1 はじめに
- 本稿の目的
- ヘットナー(1859-1941)の地理学について地理教育論の立場からヘットナー/平川他訳『地理学』(古今書院、2001年)を資料に考察する
2 ヘットナー地理学の特徴
- 概略
- ヘットナーによって現代に直接連なる地理学の基盤が形成された
- 地誌学こそが地理学の中心であり、地理学の存在根拠とする
- 客観的・事実的基盤の上に立って、地域性にかかわる因果関係を究明しようとする実証主義的・科学主義的な地理学
- ヘットナーの既存の地理学に対する見解
- リッター
- 評価:完全な科学的体系を整えたこと、地理学の本質(「地理科学が、地域性の相互関係ならびに記載によって地球方面の空間が充填されている限り、とくにその空間を扱う」)
- 批判:地域特有の由来を目的論的にとらえていた点、自然地理的側面が不十分な点
- ラッツェル
- 批判:人類・歴史に対する自然的条件の影響において個々の空間の内容の相違性についてあまり考察がなされていないという点
- 景観地理学
- 批判:地理学の本質は地域性をとらえることにあり、景観だけでは地域性の本質はとらえられないという点
- バンゼ
- 批判:地理学的な科学からかけ離れている、考察が主観的になりやすいという点。また芸術としての地理学は否定。
- リッター
3 地域性の因果連関的解明
- ヘットナーの地理学
- 「地域」を構成する諸要素の因果連関を実証的・科学的に考察し、地域の総合的な性格、すなわち「地域性」を明らかにすること
- ヘットナーの因果連関とは何か
- 地域の構成要素を無機自然界、有機自然界、人類の三要素に分け、この関連について無機自然が根本的要素であるとする。
- 無機自然を決定している要因とは何か?
- 地球の内的営力と外的営力とが地表の様態に影響する根本的要因
- 具体的には?→「水陸の対照や内部構造の差異、そして地形の差異、さらに気候の差異が土地分類の際の基礎」
- ヘットナー地理学の地理教育論の立場からの問題点
- ヘットナーは地理学の中心的テーマを地域性とし、その地域性を科学的な因果関係によって解明しようとする
- しかし地誌学は個別地域に関する知識の記載とみなされる →地理教育地誌学習は地名・物産の羅列的暗記的学習という烙印をおされる
- ヘットナーは地理学の中心的テーマを地域性とし、その地域性を科学的な因果関係によって解明しようとする
4 ヘットナーの地理教育論
(1)地理学的教養について
- ヘットナーの地理学的教養の本質
- 知的教養
- 「地理学的教養の本質は、要するに、地表の限りない多様性や諸国、諸地域の差異を概観し、その原因において理解すること」
- 態度的教養
- 郷土・祖国への愛の育成
- 民族や国家の存在が自然的基盤と深く結びついていることについての意識・態度の育成
- 知的教養
(2)「初等学校、中等学校における地理学」について
- 地理教育カリキュラム論に関する課題1=シークエンス
- 「ヨーロッパから始めて、地球および大陸と海洋、おそらく気候帯を含めた分布に関する簡単な概観へと進み、アジアからアフリカとオースラリア、そして南北アメリカと南極へ進めるのがよい」
- ヘットナーのシークエンス論では、ヨーロッパを学習したあとに地球全体の自然的条件の学習を行なう。
- 地理教育カリキュラム論に関する課題2=地誌学と一般地理学(系統地理学)との関係
- 一般的概念は具体的な事象のなかで、つまり、地誌学習という具体的な学習のなかで取り上げることが最も効果的であるという考え
- ヘットナーの地理教育論
- 地理教育の中心に地誌学習を置き、そのシークエンスとして同心円的なものが妥当であるとした
5 まとめ
- 考察結果
- ?地理学の中心=地誌学、地理学の本質的課題=地域性にかかわる因果関係の科学的・実証的究明
- ?地域構成要素=無機自然界、有機自然界、人類。無機自然界が根本的要素
- ?地理学的教養の本質=地誌的内容の理解
- ?地理学的教養の態度的・実践的側面=郷土愛・祖国愛の育成、自然との結びつきの意識の育成。しかしこのことがどのように導き出されるかについては今後検討が必要
- ?地理教育カリキュラムに関しては地誌学習が重要で同心円的シーエンスが妥当。
- ?地誌学習の根本的意義を論証していないので、羅列的暗記学習に陥る危険性を内包
- ?ヘットナーの欠点を補うには、地理学レベルにおける地理思想・地理哲学と、地理教育レベルにおける人間形成的意義・教育的意義への配慮が必要