時代へ
- 3)旧世界周辺からの大量の移民労働者の流入:移民集団ごとに半孤立的な集住地域を形成、都市社会に二次的な分断線
- 4)都市化(全国的な都市の数の増加と巨大都市の登場)現象の進展→貧困問題や社会問題が噴出
- 5)国民社会における多面的・相互的な排除や対立:ex.ストライキの頻発、ヒステリックな反ラディカリズム、反カトリシズムの再発、反ユダヤ主義、反移民暴動
- 6)政治的対立:南北戦争の記憶にもとづく旧来のセクション間の対立。都市対農村、大企業対中小企業、企業家対労働者、ボス・マシーン対改革主義者、移民対アメリカ生まれの中間層の政治的分断層の発生。新たな職能団体や圧力団体の登場。→国家の変容:19世紀型国家(基本的な社会経済的な価値配分以外には、自由放任的、消極的)から 産業社会の統制と調整を行なう行政国家へ
- 7)自由競争による淘汰や適者生存を称揚する社会ダーウィン主義的個人主義と機能別集団による組織化の対抗潮流→帰属意識の二重化(個別の移民集団、職能集団、圧力団体、地域集団への忠誠心⇔ナショナルな帰属感)
- 19世紀アメリカニズムの例外性→自由土地の存在に支えられている
3 「アメリカ」化の時代
- 「アメリカ化」
- 「アメリカ人」への変容過程
- 「アメリカ化」運動
- 「アメリカ化」運動の問題
- 移民集団のくびきや移民ゲットーの生活様式からときはなたれた新しい「アメリカ市民」をいったいどこへつなぎ止め、なにによってまとめてゆくか
- 「アメリカ的なるもの」を定義できず→「アメリカ化の鼓吹者たちは、ことばの選択にかんしてあいまいになりがちであった。彼らによって、『よき愛国的アメリカ人』『アメリカニズム』『公共的忠誠心』『伝来のアメリカ的理想』『愛国心』等などのことばが、きわめて自由勝手にもちいられたが、それらが明確に定義されることはほとんどなかった」
- アメリカ化の課題=根本的な社会編成過程と関わる:アメリカ社会全体が「島嶼的社会」から産業主義に立脚する「大社会」へと移行する流動的な過程→移民だけでなく、アメリカ生まれの農民・職工・中産階級・地方都市住民も島嶼的孤立状態からの脱却を迫られる
- 流動化しつつあった人口が同化にむかうさいに目標とすべきアメリカのイメージが一定化せず→「アメリカ」化運動はそれのみで20世紀アメリカニズムに明確な輪郭を与えるにはいたらず
4 アメリカニズムとしてのフォーディズム
- 20世紀アメリカニズムの特徴
- 「アメリカの先駆性」
- 市民生活の「大量化」現象→社会的物資の生産・人間の(生物的および社会的)再生産が、大量生産・大量輸送・大衆教育・大衆文化などの諸条件の下で行なわれるようになる
- 「大量化」現象は、「効率性」「規格の統一性」「合理性」「科学性」といった近代的諸価値の社会への浸透と並行
- 「アメリカの先駆性」
- フォード自動車学校の「人間改造」計画
- フォードにおける「アメリカ化」運動は、「大社会」の中軸をなす企業組織による「近代化」計画の色あいが濃い
- 高度に精密な機械力の導入、作業工程の細分化と専門化による単純化、画一的部品製造による交換可能性原則の維持、テイラーイズムの創造的利用などといった生産現場の「合理化」を目的とする運動→労働者それ自体を、その日常生活の根本からつくりかえ、「合理化」しようとする→労働者を前期代的な伝統のくびきからときはなつ必要
- フォードは、ときはなたれた労働者の自我をつなぎとめるべき産業社会における典型的人間像を用意=中産階級的な理性とセルフコントロールとを持し、機械化に適応可能な合理性を有し、産業社会全体への貢献を自己の占める持ち場において着実にはたしうる労働者という、抽象的で新しい人間のイメージ
- 近代的産業社会における機械と人という二つの基本的要素を同時に合理化することを追求した点にフォーディズムの特色→この点に、20世紀アメリカニズムとしてのフォーディズムの普遍妥当性
- 産業社会におけるヘゲモニーの確立をめざす世界中の企業家階級にたいし、汎用性のある資本主義的な成長の為のフォーミュラ・普遍的なイデオロギー計画を提供→その結果、一会社の労働者管理プロジェクトをとして開始されたフォーディズムは、国民経済の成長を基礎づける普遍的な方式として、世界の産業界を席捲する
- フォードにおける「アメリカ化」運動は、「大社会」の中軸をなす企業組織による「近代化」計画の色あいが濃い