2019年発売のノベルゲームまとめ

2019年に発売したノベルゲームのうち、実際にプレイした製品版のまとめです。
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【目次】時系列順

『その日の獣には、』 (minori) (2019-01-25)

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演劇を題材にした話です。代償と引き換えに願い事を成就させてくれる悪魔的存在の力を借りて演劇を成功に導こうとします。演劇の能力はそれなりに高いが、それ故に高慢でワガママな振る舞いをするヒロインを受け入れられるかどうかで評価が分かれそう。演劇の能力の高さもあくまで「それなり」なので、すぐに嫉妬に駆られ周囲に不満を撒き散らしていきます。やっていてとても痛々しい。またminori作品はよく体験版がクライマックスと言いますが、本作も同様でありヒロイン同士でほっぺたをビンタしているあたりが最高潮となります。それ以降は特に目新しいものもなく、主人公の母親が書いたとかいう脚本に話が移っていき、メインヒロインが悪魔的存在の本質を見抜いて救済し、問題が解決されます。minoriはメーカー解散の理由として自分たちが表現したいことがプレイヤーに伝わらなかったとしてプレイヤーの感性を嘆いていますが、シナリオの内容的に熱意ある主題を深められていたかと問われると疑問視せざるを得ませんでした。

 

『さくら、もゆ。 -as the Night's, Reincarnation-』 (FAVORITE) (2019-01-31)

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輪廻転生を繰り返して因果律の書き換えを行い、ハッピーエンドの世界線を掴み取ろうとする話です。個別ルートもそれなりにボリュームがありシナリオも読みごたえがあるのですが真骨頂はグランドルート。度重なるループに加えて主人公の交代劇と視点変化ギミックが散りばめられており、最良の結末を求めて何度でも繰り返す根気が必要とされます。主人公には二人の大雅がおり、大雅Aも大雅Bも片方が犠牲になることで、もう片方が幸福な世界線を歩むのですが、一生を終えた後にその犠牲を認識し、最終的に二人とも救われる世界線を目指すことになります。おススメポイントは主人公とヒロインが自分はこの世界にとって無価値であり生まれてこなければよかったと悔いているところ。そんな少年少女がお互いの生存理由を肯定し、「きみがこの世界に生まれてきてくれて、本当に、よかった」をするところは感動を演出しています。

 

『金色ラブリッチェ -Golden Time-』 (SAGA PLANETS) (2019-02-22)

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前作のテーマを全否定したことで有名になったファンディスク。前作ではホスピスの死生観として「人生の黄金期」である「Golden Time」を主題に僧間理亜が死ぬまでを丁寧に描きだしました。しかし、体験版発表時からライターが作中で続編に対して否定的なテキストを展開していたため、ファンの間ではライターは乗り気ではなく無理矢理書かされているのではないか?という懸念が生じていました。それ故、もしかしたら僧間理亜存命ご都合主義エンドになってしまうのでは?と危惧されていました。その予感は見事的中し、僧間理亜がアッサリと存命し親子三人でハッピーエンドを迎えます。前作で丁寧に描き出した死生観とは一体・・・。さらにファンディスクにおける理亜√は「これから生まれてくる赤ちゃんのために母体を犠牲にできるか」というテーマであったため、そのテーマもぶん投げてしまうことになり、前作のプレイヤーたちは愕然としたものでした。そして主人公が妹のために野球部を退部することになった件はどのルートでも取り上げられなかったという・・・。ミナルートなんて主人公の人生の生き甲斐についてテーマとしていたのだから野球部問題を取り上げてくれても良かったのにと思いました。

 

『イブニクル2』 (ALICESOFT) (2019-02-22)

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イブニクルシリーズは永遠に続けられる設定として箱庭システムを取っています。すなわちセカイは形而上学的存在は生み出した箱庭であり、幾つもの箱庭セカイが無数に存在しているのです。そしてそれらのセカイは形而上学的存在によって恣意的に不当な目にあっており、発展が阻害され抑制されています。登場人物たちは当初、自分たちのセカイを救うために立ち上がるのですが、次第にセカイの真実に気づいていきます。主人公にしか治せない「2」では様々な不治の病を治していくことが目的です。そして自らのセカイを救った後に、本当の自立を図るために形而上学的存在に挑む!俺たちの戦いはこれからだ!というところで作品が終わる仕様になっています。それぞれの箱庭セカイを統御するのはクイーンドラゴンという存在で、このクイーンドラゴンが各箱庭セカイで形而上学的存在に対抗できる勢力を育てています。イブニクルもシリーズが進めば、各ナンバリングの主人公やヒロインが結集し、形而上学的存在との戦いが繰り広げられるのでしょう。ランス10みたいに!イブニクルシリーズはマップ全体を駆け巡れるところにRPGの面白さがあるのですが「2」では余りにもお使いRPG的な要素が多く、シナリオに全く関係が無いのに同じダンジョンやマップをひたすら往復するだけという行為をしなければなりません。根気が必要です。

 

『青い空のカミュ』 (KAI) (2019-03-29)

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哲学ゲー。不条理を唱えたことで有名なカミュを題材にした話。話の流れとしてはゾンビに襲われ逃げ惑う少女たちの百合友情を描くが、そこから世界の不条理に関する内容へと展開されていきます。世界観に関して「世界はさ、なにも考えていなんだと思うの。悪意とか、善意とか、そういうのはきっとないんだ。でも、ただ通り過ぎるだけで、わたしたちはそれに振り回される。」と評しており、世界を不条理と捉えています。しかしながらそのような無限の労苦のような世界の中で幸福を見つけることができるのがカミュの醍醐味。『シーシュポスの神話』タイムですね、分かります。自分のせいではないのに理不尽にさらされるセカイで生きていくことの肯定であったりもします。さらにはカミュ=サルトル論争もシナリオに組み込んでおり、「完璧な自由と完璧な正義は両立しえるかどうか」という問題について、暴力革命を否定するカミュの思想の勝利に導いています。

 

『ALPHA-NIGHTHAWK』 (Liar-soft(ビジネスパートナー)) (2019-03-29)

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近未来宇宙SF。設定はすごく面白く、内容も充実しているのに、これから物語が始まる!という時点で幕引きとなり投げっ放しエンドになってしまった作品です。それ故、設定が単なる舞台装置に過ぎず、セカイ系としての商品に陥ってしまいました。ヒロインは技術は確かなものの生まれついての絶対的な能力値限界によりこれ以上出世を望めない少女。宇宙から地球に来たことで存分に腕を振るえるかと思いきや、決してそんなことは有りませんでした。それを救ったのが過去において脛に疵持つ男性であり、少女は男性に導かれながら成長していくことになります。そしてようやく宇宙編に繋がるかと思いきや、エンディングを迎えるのであった。地球に侵略の手を伸ばす宇宙薔薇とか、宇宙戦艦を守護する少女の存在とか、何も語られなかったので残念。

 

『缶詰少女ノ終末世界』 (シルキーズプラス) (2019-04-26)

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根暗系ぼっち少女が終末を祈る話。しかし終末なんて無かった。ヒロインごとに異なる終末に立ち向かうことになるのですが、世界は滅亡しないで次に進みます。個人的には1ヒロインごとに世界終わってしまってもよかったんじゃない?と思ってしまいました。メインヒロインは世界の終末を願っていたのですが、主人公たちのグループに巻き込まれることで、人間関係の温かみを知っていきます。仲間を傷つけたくないのに世界を消滅させたいというアンビバレンツ。そんな少女に対して、主人公が持っていた特性が世界の果てを目指すという素質であったため、その収束を吹き飛ばしてハッピーエンドを迎えます。主人公の世界の果てを目指すということは人類の可能性を目指すということだったのですが、その具体的な手段として宇宙を目指すとか言い出します。最後の場面でウユニ湖に行かせるのはちょっと強引だったかもしれない。

 

『9-nine- はるいろはるこいはるのかぜ 』(ぱれっと) (2019-04-26)

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ぱれっとの分割商法学園異能バトルの第三弾。和泉つばす先生の原画がウリ。普段は根暗陰キャぼっちだが、もう一つ女王様的性格な人格を持つという二重人格のヒロインが3番目の攻略ヒロインです。二重人格になってしまった理由としては、ヒロインが望んだ可能性を引き寄せることができるというチートクラスの異能を持っていたことによります。すなわち辛いことや苦しいことがあったら別の自分にスイッチして対応してもらえるというワケです。しかしこの第二人格を発動させていると異能の力が分散されてしまうので空想具現化の能力は十全に使えないためラスボスに勝利できません。1回目はバッドエンドになりますが、ここで主人公の死に戻りループが発動し、さらに百合友情パワーが発動し、いつまでも主人公に依存しこいねがうだけのシンデレラコンプレックスでいいのか!と叱咤激励し、自らの力で立ち上がりラスボスを倒したのでした。最後は物語の読み手であるプレイヤー自身が並行世界の統合者として神の視点を与えられ、『古色迷宮輪舞』的なオチとなります。

 

『タマユラミライ』 (Azurite) (2019-05-31)

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遠野物語ゲーテの『ファウスト』を融合させた作品。遠野にコンテンツツーリズムしたくなりますね!オシラ様の知識は歴民で知りました。主人公は死者である白お姉ちゃんに執着しており、死者蘇生を試み続けています。しかしその成仏を妨げているのは主人公だけでなく、白本人や義妹のお紅さんの執着もあります。主人公はこれらの執着を乗り越えて成仏させるために、一緒に転生するというギミックになっています。主人公と白お姉ちゃんが転生するのは卯子酉様でありこれまでの伏線が回収されていきます。他にも歴史民俗ネタが結構散りばめられているので、そういうのが好きな人にはおススメです。

 

『月の彼方で逢いましょう』 (tone work's) (2019-06-28)

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高校時代の過去の自分とやりとりができるスマホを手に入れた主人公が、高校時代のバッドエンドを乗り越える為、過去改変に乗り出します。過去改変せずに、そのまま社会人編にも突入することができるのですが、個人的にはこっちも味わい深いと感じます。落ち目の喪女な漫画家の恋愛経験値上昇モノや、唯我独尊系の売れっ子小説家の内面性を描く話、婚活パーティーで上司と出会ってしまった件!とか色々揃っています。また先輩ルートでは、死生観を題材に丁寧に感動を描き出したものの、ご都合主義的にアッサリと死が撤回されて自ら感動を踏み潰しに行くというスタイルもあります。結局、プレイヤーに人気がでたルートは、頭がよくてクールであるもののコミュ障で対人関係が苦手な中二病ヒロインの成長物語でした。ちなみにこの後ファンディスクも出るのですが、ピンヒロインモノであり、この中二病ヒロインを掘り下げる内容でした。完全にメインヒロインを食ってしまうという現象を巻き起こしています。

 

『流星ワールドアクター』 (Heliodor) (2019-07-26)

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中二系異能バトル。ライターは『こんぼく』『暁の護衛』『レミニセンス』の過去作がありますが、製品として完結していたのは部活モノであった『こんぼく』だけ。『暁の護衛』も『レミニセンス』も単体で完結できず、次作に持ち越しとなり、風呂敷が畳めないライターとしてレッテルが張られてしまいました。レミニセンスで「地上に出ただけで終わり」を食らったプレイヤーたちは愕然としたものでした。そのため本作もどーせこのライターだから完結できねーんだろと思いつつも多くのファンたちがプレイに臨んでいきました。結論だけ言うとその通りであり、設定を広げるだけ広げて何も解決できず、俺たちの戦いはこれからだエンドを食らうことになります。一応、擁護をしておくと、このライターさんはハードボイルド要素やバトル描写などにはいいモノを持っており、最大瞬間風速では評価できる方なのです。おそらくスタッフやディレクターをちゃんとつけてシナリオ会議でプロットと全体像を練っていれば、風呂敷を畳めずに終わる作品を防ぐことができるのではないでしょうか。最近では、最初から風呂敷を畳むつもりないのかもしれませんが。

 

『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか? 2』 (Qruppo) (2019-07-26)

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哲学ゲー。前作で敵キャラであったヒロインたちが攻略できるようになるファンディスク。これだけ書くと、なぁ~んだ、人気のある敵キャラを攻略するためのオマケ的作品かぁ!と、フツーのゲームなら思ってしまうでしょう。しかし、これはバカゲー・ギャグゲーの皮を被った哲学ゲーである『ぬきたし』なので、それだけでは終わりません。様々なテーマが描かれるのですが、特筆すべきものといえばLGBTの問題でしょう。主人公の前に立ちはだかる秋野水引はLGBTであり、地道な理解ではなく過激な手段によって自分たちのことを認めさせようとします。暴力革命だ!!そのような急進的な思想を持ち、身体は男性であるが心は女性である秋野水引を説得するにはどうすればいいでしょうか?ここで取られた手段がぶっ飛んでいることでも有名になりました。性的にノーマルかつストレートである主人公が、秋野水引で性的興奮を覚えることが出来れば、それは秋野水引の両性を認めたということになります。それ故、レッツ菊門ファックをする流れとなりアナルプレイを開始。主人公は見事目的を達成したことで世界の歪みも修正。秋野水引は自分の性を受け入れることができたのでした。ちなみにノベルゲームでLGBTを題材にしたヒロインは『北へ。D.D.』の冬真が有名ですので、秋野水引ルートに何かを感じ取った人は『北へ。D.D.』をやってみてください。

 

『恋愛、借りちゃいました』 (ASa Project) (2019-07-26)

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カネで関係性を売りつけるレンタル彼氏モノ。アサプロ御家芸のバカゲー・ギャグゲー枠であり、予備校講師ルート以外はまともではない。メインを張る2人が札束で主人公を取り合うシーンがクライマックスとなっており、そこまではまだ面白く読めるのだが、それ以降がグダグダ。どちらのヒロインを選んでも選ばれなかったヒロインがチョッカイを掛けてくるため、似たり寄ったりの展開になってしまい個別ルートの独自性を潰してしまうという欠点を持ちます。またちなこな双子ルートは声優さんに変な台詞や言葉を吐かせるだけのゲームと化しています。声優さんのファンで、その声優さんがどこまで演技ができるのかを見たいという人がターゲット層になっています。

 

『男性を癒やし抜く機械』 (夜のひつじ) (2019-08-12)

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哲学ゲー。視点交換ギミックが用いられており、癒される男性が実は治療用のAIであり、癒す側となっているのが自殺未遂の患者という構図を取っています。自殺をすることは新たな可能性を模索していることであり実は生きようとしていることなのだというロジックが展開されます。ニーチェの「シレノスの知恵」とハイデカーの「死への存在」を援用しながら、死への意識により生を肯定していきます。前者ではギリシア人が生存と苦悩の恐怖を自覚していたからこそギリシア芸術を創り上げることができたという思想です。後者は自分が死への存在であると意識し有限的な存在であると自覚するからこそダスマンではなくなるという考え方です。すなわち死にたいと思うからこそ別の死に方(違う生き方)を模索しているという展開になり人生が肯定されて幕を閉じます。

 

『ろけらぶ -Location Love- 電車×同級生 (FrontWing) (2019-08-30)』

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コンテンツツーリズムゲー。埼玉県川越市というロケ地を題材とするので『ろけらぶ』。第二弾は強気なツンツンガールとの遠距離通学の中でのフラグ構築がテーマ。ツンデレならぬツンドラなヒロインとどのようにフラグ構築するのかワクワクしていたら電車が止まってしまってお漏らししそうになりペットボトルおしっこの手伝いをするという怒濤の展開が待っています。テーマが電車となっているので、電車ネタを楽しみにしていたのですが、電車要素があまりなくて残念だったり。しかしながらツンドラガールがチョロイン並みにデレるのは、グッとくるものがあり、一見の価値ありです。

 

『きまぐれテンプテーション』 (シルキーズプラスWASABI) (2019-09-27)

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堀井雄二三部作を彷彿とさせるような伝統と格式の推理形式アドベンチャー。クリックシステムであるため煩雑な作業を必要とするので、非常に面倒くさい。物語を読むことを主眼とするプレイヤーにとっては話がぶった切られてしまうので辛いものがあります。内容としては新興宗教と麻薬栽培を組み合わせたもので、居住者は既に殺されており、そのせいで自分たちを天使だと思い込んでいるという展開です。e-moteで動くアンネがすごくカワイイことが煩雑な作業の清涼剤となるのですが「犯人はヤス」ということで、助手のアンネが真犯人だったりします。

 

スタディ§ステディ』 (ま~まれぇど) (2019-09-27)

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e-moteを利用したカワイイキャラとの冬をテーマとしたイチャラブがウリの作品だったのですが・・・。急いで開発したと思われ、きちんとデバックしてないことが丸わかりの作品でした。画面に何人も表示されると、すぐに処理落ちしちゃうの。原画もキャラデザ2人以外にCGを担当している人が多く、急遽ヘルプに入ったんだなァ、しみじみ・・・となります。ヒロインが自分の名前の由来を解説するシーンでは、ライターが旧暦を間違えているので誕生月と齟齬が生じており、誰もスタッフがキャラ設定の時に気付かなかったのかと哀れに思えてきます・・・。良かった探しをすると、実際に現物のラブレターをリアルに開けさせるのは斬新でした(攻略キャラ事にあるので1箱に4枚も入っているので4股してる気分になる人もいたとか)。またemily担当の2キャラは立ち絵も美しくe-moteで動くのでとても可愛く感じられます。また、後輩キャラの母親とのエピソードはわりとホッコリします。メーカーま~まれぇどの作品は過去作の体験版のなかで、自らシナリオやテキストを洗練することを否定しているので、ここからどのようになっていくのか楽しみでもあります。

 

『喫茶ステラと死神の蝶』 (ゆずソフト) (2019-12-20)

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ゆずソフト教徒信者の贖宥状。一度は交通事故で死んだはずの主人公が蘇生してしまったが故に因果律を捻じ曲げてしまったので、死神と喫茶店をすることになります。ゆずソフトの作品は複数ライター制度を取っているため、シナリオの出来不出来が極端に激しいという特徴を持っています。本作も同様であり炉利枠パティシエ姉さんと黒髪クーデレJDのシナリオは良くできていたのですが、幼馴染大食いピザ後輩のシナリオは地雷でした。パティシエ姉さんはサブヒロインながらキャラ性能が高く、シナリオも人生における仕事とは何かを考えさせるような内容となっていたので非常に楽しく読めました。黒髪ロングJDでは死生観モノで生きる気力に乏しかったヒロインが生に意味を見出していくところがグッときましたね。余談ですが本作はコンテンツツーリズムの失敗事例として研究史に名を残すことになりました。喫茶店のモチーフになった店が作品の内容如何ではなく発表されるメディア媒体がレーティングされていることだけでもイメージダウンに繋がるとしてクレーム沙汰になったのです。メーカー側は即座に差し替えることで延期を防いだのですが、一部ゆずソフト教徒の信者が暴走するなど世間を賑わせることとなったのです。

 

『MUSICUS!』(OVERDRIVE) (2019-12-20)

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著名なライターとメーカーでありながらファイル共有ソフトに割られて財政難に陥った結果クラウドファンディングに活路を見出し大成功を収めたことに歴史的意義がある作品。体験版の主な内容である「花井是清の自殺」は『サクラノ詩』ともテーマを共有しており、絶対的な音楽性は存在するか否かが題材になっています。聞き手は作り手の意図などとは関係なく単に背景にあるストーリーを消費しているだけではないのかという主題です。本編は主に3つの作風から成り立っています。クイーンを題材にした映画『ボヘミアンラプソディー』のようにロックバンドの成功譚を描いていくパターン、定時制高校に残って正規ルートからはみ出してしまった社会不適合者たちが文化祭で大活躍する青春モノ路線、音楽を消費する聞き手のことを忘れ独りよがりの作曲活動を続けた結果自分を受け入れてくれた女性を死亡させてしまうバッドエンドの3路線です。バッドエンドもなかなか味わい深く『サクラノ詩』のアンチテーゼとして同じ結論を表現しています。すなわち絶対的な芸術性に惹かれるのは分かるが、作者と視聴者が両方いて、価値というものが生じるのであるということ。あとある意味、花井是清が主人公にとってもメインヒロインなのかもしれません。