世界史主題学習 1999-2009年の先行研究の分析

主題学習の先行研究を調べると、その殆どが学習指導要領の変遷の概説とその解説に基づく実践報告の提示であり、その他のものも結局は学習指導要領に基づく内容構成論・授業計画論、教科書分析、外国(主に米独)の学習論の輸入である。(http://d.hatena.ne.jp/mm00mm/20090524/p2)

原田(2000)はこのような状況に対し、「主題学習における先行研究の大半は、指導要領の解説や指導要領を踏まえた展開例の提案」であると述べ、自説を展開する。ここではまず原田論文を見た後で、2000年以降の主題学習の研究がどう展開されたかを分析する。

原田論文

平成11年版指導要領の教科調査官であった原田智仁氏は「主題学習再考 ―世界史学習論の批判と創造(2)―」(社会系教科教育学会『社会系教科教育学研究』第12号 2000 pp.1-8)において「主題学習の原理や課題を解明し、また問題状況を改善しようとした数少ない論考である」として4つの先行研究をあげている。その上で、原田氏はそれぞれの特徴を挙げ欠点を指摘する。

  • 内野智司「主題学習の理論と主題の設定」(平田嘉三編『双書 新しい世界史教育2・新しい世界史教育の方法』明治図書、1972、25-35頁)
    • 主として指導計画作成における主題学習と通史学習との関連を論じたもので、主題学習を通史学習の後に位置づける方法と歴史学習の中に組み込む方法の2類型を示し、それぞれの主題設定の基準を考察
  • 河合武「高校世界史「主題学習」の研究」(日本社会科教育研究会『社会科研究』第25号、1976、74-84頁)
    • 主題学習に関する研究と実践の歩みを整理、大きく3つの問題点―主題学習の位置付け、自己展開学習や発表学習との異同、通史学習との関連―を指摘
  • 藤井千之助歴史教育論攷(2)―歴史教育における主題学習について―」(『広島大学研究論集13巻3号、1990、9-35頁)
    • 指導要領の改訂に伴い教科書での主題の取り上げ方がどのように変化したかを分析、歴史的思考力育成の観点から、主題は疑問文の形で示すべきことを説く
  • 宮崎正勝「中等社会科教育における主題学習とエクセムプラリッシュ方式」(『北海道教育大学教育実践研究指導センター紀要』14号、1995、1-11頁)
    • 1950年代の旧西ドイツで定式化された範例方式の理論と方法を踏まえて主題学習を再編すべきことを説き、「アフリカ分割」を例にその展開モデルを提示
  • 上記4つの論文に対する原田氏の批判
    • 河合論文は四半世紀以上前のものであり、内野、藤井両論文は一面的な考察に留まっており、宮崎論文もなぜ範例方式なのか説得力が弱い。

それらを踏まえ、原田氏は、学習指導要領の変遷を辿りながら主題学習が形骸化した原理的矛盾を分析し、平成11年版の学習指導要領がそれらの矛盾を克服していると主張している。そして、平成11年版に基づいた主題学習の授業構成論として「事実記述的方法」と「概念的探求的方法」の二つを紹介し、後者の有益性を説きながら、学習方法論を提示している。だがこれは結局のところ、学習指導要領に即した授業方法論であるように思われるし、原田氏自身も「本研究は高校世界史のあるべき学習論を提起したものではない。指導要領という形で教育課程の基準が示され、それに基づいて教科書検定がなされる現行の枠組みの中で、世界史学習を現実に改革しうる方法論を模索したものである」と述べている。加えて、原田氏が提唱する主題学習の授業構成である「事実記述的方法」と「概念的探求的方法」についても原田氏自身の授業構成論なのか、誰かの教育理論に基づくものなのか、外国の輸入なのか、この論文では読み取ることが出来なかった。

2000-2009年の研究

では、この後2000-2009年においてどのような主題学習の研究が行われたのであろうか。この時期の研究の主なものは、以下の4つがあげられる。

  • 山田 秀和「歴史教育における主題学習の教材構成原理--プロジェクト社会科『合衆国史:コミュニティから社会へ』の分析を通して 」教育方法学研究 28, 107〜118 ,2002
  • 豊島 宏「歴史教育論攷 : 歴史教育における「主題学習」について 」松山大学論集 15(1), 69-127 ,20030401
  • 森 才三「高等学校「世界史」の「主題を設定し追究する」学習 (3) : 「現代の世界」の場合 (第2部 教科研究) 」中等教育研究紀要 45, 199-212 ,20050322
  • 豊島 宏「歴史教育論攷(5)「国際化」時代に対応した歴史教育の在り方について--現代史「核兵器問題」に関する現行高等学校「世界史B」教科書での取り扱いの比較分析及び検証と主題学習授業指導試案 」松山大学論集 20(1), (301) 21〜86 ,2008/4


これらの特徴を述べると以下の通り。山田論文はアメリカの教材から主題学習の教材構成原理に迫るものである。豊島論文(2003)は1965年から1999年までの主題学習の先行研究を学習指導要領の変遷を基準に時期区分して分類し平成11年版の指導要領を賛辞している。森論文は平成11年版学習指導要領に即して終結部における「アメリカの『愛国心』」の授業を提案している(平成11年版は導入部と終結部で主題学習を行なう)。そして豊島(2008)は、「核兵器問題」に関して教科書分析を行い主題学習における授業指導案を提案している。


これらの論文のうち、主題学習の理論的な側面を扱うのは山田論文のみであり、山田は以下のように批判を展開している。山田は、「これまでのわが国の研究のほとんどは、学習指導要領における主題学習の扱い方を概説し、その制度的な変遷を記述する」ものであり「どのような主題を選び、どの歴史的事象を取り上げればよいか、という歴史学視点からの議論に始終」しており、「主題学習の組織のしかたが、明示されることなく、たとえば学習内容を精選できることや、歴史の連続性を捉えさせやすいことなど、表面的直感的な意義」にしか過ぎなく「どのようにして、主題学習を構成するのか、なぜそのように構成するのか、それによってどのような教育的意義が得られるのか、という教育学的視点からの論理実証的研究は行われてこなかった」と述べる。こうして山田は、1968年にミネソタ大学の研究グループが開発したプロジェクト社会科『合衆国史:コミュニティから社会へ』から主題学習の教材構成原理を提案するが、アメリカの一例の分析であり、これは現実の日本の世界史教育には直接的には反映できそうにもない、と思われる。

1999-2009における先行研究の論文一覧

著者名 論文名 雑誌・出版社 年代 論文種類 論文概要 類型 備考
原田智仁 「主題学習再考 ―世界史学習論の批判と創造(2)―」 社会系教科教育学会『社会系教科教育学研究』第12号pp.1-8 2000 理論 主題学習の授業構成論「事実記述的方法」と「概念的探求的方法」 生徒 学習指導要領に基づく現実からの提唱
山田秀和 歴史教育における主題学習の教材構成原理--プロジェクト社会科『合衆国史:コミュニティから社会へ』の分析を通して 」 教育方法学研究 28, 107〜118 2002 理論 アメリカの教材分析から主題学習の教材構成論を説く 内容構成 日本の主題学習教材構成論の具体案は無い
豊島宏 歴史教育論攷 : 歴史教育における「主題学習」について 」 松山大学論集 15(1), 69-127 20030401 理論 先行研究分析 学習指導要領に基づく時期区分 平成11年版主題学習の有益性を説く
森才三 「高等学校「世界史」の「主題を設定し追究する」学習 (3) : 「現代の世界」の場合 (第2部 教科研究) 」 中等教育研究紀要 45, 199-212 20050322 実践 現代史の主題学習 教師と生徒 アメリカの愛国心
豊島宏 歴史教育論攷(5)「国際化」時代に対応した歴史教育の在り方について--現代史「核兵器問題」に関する現行高等学校「世界史B」教科書での取り扱いの比較分析及び検証と主題学習授業指導試案 」 松山大学論集 20(1), (301) 21〜86 2008/4 実践 教科書分析と実践 教師と生徒 核兵器

主題学習の研究をこれからどのように進めるか?

  • 平成21年版の学習指導要領に基づき実践研究をする →結局は同工異曲の主題学習実践報告を量産するだけ。
  • 平成21年版の学習指導要領の内容構成における主題学習の例示を全て網羅した実践研究をする →そんな時間あるのか? やる意味は?
  • 新奇・奇抜なテーマ、それ自体実践することに意義を見いだせるようなテーマで勝負する →価値のあるテーマはあるか?ただのテーマ解説になる恐れあり。
  • 外国の主題学習の輸入をして紹介する →第二外国語できない。輸入する意義が見いだせない。
  • 結局は主題学習は特論みたいな感じで教師が自分の深めたい分野や専門をテーマとする →教科教育ではなく教科専門の副論でやれ!!
  • 主題学習の理論化 →理論なんてあるのか?原田氏の提唱するものが糸口になる?
  • 世界史教育が孕む問題点を抽出し、その問題点に対して主題学習が効果を示すことを論証し、実践報告をする →これが一番妥当か?
    • 世界史教育の問題点は指導方法においては教師主体の教科書読んで板書してプリントの穴埋め指導方法、学習内容においては受験知識瑣末事象丸暗記・通史全て終わらせろな学習内容 →新しき学習指導要領が提唱する主題学習において指導方法は生徒主体です。学習内容は知識の活用です。今までの問題を克服しようとしています →主題学習ってやる意義あるね!!→実践研究報告
    • そもそも主題学習の起源が昭和35年版学習指導要領で我が国固有の画期的な学習方法なんだからどうやって学習指導要領を踏まえた実践報告になるんじゃない?