雑録

【学習指導要領】高等学校におけるヘリテージ(文化遺産・文化財)を利用した歴史教育について~コンテンツツーリズムの視座から~

コンテンツツーリズムとヘリテージツーリズムの重層性については以前にも述べたが、歴史や文化の継承の手段としてコンテンツツーリズムを役立てることが重要である。コンテンツ目的でやってきたツーリストの方々に、作品だけでなく地域そのものに魅力を持ってもらうことが肝要だ。コンテンツを契機として歴史資源の再発見・再評価が行われるという仕組みである。

そのためにはツーリストに提示するための「歴史資源」についての学習が必要である。再発見・再評価されるべき「歴史資源」がなければどうしようもない。そのため、「歴史資源」を発掘することが大事なのだ。官公庁が主導する小中高での観光教育においては「地域の魅力の発見」の学習が展開されているし(https://www.mlit.go.jp/common/001293097.pdf)、社会教育においては観光立国に資するための事例集が編纂されている(https://www.nier.go.jp/jissen/chosa/rejime/2008/08_kankou/99_all.pdf)。

では、高等学校における教科教育、とりわけ歴史教育の分野では、民俗や文化財などをどのように教えることができるであろうか?ここでは学習指導要領解説から読み解いていきたい。

2018年改訂高等学校学習指導要領解説における「伝統や文化の学習」に関する記述

高等学校の歴史学習に関し「伝統や文化の学習」については、現行の学習指導要領では『日本史B』、2022年度より年次進行で実施される学習指導要領では『日本史探究』において「内容の取扱い」の箇所に記述がある。言い回しが若干異なるが、文言はほぼ変わらない。以下では『日本史探究』のものを引用しておく。

文化に関する指導に当たっては,各時代の文化とそれを生み出した時代的背景との関連,外来の文化などとの接触や交流による文化の変容や発展の過程などに着目させ,我が国の伝統と文化の特色とそれを形成した様々な要因を総合的に考察できるよう指導を工夫すること。衣食住や風習・信仰などの生活文化についても,時代の特色や地域社会の様子などと関連付け,民俗学や考古学などの成果の活用を図りながら扱うようにすること。(268頁)

風習・信仰については,歴史の過程で継承されてきた年中行事,冠婚葬祭,氏神信仰,神仏習合,地域の特色ある伝承,言い伝え,ならわしなどについて,歴史的な視点に立って考察できるようにする。社会生活が農業を中心に営まれていた時代に,様々な社会的背景や人々の精神的なよりどころとして生み出された風習や信仰の中には,現在では本来の意味が変化しながらも,特色ある生活様式や習慣として日本人の生活に溶け込んで定着し,科学文明が発達した現代にあっても,人々の意識や精神生活の在り方と深く関わっているものが少なくない。(269頁)

生活文化の指導に当たっては,各時代の特色や地域社会の生活基盤,生産様式や人々の考え方,自然環境,地理的条件などを踏まえて考察できるようにすることが求められる。そのためには,民俗学や考古学,文化人類学などの成果を活用して教材化の工夫を図り,諸資料を通じて具体的に歴史像を形成できるようにするとともに,身近な生活に見られる一つ一つの事柄が歴史の産物であるという認識に立って,伝統や文化を考察できるようにすることが大切である。(269頁)

ヘリテージと関わる歴史資源については、特に「風習・信仰」が取り上げており、民俗学・考古学などの成果を活用するよう指示されている。また風習・信仰の具体的な事例として七つの事項が挙げられており、それぞれ①年中行事、②冠婚葬祭、③氏神信仰、④神仏習合、⑤地域の特色ある伝承、⑥言い伝え、⑦ならわしなどである。また本来の意味が変化しながらも定着し、現代でも深く関わっていることが指摘されている。コンテンツツーリズムをきっかけに伝統文化や歴史資源が再評価される例も多々あるので、教材として利用できると言えよう。

2018年改訂高等学校学習指導要領解説における「文化遺産」、「文化財」に関する記述

文化遺産文化財に関しては、「諸資料の活用と関係諸機関との連携について」という博学連携の箇所に記載されている。

地域の文化遺産,博物館や公文書館,その他の資料館の調査・見学などを取り入れることで,実物や複製品などの資料と接して具体的で多様な情報を得て歴史の考察を深めることができる。公文書館は国及び地方公共団体が保管する歴史資料として重要な公文書や古文書などの記録を保存し,閲覧や展示など広く国民・住民に提供する施設である。また,図書館などを活用して,地域の歴史に関わる書籍や資料の閲覧・調査や,レファレンス機能の利用など,歴史の学習を抽象的な概念の操作で終わらせずに一層の具体性をもって実体化していくことや,学校の授業のみで終わらせずに空間的には教室の外へ,時間的には卒業後まで継続させ,将来にわたって学び続ける機会や方法についての認識や姿勢を育み,生涯学習へと発展させていくことが大切である。また〔……〕学校図書館や地域の公共施設における文献調査などによる資料の収集も有効である。その際,これらの施設の果たす役割やそこにある諸資料を整理・保存し,利用に供することの意味や意義について考えたり,文化財保護への関心を高めたりして,歴史に関わる諸資料を整理・保存することの意味や意義,文化財保護の重要性に気付くようにすることが大切である。(266頁)

これは博学連携に関する記述だが、実際の文化遺産に触れることで、「歴史の学習を抽象的な概念の操作で終わらせずに一層の具体性をもって実体化していく」効果が挙げられており、卒業後にもつなる生涯学習への発展が期待されている。また文化財保護への関心を高める重要性も唱えられている。

コンテンツツーリズム×ヘリテージツーリズム×エデュケーション

近年コンテンツツーリズムの研究が進展し、個別具体的な事例研究が進む一方で、研究手法が確立してきている。現在、コンテンツツーリズムは事例研究にとどまらず、その成果を活用しようという段階に入ってきている。よく見られる「活用」の研究パターンとしては、鷲宮を筆頭とする「地域振興」からの観点や、コンテンツツーリズムを「ビジネス化」しようというものである。そのような中で、コンテンツツーリズムによって文化遺産に興味を持っていなかった大衆にドライブをかけ、認知・認識を深めるというヘリテージの側面はまだあまり研究に手が付けられていない。さらにそれを教科教育に応用して、文化財文化遺産を地域的意義→国家的意義→社会的意義→歴史学的な意義へと普遍化させ、コンテンツツリーズムを用いた歴史学習の実践を行えば、人材育成にも繋がるだろう。また、教科教育だけでなく社会教育、生涯教育などの分野にもコンテンツツーリズムは資することができよう。