「世界史A」教科書分析 各出版社分析

これまでの学習指導要領における「世界史A」の主題学習の特徴を考察すると、主題学習は「興味・関心」を高める主題学習と、「課題追究・課題探究的な学習」としての主題学習の二つに分類することができる。よってここでは、「世界史A」の教科書記述における主題学習を分析する際の視点として、以下の二つの観点から考えることにした。すなわち、「興味・関心」、「課題追究・課題探究」の二点である。さらにその3つの視点を念頭に置き、教科書において学習指導要領とどのように対応しているか、記述に割かれているページ数はどのくらいか、主題として取りあげられている内容は何か、平成21年版学習指導要領とのかかわりはどうかについて考えることにした。そして最後に教科書独自の特徴について触れた。

興味・関心に関する記述について
  • 学習指導要領との対応
      • 平成11年版学習指導要領の解説において、興味・関心を高めることを目的として、内容(1)「オ ユーラシアの交流圏」(ア)〜(エ)で提示されている主題学習に関して、教科書において主題を設定する学習を設けているのは1社のみで、岡崎勝世他編著『明晰新世界史A』(帝国書院、2010年1月20日発行)が該当する。その他の教科書でも学習指導要領で例示されている主題(『アラビアン=ナイト』の船乗りシンドバッドの航海、マルコ=ポーロの航海、フビライを助けたムスリム商人、イスラーム文明の流入とヨーロッパ世界の文化変容、新安沖沈没船)の図版や資料を掲載しているものがいくつか見受けられるが、帝国書院以外のものは主題学習として取り扱っていない。
  • 記述ページ数(帝国書院)
    • 1テーマ2ページ分で4項目なので計8ページ分が主題学習に関する記述に割かれている。
    • 「東アジア海域とユーラシア」の項目2ページ分では、2つの主題が設定されている。
    • 各テーマとも、主題学習と共に該当する交流圏に関する解説が記述されている。
  • 内容

帝国書院の『明晰新世界史A』では、学習指導要領内容(1)オに該当する部分の教科書記述に主題を設定する学習が存在し、問題提起とともに考察させるようになっている。以下、具体的に関係する記述を引用する。

    • 1海域世界の成長とユーラシア
    • 2遊牧社会の拡大とユーラシア:テーマ「マルコ=ポーロの足どりをたどる」「13世紀、マルコポーロ…旅の行程を見ながら、当時のユーラシアの交易のようすを見ていこう。また、マルコ=ポーロには「かれは実在しない」、「『世界の記述』はイタリア商人たちの情報の寄せ集め」などとの説がある。なぜこのような説があるのか、地図上に示した旅の行程やマルコの行動の記述から考えてみよう」
    • 3地中海海域とユーラシア
      • テーマ「イタリア商人の活躍と地中海交易」「14世紀の地中海交易では、イタリアのヴェネツィア人とジェノヴァ人が活躍した。交易ルートを地図で確認し、かれらがどのあたりまで航海し、どのような物を手に入れ、商売を繁盛させていたのかを考えてみよう。」
    • 4東アジア海域とユーラシア
      • テーマ?「倭寇頭目 王直」:「14〜16世紀、中国の明を悩ませた勢力に倭寇があった。…その最大の頭目である王直の生涯から倭寇の活動範囲と内容を見てみよう。」
      • テーマ?「中継ぎ貿易で繁栄した琉球」:「琉球王国は中国・朝鮮・日本・東南アジアを結ぶ交易の拠点として栄えた。…日本が鎖国したのちも、日本の中国交易の窓口となるなど重要な役割を果たした。琉球の交易ルートを地図から読み取ってみよう。」
  • 平成21年版「世界史A」内容(1)「世界史へのいざない」との関わり
    • 平成21年版「世界史A」では、自然環境、人、もの、芸術、文化、宗教、生活などから適切な事例を取り上げて主題学習を行なうようになっている。これに関してのことであるが、多数の教科書においてコラムやトピックとして人物学習やものから見る歴史、日本史との関連付けが多々見られた。これは、平成21年版の学習指導要領と関連していると考えることができる。
課題追究・課題探究的な学習に関する記述について
  • 学習指導要領との対応
    • 平成11年版学習指導要領「世界史A」の内容の取扱い(2)エ(イ)において、内容としては最終項目である内容の(3)の「オ 地域紛争と国際社会」と「カ 科学技術と現代文明」で課題追究的な学習が設定されている。各社の教科書とも最終部分に、この主題を設定して追究する学習が扱われている。よって、ここでは記述ページ数、扱われている内容、主題学習の方法を横断的に分析する。
  • 記述ページ数と質的傾向
    • 学習指導要領に該当する記述に割かれているページ数は少ない教科書で1頁(実教)、多い教科書で12頁(桐原)あったが、質的に異なるのでページ数で安易に図ることはできない。すなわち主題学習を実際に行いその方法論を例示している教科書(清水・帝国)もあれば、概説の分量は多いが概説中心で脚注に問題提起を載せる程度のもの(桐原)もあり、きわめて質・量ともに薄いもの(実教『世界史A改訂版』)では問題提起や課題追究もなく1頁の説明文で済ませているものもあったからである。また、山川の『現代の世界史』では、主題学習の意義にまで踏み込んで教科書記述がなされている。
    • このなかで特筆すべきなのは、主題学習を実際に行なった例を示し、生徒が主題を設定して追究する学習とはどのようなものか分かるように記述した清水書院帝国書院のものであろう。
  • 内容
    • 主題を解説する教科書記述の内容では民族紛争ではユーゴ問題が3社(東書、清水、山川『現代の歴史』)、チェチェン問題も3社(帝国、第一、山川『世界の歴史改訂版』)と一番多かった。他にはスーダン(第一、山川『世界の歴史改訂版』)が取り上げられていた。
    • 科学技術と現代文明では、核、環境、生命倫理などを内容の特徴としてあげることができよう。
  • 平成21年版「世界史A」「探究」学習との関わり
    • 平成21年版の関連では、主題学習の方法論や「探究」との関わりが見いだされる。「探究」とは平成21年版の解説に拠れば「生徒の発想や見方、疑問をもとに生徒自らが主題を設定し、これまでに習得した世界史の知識、技能を用いながら、歴史的観点から諸資料を活用して主体的に考察する活動」であるが、諸資料を手に入れるための情報へのアクセスを重視した教科書が多く見受けられた。すなわち、インターネットや新聞、テレビ、図書館などの活用である。また、活動としてレポート、話し合い、プレゼンテーションなどの活動について扱う教科書もあった。これらは、平成21年版と関係があると考えることができよう。
教科書独自の主題学習
  • 学習指導要領に記述されていない主題学習
    • 実教出版の『世界史A新訂版』においては、学習指導要領で記されていないテーマが主題学習として設定されている。項目は主題学習「断髪易服」である。しかしこれは主題学習と銘うたれているものの、1頁のコラムが掲載されているだけであり、問題提起や課題追究はないし、交流圏や興味関心にも触れられておらずエピソードが挿入されているだけであり、これを用いてどのような学習をするかは分からない。
  • 教科書内容構成上の特質
    • 教科書の内容構成上の特質として、一つのテーマを見開き2頁で編集しているもの(東所、実教2冊)、一つずつテーマを集めて「世界史A」の内容としているもの(実教『新版世界史A』、清水、山川『世界の歴史改訂版』)、章・節の冒頭に問題提起を課すもの(東書、山川『世界の歴史改訂版』)などが見受けられた。