世界史教育の研究

世界史教育が孕む問題と主題学習

世界史教育が孕む問題として、内容面では世界史像をどう構成するか、方法面では高校世界史の学力観をどう捉えるかがある。
前者を解決するには、学習指導要領は様々な世界史像の一つであり各教科書には独自の世界史像が存在するので教師自身が自分の世界史像を形成しなければならない。後者では、受験世界史のための講義形式(教科書を読み板書を写しプリントの穴埋めをする)を乗り越え、生徒主体の授業を構築するため、評価方法を見直し、空欄補充の穴埋めではなく論述やレポート、ポートフォリオや発表学習などへの学力観の転換が必要である。このように考えると、歴史的思考力の質が変容していることが分かる。このような問題、つまり世界史像の形成と学力観の転換に応えることができるのが、主題学習である。

主題学習関連

世界史主題学習の趣旨は昭和35年版以来、一貫して歴史的思考力の育成である。しかしながら、学習指導要領が提示する主題学習における歴史的思考力の質・学力観は変容している。平成11年版では、主題学習は生徒の興味関心を喚起することと現代世界の諸問題を考察することが目的となった。このことを指して平成11年版の学習指導要領の解説では主題学習の一層の充実と述べられたが、残念ながら世界史未履修問題が起こってしまった。この原因は、受験世界史ではない必修世界史の教室でも、終わることのない通史を終わらせることに始終しているからである。教師が自分の世界史像を形成することなく、学習指導要領・教科書の世界史像のみが唯一のものであると盲信し、教科書を終わらせることが世界史学習であると思っているのである。世界史像は多様であり、教科書を教えるのではなく、教科書で、歴史的思考力を培う世界史像を教えなければならない。これに適うのが平成21年版で提唱された主題学習である。この主題学習を生かし、教師が教科書や学習指導要領に盲従するのではなく、能動的に授業を行うためには、かつての主題学習についての先行研究の分析が不可欠である。

  • http://d.hatena.ne.jp/mm00mm/20091209/p1
    • 平成11年版に触れつつ、平成元年版までの学習指導要領・先行研究・教科書を整理・分類している論文。主題学習の研究にはまずこれを読んだらよいと思う。平成11年版に基づく研究の整理・分類はされていないので研究の余地がある。2003年。
    • 主題学習の起源としての問題解決学習という説があるため昭和22年版東洋史西洋史、昭和27年版、昭和31年版も分析する必要があろう。

内容面:世界史像の形成

戦後、高校世界史は昭和22年に東洋史西洋史として始まった。それが昭和24年に日本史が導入されたために世界史と日本史という歴史教育になった。学習指導要領もなく、教科書もない状態で世界史は開始されたのである。そして昭和27年に初めて高校世界史の学習指導要領ができた。それ以来、日本史・東洋史西洋史の三区分法を克服するため、学習指導要領・教科書・教師・研究職において様々な世界史像が形成されていく。このため、どのような世界史像が形成されたかを分析することが必要である。このような多様な世界史像は、しかしながら逆説的悲劇を呼ぶ。教師や研究職の善意による世界史像の模索は、生徒にとっては覚えなければならない地域や用語が増えただけであった。学習指導要領は世界史像の一つとして「文化圏」というものを昭和35年版で構想として打ち出し、昭和45年版から内容構成原理に据えたが、文化圏は曖昧で膨大になりすぎ平成11年版では「地域世界」の世界史像にとってかわられた。現在は世界史像を丸暗記するのではなく、歴史的思考力を培うための世界史像の構築が求められている。

方法面:学力観の転換

平成元年版から世界史は必修でありすべての高校生が学ぶことになっている。高校生の大学など進学率は約5割(文科省の学校基本調査では平成20年で50.2%)で、半分は進学しない。また受験で世界史を使うものはそのうちの数割である。それにも関わらず、受験世界史の教室と必修世界史の教室で授業方法にはあまり差異がないといわれている。教科書を読み、板書を写し、プリントを穴埋めするのだ。A科目でもB科目でも教科書を終わらせることのみにとらわれている。このような授業方法しかとれないことに対して、鳥越氏(前掲)は「世界史教育に関わる者は、ほとんどが地理や歴史が好きで、その意味では講義形式の授業に対応でき、暗記にも拒否反応を示さないという学生生活を送ってきている。従ってそのような授業形式に問題意識を持たないし、またそれ以外の授業形態を想像・展開できない」と分析している。平成21年版世界史主題学習ではPISAの影響により学力観の転換を匂わせる観点が登場したので、それを活かす教師の主体性が必要である。そのためには、かつてどのような高校世界史の学力観が提唱されてきたかを分析する必要がある。

大学院での講義の一環で高校生に授業実践をした時のメモ

高校3年生の受験世界史選択クラスが対象であったため、講義形式の板書の形態で授業をした。問答法の形をとり生徒に思考をうながすようにつとめたが、やはりこの授業実践は受験世界史クラスであったから実現可能であったのだろう。必修世界史の教室における授業を如何にするかが問題である。