国民国家形成【7】アメリカ ~西漸運動と南北戦争~

1.西漸運動

(1)連邦派VS反連邦派

  • ①連邦派(フェデラリスト)
    • 中心人物はハミルトン(ワシントン時代の財務長官)で産業資本家が支持層。
    • 連邦国家の権限強化をねらった中央集権主義。
  • 1800年の革命
    • 連邦派と反連邦派が1800年の選挙で争った結果、反連邦派のジェファソンが勝利。政権交代が選挙によって平和的に実現した世界最初の例だったので、「1800年の革命」と呼ばれる。
      • ※ジェファソンとアーロン=バーが競ったが、バーの識見に疑問をもったハミルトンがジェファソンを大統領にするように工作した。

(2)米英戦争

  • ①原因:19世紀初め ナポレオン戦争 ⇒フランスの大陸封鎖VSイギリスの海上封鎖
    • アメリカ貿易上の利益が損なわれ好戦ムードが高まる。
  • ③歴史的意義
    • イギリスとの貿易が絶えることによって経済的自立が始まり、木綿工業が発展。
    • 先住民がイギリスと連合したため先住民との戦争でもあり、戦後先住民から南部の広大な土地を獲得。

(3)1820年

  • 1828年の革命
    • (a)西漸運動…19世を通じて行われた西部の開発運動。
      • フロンティア:アメリカ西部における開拓地と未開拓地との境界。西漸運動の最前線で自立的・行動的なフロンティア=スピリットが形成された。
      • ※東部の社会的矛盾の解決・産業資本のための広大な市場・実力主義 →アメリカ民主主義の進展
    • (b)ジャクソン大統領…アイルランド移民の孤児で西部出身の最初の大統領(1828年の革命)
      • ジャクソニアン=デモクラシー:資本家の力を抑えて社会の平等化。民主主義が発展
      • スポイルズ=システム:選挙に勝利した政党や党派が自分の支持者を官僚に任命して独占。誰もが官僚になれることを示した。

(4)領土の拡張

  • (B)1819年 フロリダ買収 (第5代 モンロー政権)
    • スペインから買収…フロリダは1763年のパリ条約でイギリスに割譲されたものの、独立戦争でイギリスが敗れたため(スペインも参戦していた)、1783年に再びスペイン領になっていた。
  • (C)1845年 テキサス併合 (第11代 ポーク政権)
    • テキサスはメキシコ領であったが、アメリカ人は国境を無視して入植。結果、メキシコ軍と衝突し、アラモ砦の戦いで玉砕。「アラモを忘れるな!」により戦意高揚が図られ、併合に成功した。
  • (D)1846年 オレゴン併合 (第11代 ポーク政権)
    • テキサス併合の際、「マニフェスト=デスティニー」(明白な天明)を盛んに訴えたので、オレゴンの併合も必然的となった。
      • マニフェスト=デスティニーとは?→低い文明水準であるアメリカ大陸の地域にアメリカ人の進んだ文化や制度を与え、その土地をアメリカが併合することは、神によって示されている明白な天命であるという考え。
  • (E)1848年 カリフォリニア獲得 (第11代 ポーク政権)
    • 米墨戦争(1846~48)…メキシコとアメリカの領土問題が戦争に発展し、アメリカが勝利。カリフォルニアを獲得した。獲得した年に金鉱が発見された。
    • フォーティーナイナーズ(49年組)…金鉱発見の翌年、カリフォルニアに多くの移民が殺到し、開発が進んだ。この移民をさして呼ぶ。

(5)インディアン問題

  • インディアンの強制移住策進める → ジャクソン大統領(白人の民主主義を進展させた)
    • 1830年 インディアン強制移住法:先住民をミシシッピ川以西の保留地に追放する法律。移動が過酷であったので、涙の道と称される。
    • 1890年 ウーンデッドニーの虐殺:無抵抗のスー族インディアン多数が虐殺された事件。この後、先住民の組織的抵抗は終了。フロンティアの消滅が宣言された。

2.南北戦争

(1)南部と北部の依存関係

  • ①南部:外貨獲得・製品市場 → 輸出用作物を栽培して外貨を手に入れる。北部の工業製品の市場となる。
  • ②北部:工業化 → 輸出用作物の栽培に適さないので、南部の資本を用いて工業化に活路を見出す。

(2)南部と北部の対立

  • ①南部:自由貿易、英に対する原料供給地と工業製品市場、半周辺・周辺、州の自治権を尊重
  • ②北部:保護貿易、イギリス製品を排除し大輸出国を目指す、中核、中央政府の権限強化

(3)奴隷制をめぐる南北対立

  • ☆西部に新しく生まれる州の争奪という形で激化!
  • 1820
    • ミズーリ協定…北緯36度30分以北に生まれる新しい州は自由州、それ以南は奴隷州になる。
  • 1850
    • 1850年の妥協…カリフォルニア州を自由州とする代わりにニューメキシコ・ユタ準州が本州に昇格する際は、住民の意思に任せられる。さらに北部は奴隷逃亡取締法を実施することで妥協が成立。
  • 1852
    • 『アンクル=トムの小屋』…ストウ夫人による黒人奴隷を主人公とする小説。北部地域で奴隷制反対の世論を形成する。
  • 1854
  • 1859
    • ジョン=ブラウンの蜂起…奴隷制の急進的開放論者のジョン=ブラウンの反乱。
  • ☆以上により、南北の対立が激化し、黒人奴隷制問題は1860年の大統領選挙の最大の争点となる。

(4)南北戦争

  • ②戦争は南部がリー将軍の下で戦争を優位に進める。
  • ③北部側は劣性を跳ね返すために様々な政策を行う。
    • (a)1862年:ホームステッド法…西部の支持獲得が狙い。5年間西部に定住しただけで、160エーカーの土地を無償で提供する。
    • (b)1863年奴隷解放宣言…内外に北部の戦争目的の正当さをアピールすることがねらい。
  • 1863年 最大の激戦となったゲディスバーグの戦い以降、グラント将軍の北軍が優勢。
    • リンカン大統領の戦没者追悼演説「人民の人民による人民のための政治」

(5)南北戦争後のアメリ

  • ①黒人問題
    • (a)白人の動き
      • クー=クラックス=クラン(KKK):テロ組織。アメリカ出生主義・白人・プロテスタントの優越を主張して黒人を迫害した。
      • 北部穏健派、連邦の統一を求めて南部白人層を取り込む→南部白人による黒人の政治参加阻止(黒人諸法)
    • (b)黒人差別~奴隷は解放されたが差別は残る~
      • 解放された400万近い奴隷は土地を所有せず → 小作農になるか農業労働者になるしかない。
      • シェアクロッパー制度:土地・農機具・住居・家畜など農業生産に必要な手段を地主から借り受け、収穫物を3分の1~2分の1を地主に支払う分益小作人を使った制度。
      • ※黒人差別が最終的に解消されたのは公民権法が制定された1964年のジョンソン政権の時である。
  • ②西部の開拓と改革運動
    • (a)大陸横断鉄道
      • 1869年、最初の大陸横断鉄道が開通。東部と太平洋岸が連結され、西部開拓が促され、合衆国に経済的・政治的統一をもたらした。
      • 東部から西部:ユニオン=パシフィック社  →アイルランド人労働者
      • 西部から東部:セントラル=パシフィック社 →中国人労働者
    • (b)人民党
      • 1890年代、農民の不満を背景とし、西部と南部の農民が中心となって結成。その後消滅したが、セオドア=ルーズヴェルトの革新主義運動に影響を与えた。
  • ③独占体の形成と移民問題
    • (a)資本主義の高度化と独占段階
      • →トラストの形成:市場に複数ある同業会社を合併・買収することによって市場を一社で支配
      • ロックフェラー…スタンダード石油会社 全米の精油力の90%以上を支配。
      • モルガン…金融と産業界を支配した財閥。
    • (b)労資問題 → 工業化により賃金労働者が増大し、労資問題が発生
      • 資本家の立場:ハーバード=スペンサーの「社会進化論」を信奉。
        • →「神を信じ勤勉を尊びその報酬として富が与えられ、それによって社会が進化する」
      • 労働者の立場
    • (c)19世紀における人口移動
      • ヨーロッパ系…1870年代まではアイルランド系・ドイツ系が中心。19世紀半ばの欧州は工業化の進展と農業の近代化で従来の社会構造がくずれ困窮者が増大。アイルランドのじゃがいも飢饉や1848年の革命の政治混乱によりアメリカに移住した。
        • ※80年代以降はイタリアと東欧からの移民が多数派となりユダヤ人も流入した。
      • アジア系…クーリー(苦力)と呼ばれるインド人や中国人の移民。奴隷制の廃止に伴い低賃金肉体労働で労働力を補完した。中国人移民はカリフォルニアなどの太平洋岸に居住し、大陸横断鉄道の建設を担った。