古色迷宮輪舞曲の感想・レビュー

古色迷宮輪舞曲は「妹を救う為に数多の平行世界を渡り歩く」というおはなし。
変えられない因果律を変えるため、足掻く悲劇の果てに、「妹ゲー」へと辿り着く。
プレイヤーは「第三者の審級」となって事象の観測を行い、運命を変えていきます。
クオリア」という用語が繰り返し使用され、この作品の主題となっています。

物語の構成

ゲームのプレイヤーは主人公;名波行人の視点からゲームの世界を認識していきます。当初、名波行人は記憶の引継ぎが行えません。ですが、中盤から記憶の引継ぎが行えるようになります。そうすることで、ゲームのプレイヤーの主観=名波行人の主観と同一視されるというわけです。物語は主に三段階に分けることができます。(1)ループするセカイ時間軸通りに辿るよ編、(2)セカイを歪ませている因子を取り除くよ編、(3)プレイヤーがゲームのセカイの超越者となって、ハッピーエンドへ導くよ編です。


(1)ループするセカイ時間軸通りに辿るよ編(謎の少女サキと一緒に7日間を生き延びる)

まずはループする期間である7日間を時間軸の通りになぞるのが第一段階。。ここでは最後になぜ世界がループし続けるのかが解明されます。それは時間遡行をできるのが名波行人の他にもう1人おり、その人物である姫野美月が過去を変えるために仕組んだものだったからです。姫野美月は幼少の頃、因果律を変えることに失敗した人物でした。美月には双子の妹である美星がいましたが、美星は母親の再婚相手に暴行を受けていたのでした。その暴行事件を変えるために時間遡行を繰り返しましたが、100回繰り返しても過去を変えることはできませんでした。そして、美月だけでなく美星もまた記憶の引継ぎスキルを有していたので、100回暴行の苦しみを受けというわけです。美月は自分が妹を救うという使命感の自己満足的自己陶酔状態にあり、妹の美星が記憶引継ぎスキルで苦悩していることを知りませんでした。そのため、妹は姉の因果律改変の試みによる100回暴行の苦しみの復讐を抱いていたのでした。その復讐として、美星は姉の美月の前で飛び降り自殺。美月は再び因果律を変えるために奔走することになったのでした。

(2)セカイを歪ませている因子を取り除くよ編(因果律を変える少女姫野美月とともに殺戮ライフ)

主人公;名波行人は自分の運命を救いに導いてくれようとした謎の少女サキに惚れこんでいきます。この少女は1周目の7日間の最後の日、名波行人を救う為に自己を犠牲にしたのでした。この少女を救うため、名波行人は姫野美月の陰謀に協力していくことになります。姫野美月が因果律を変えるために選んだ手段は、他人の「運命量」を吸い取って過去へ跳躍することでした。他人の「運命量」を吸い取るには、劇的なイベントの体験が必要とのことです。ここでは「クオリア」という用語が重視されています。作中の言葉では「感覚質。心的生活のうち、内観によって知られる現象的側面」として説明されています。つまり時間遡行と平行世界渡航を繰り返しながら、ヒロインたちを惚れさせたり、殺したり、犠牲にさせたりするのです。「例え見ているものが、感じているものが違っても同じ事象が同じ空間に存在するパラドックスを観測すれば限りなく同一のクオリアを覚えさせられる」として、運命量を掻き集めていきます。ですが結果として、美月の因果律への抵抗は独りよがりのものであり、妹の暴行の苦しみを理解していないものでした。妹は最後にその苦しみを吐露して自殺しますが、平行世界の旅路の果てに、名波行人は美月の時間遡行による因果律の改竄の試みを止めることに成功したのでした。こうして、美月が美星を助けるために行っていた世界の歪みの一つを除去することになりました。


(3)プレイヤーがゲームのセカイの超越者となって、ハッピーエンドへ導くよ編


美月の大量殺戮を乗り越え、とうとう名波行人が目的を達するターンです。名波行人の目的はもう一度「サキ」に会うこと。そもそもの問題は「サキ」という存在が二人いることでした。ひとりは例の銀髪のサキで、もうひとりは名波行人の実妹で赤髪の七波咲でした。両者は同一の存在でしたが、最初は実妹の存在が明らかにされておりません(美月の殺戮劇場から出てくる)。名波行人は「サキ」に特別な感情を抱いていましたが、それに対し名波咲は面白く思っていなかったのでした。美月の因果律の改竄が除去された後、名波行人と名波咲の平穏な生活が続きました。しかしそれでもやはり1週間何もしないと名波行人は死亡し、何かすると名波咲が死亡するのでした。どうしたらいいのでしょう。ここで名波行人は自分の脳みそをピストルで打ち抜くふりをします。こうすることで、ゲームの中のキャラクターである名波行人の内観と、ゲームをプレイしているプレイヤーの内観が切り離され、プレイヤーに助力を請うという展開になるのです。『俺たちに翼はない』でも使われていた表現でしたね。こうしてプレイヤーは「第三者の審級」として確立させられるわけです。その結果、「サキ」という少女は、名波咲が発熱で倒れた際に自分が死んでしまうと早とちりして「やり直したいと願ってしまった」ことにより具象化した存在であるらしいことが分かります。ここで事象の観測のおはなし。物事には数多の可能性があるが、それは人が認識して初めて確定するのだということです。『猫撫ディストーション』や『素晴らしき日々』でも扱われているモチーフですね。「可能性から選択し、決めるのは咲―お前なんだ!!」と未来への可能性を認識させ、確定させます。こうして名波咲が生き残るセカイが確定されてハッピーエンドになるのでした。ちなみに美月さんは過去に遡航して美星と入れ替わり自分が100回の虐待を受けることで、美星と和解することができました。


エンド後のセカイ


このゲームをしたプレイヤーは、作中では「あなた」という役割を背負うことで、作品に参加することになりました。プレイヤーはフローチャートでメタ的にセカイを把握することができたのですが、作中の人物で主人公のバイト先の店主である古宮舞さんもセカイを認識していた人物であったとされています。だから「古」色迷「宮」輪「舞」曲(ふるろめいきゅうろんど)で古宮舞。主人公くんである名波行人は実妹エンドを迎えたわけですが、プレイヤーは舞さんエンドとでもいいましょうか。エンド後に形而上学的な存在である舞さんと対話?することが可能になります。仮想世界のキャラとディスプレイ越しの対話?というのも妙な気分になるものだ。