雑録

世界史「主題学習」についてのメモ

世界史学習の問題点とは

  • 教科内容
    • 「世界史」が想定する世界とは何か?
  • 指導方法・学習方法
    • 講義形式:解説中心主義(板書、パワーポイントによるスライド、プリント、レジュメなど)
    • 活動形式:課題解決学習、ジグソー学習、討論(ディベート)、発表学習、レポートなど

世界史「主題学習」は世界史学習の問題点を克服できるか?

  • 内容の再構成
    • 学習指導要領とは異なる観点からの歴史解釈・歴史叙述
      • 海域圏、交易圏、ネットワーク、人物史、外交史、国際関係史、人の移動、モノから見る歴史など
  • 歴史を通して身に付けることができる能力・技能
    • 能力…因果関係、変化と連続、意義と視点
    • 技能…通時と共時、時間軸と空間軸、個別具体と普遍抽象、解釈と根拠、同時代に歴史を経験することと総体として歴史を把握することの違いなど。

3.世界史「主題学習」の研究

  • (1)「主題学習」の先行研究を分析し、問題点と課題を抽出する。
  • (2)学習指導要領において、どのように「主題学習」が位置づけられてきたかの変遷を追う。
  • (3)学習指導要領の内容構成がどのような原理でなされてきたかを分析する。
  • (4)現行の教科書(平成11年版学習指導要領に基づく教科書)における「主題学習」の取り扱いを分析する。
  • (5)「主題学習」で扱う「主題」の設定方法を考察する。
  • (6)授業開発として実際に「主題学習」の授業を作り、協力校で授業実践を行う。

4.概要

(1)先行研究の分析 主題学習の問題点・課題
  • 歴史学的に意味のある主題を設定しても、生徒は余程歴史に関心がない者以外は興味を示さないため、主体的な学習にはならないということ。
  • 平成元年版学習指導要領まで文化圏学習の構成をとっていたため、系統的通史学習の補完的位置づけに主題学習が陥っていた。
  • 学習方法が学習指導要領において不明確であった。平成11年版はこれらの課題を克服しようとしたとされたが、逆に導入と終結でのみ主題学習を行うことになった。
(2)学習指導要領における主題学習の位置づけとその変遷。
  • 主題学習の登場
    • 昭和35年版学習指導要領では世界史がA科目とB科目に分化。
    • A科目もB科目も内容は変わらず、違いは主題学習をするか否か。B科目では行う。
    • 主題学習が設置された意図は、B科目において歴史的思考力を培うため。
  • 文化圏学習と主題学習
    • 昭和45年版学習指導要領から、内容構成が「文化圏」に基づくものになる。「世界史」が各文化圏の寄せ集めになり、分断化してしまうと危惧された。
    • そのため、比較考察や接触交流など「世界」の横断史的なつながりを意識させる必要が生じた。ゆえに、主題学習では比較考察、接触交流をテーマとするようになった。
  • A科目における「横断史」の重視とB科目における「社会史」の登場
    • 平成元年版学習指導要領では、昭和35年版以来、A科目とB科目に分化。
    • A科目の主題学習…文化圏学習を取らない。横断史で構成され、前近代が多彩な小テーマ学習、近現代は大きな主題で学習する。
    • B科目の主題学習…従来の文化圏学習。昭和53年版で扱われた主題「文化人類学」の項目が消え、社会史へと変わる。→過去の社会の実態、人々の日常、人々の感性や意識を取り上げ、共感をもって、学ばせる。
  • A科目における「交流圏」という概念の登場、B科目での位置づけの変化
    • 平成11年版学習指導要領も平成元年版に続いてA科目とB科目。
    • A科目の主題学習…前近代の学習に「交流圏」が取り入れられ、そこで主題学習を行う。
    • B科目の主題学習…文化圏学習が消滅。主題学習は「世界史への扉」と「地球世界の形成」で行う。
  • 歴史的諸能力を育成するための主題学習
    • 平成21年版学習指導要領も世界史はA科目とB科目。
    • A科目の主題学習…導入部における「世界史へのいざない」、「探究」をねらいとする主題学習の登場。
    • B科目の主題学習…各単元で主題学習を行う。歴史を通して身に付く能力の育成を重視。
(3)学習指導要領の内容構成の変遷
  • 世界史誕生以前
    • 昭和22(1947)年版高等学校学習指導要領「西洋史」、「東洋史」(試案)
      • →「世界史」という科目はない。過去を参照する東洋、進んだ西洋という認識で構成されている。
  • 世界史の誕生
    • a)昭和24(1949)年、高等学校教科課程改正により社会科の選択科目として「世界史」が登場。
    • b)昭和26(1951)年改訂版(昭和27.3.20) 中学校・高等学校学習指導要領社会科編?(b)世界史(試案)
      • →学習指導要領で初めて「世界史」が登場。内容構成は前近代・近代・現代。問題解決学習重視。

 

  • 系統主義へ転化
    • a)昭和31(1956)年度改訂版(昭和30.12.26) 高等学校学習指導要領社会科編(昭和31年4月施行)「世界史」
      • スプートニクスショックにより問題解決学習を中心とする初期社会科は「這い回る社会科」と批判され、系統主義となる。
      • →系統的な「世界の流れ」が国家により提示される。前近代を専制国家のアジアと民主主義のヨーロッパに対比させ、近代化したヨーロッパにアジアが植民地化されたという世界史像である。
    • b)昭和35(1960)年版 高等学校学習指導要領解説(昭和35年10月施行)「世界史A」「世界史B」
      • →昭和31(1956)年版と同様に系統主義。A科目3単位、B科目4単位。両者とも構成は同じでB科目は1単位多い分、歴史的思考力を培うため、主題学習を行う。
  • 文化圏学習の登場
    • a) 昭和45(1970)年版高等学校学習指導要領(昭和48年4月施行)「世界史」
      • →西洋中心主義を是正するために、世界を「文化圏」ごとにまとめる。しかし「文化圏」は16世紀までで、大航海時代以降は近代化したヨーロッパがアジアの専制国家に進出するという世界史像であった。
      • →「文化圏」という枠組みにより、「世界史」ではなく各国史の寄せ集めとなる懸念が発生。
    • ・b) 昭和53(1978)年版学習指導要領(昭和57年4月施行)「世界史」
      • →「文化圏」の下限を18世紀まで引き下げ、アジアが植民地支配を受けるのは19世紀の帝国主義からであると世界史像を是正。
      • →「文化圏」の下限が18世紀までになったことにより、さらに世界史が分断化される恐れ。
  • 平成時代の世界史
    • a) 平成元(1989)年版高等学校学習指導要領(平成6年4月施行)「世界史」
      • →社会科解体、世界史必修化、横断史的な世界史A、文化圏学習の続く世界史B
    • b)平成11(1999)年版高等学校学習指導要領(平成15年4月施行)「世界史」
      • →いわゆる狭義での「ゆとり」教育(高校では2003年度4月入学の高1〜2014年度3月卒業の高3、生年月日でいうと1987年4月生まれ〜2000年3月生まれ)
      • →世界史Aでは「交流圏」概念の登場。世界史Bでは文化圏学習から「諸地域世界と世界の一体化」。
    • c)平成21(2009)年版高等学校学習指導要領(平成25年4月施行)「世界史」
      • →知識の習得・知識の活用・知識の探究という3段階や、教科科目を通しての能力育成の重視。
      • →世界史Aは近現代史重視、世界史Bは引き続き「諸地域世界と世界の一体化」。
(4)平成11(1999)年版高等学校学習指導要領に基づく教科書の分析
  • 2010年当時、現行で使用されている教科書がどのように主題学習を記述しているかを分析した。
  • テーマ解説にすぎない教科書が多い一方で、清水書院など学習方法の提示や主題学習の意義を唱える意欲的な教科書も見られた。
(5)主題学習で取り扱う主題(題材)について
  • 実際に授業実践を行うにあたり、どのような主題が適切であるかの検討を行った。
  • 2010年当時は、平成11(1999)年版学習指導要領に基づく主題学習。
    • →「世界史への扉」、「地球世界の形成」で扱う。
  • 題材選択基準(平成11年版学習指導要領では以下の基準で主題学習を行うよう規定されていた)
    • →内容(1)世界史への扉
      • 世界史における時間と空間…時計,暦,世界地図,都市図などから適切な事例を取り上げて,その変遷や意義を追究させ,人々の時間意識や空間意識が時代や地域により異なることに気付かせる。
      • 日常生活に見る世界史…衣食住,家族,余暇,スポーツなどから適切な事例を取り上げて,その変遷を追究させ,日常生活からも世界史がとらえられることに気付かせる。
      • 世界史と日本史とのつながり…日本と世界の接触・交流にかかわる人,物,技術,文化などから適切な事例を取り上げて,接触・交流の具体的様相を追究させ,日本列島の歴史と世界史との密接なつながりに気付かせる。
    • →内容(5) 地球世界の形成
      • 国際対立と国際協調…核兵器問題,人種・民族問題,第二次世界大戦後の主要な国際紛争など,現代の国際問題を歴史的観点から追究させ,国際協調の意義と課題を考察させる。
      • 科学技術の発達と現代文明…情報化,先端技術の発達,環境問題などを歴史的観点から追究させ,科学技術と現代文明について考察させる。
      • これからの世界と日本…国際政治,世界経済,現代文明などにおいて人類の当面する課題を歴史的観点から追究させ,これからの世界と日本を展望させる。
  • 「知識の活用」
    • →2018年現在では、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)が学習指導要領の改訂方針として挙げられているが、2010年当時はその前段階である「知識の習得・活用・探究」が唱えられていた。
    • →具体的には、主題(問い)を設定し、その問いを解き明かして結論に至る探究の中で、資史料や地図、表やグラフなどを扱う技能や、主題の答えをまとめたり報告・発表したりする言語能力を育成することが目指されていた。(現在も2018年2月公示高等学校学習指導要領案では似た理念が取り入れられている)

 

  • 「グローバル・ヒストリー」
    • →2010年当時、世界史は各国史の寄せ集めではないとして、国民国家体制の枠組みを超えて、俯瞰的に歴史を把握しようとするグローバル・ヒストリーがブームとなっていた。
    • →特に「物」から見る世界史は、生徒の興味関心を引きやすく、「世界史の扉」で実践することが求められていた。
(6)授業開発・授業実践
  • 実際に授業案を作成し、協力校で実施した。
  • 行った授業→主題学習「なぜ、世界各地へタバコは広まったのか?」
    • 第1時:なぜアメリカからヨーロッパへタバコが伝播したのか?
    • 第2時:なぜヨーロッパへ伝わったタバコが世界で受容されたのか?
    • 第3時:なぜ北アメリカ大陸でタバコ栽培に成功したのか?
    • 第4時:なぜ東南アジアにおいてタバコ栽培が行われるようになったのか?
  • 主な授業内容
    • 第1時:なぜアメリカからヨーロッパへタバコが伝播したのか?
      • アメリカ大陸における原住民のタバコ消費 → 儀礼的なものから医学的なものまで様々な役割があった。
      • ヨーロッパはタバコ消費の様々な役割の中から「医薬品」として受容され、広まった。
      • ヨーロッパ諸国がアメリカ大陸に進出した要因。
      • タバコ以外の新大陸からの影響。
    • 第2時:なぜヨーロッパへ伝わったタバコが世界で受容されたのか?
      • タバコはヨーロッパにおける消費で医薬品としての価値を強め、ヨーロッパ勢力の各地への進出とともに広まった。
      • タバコが各地へと広まったのは、16世紀から17世紀初頭。(所謂大航海時代)。
      • タバコの世界各地への伝播には、主にスペインとポルトガルによる2つのルート。
      • スペインはアカプルコ貿易…スペイン→メキシコ→マニラ→アジア
      • ポルトガル喜望峰経由…ポルトガル喜望峰→ゴア→マラッカ→マカオ
    • 第3時:なぜ北アメリカ大陸でタバコ栽培に成功したのか?
      • 北米大陸においてイギリスは、当初なかなか植民を成功させることができなかった。
      • 初めて成功したのが、ヴァージニア植民地であり、それはタバコ栽培が軌道にのったから。
      • タバコ栽培を担った労働形態の変化
      • 当初白人年季契約奉公人がその労働力を担っていたが、徐々に黒人奴隷に、労働力が転換していった。
      • 大西洋三角貿易
      • アフリカにおける黒人奴隷を北米大陸に輸出し、タバコをはじめとする生産物をヨーロッパに輸出。
      • 大西洋世界の形成。
    • 第4時:なぜ東南アジアにおいてタバコ栽培が行われるようになったのか?
      • 16世紀…大航海時代は、ヨーロッパは既存のムスリムによる交易ネットワークへの参入したに過ぎず、港湾周辺を拠点とするだけであった。
      • 17〜18世紀…国際交易ブームが沈静化(アジア諸国の安定と貿易統制政策)。交易だけでは利益を生み出せなくなり、プランテーション経営が始まる。タバコのプランテーションが主力となったのが、蘭領東インドと西領フィリピン。
      • 19世紀…帝国主義と植民地経営が結びつく。工業化を果たしたヨーロッパは、工業製品の市場と、資本の輸出を求めており、植民地経営をより活発化させ、タバコ栽培も活発化する。
      • なぜ16世紀にはヨーロッパ諸国が東南アジアを植民地化しなかったのか/できなかったのか。
      • 19世紀にタバコプランテーションが盛んになった理由→東南アジアのプランテーションでの労働力を担ったのは、華僑や印僑などの労働力。19世紀、交通網と電信の発達により労働力の国際ネットワークが成立。