2012年ノベルゲームを振り返る

みなさん、こんにちは。
2012年の作品はいかがだったでしょうか。
ここでは2012年の作品の動向を分析するために、個人的にプレイした作品を振り返っておきたいと思います。
勿論、有名作品でもスルーしてしまったものがいくつもありますし、あしからず。

 

振り返っていくのは以下の作品です。


それでは、ぜひご覧下さい!!

新島夕『はつゆきさくら』(SAGA PLANETS)

SAGA PLANETSにおける『ナツユメナギサ』、『キサラギGOLD☆STAR 』系統の三部作。エロゲ業界ではありがちな「社会不適合気味で斜に構えた少年が少女救済を行うことで他者との絆を構築していく」というのが基本的な軸。実に私が好きな展開である。その軸にオリジナリティを加えるため、「市町村合併における権力闘争」、「霊媒師と死霊・生霊」、「高校を頑張って卒業すること」などの要素が味付けされている。ぐちゃぐちゃと言い訳をして学校空間に口先だけで批判する生徒らを主人公くんが潰していく姿はまさにホワイトグラデュエーション!!グランドエンドでは、メインヒロインが死霊であることが明かされ、主人公くんは家と血族の過去の呪縛から解放され未来を獲得するが、明確には誰ともくっつかないで終わる。グランドエンドの後のお話を妄想すると、浪人とくっつく可能性が一番高いのだろうか?また主人公くんを絶えず励ましてくれた生霊の本体と邂逅しないで終わったので、ファンディスクとか出るんじゃないかなーと。けどそうすると、正ヒロインが死霊で成仏しているので、物語に発展性が見いだせないのでなんとも。


 

藤崎竜太ほか『グリザイアの迷宮』(FrontWing)

フロントウィングのグリザイアシリーズ『果実』・『迷宮』・『楽園』の中盤。主人公ユージ先生の過去(幼少期編・テロリスト活動編・師匠カウンセリング編・米軍兵士編・アフガン戦役編)が楽しめる。完全に「あのね商法」なのだが、ユージ先生の過去話は読んでいてたいへん面白いものである。ユージ先生が師匠との生活の中でトラウマを克服しながら強い男に成長していく姿は、グッとくるね。説教ゲーのにおいが漂い、マッチョめいた処世術が散りばめられてるが、鼻に付かず「なるほどなぁ」と思うとこも多い。「走って・殴って・本を読め!」の教えは今でも印象的なものとして残っている。生徒に本を読ませるときに、無意識にだが、本は他人の人生を辿ることだ!!とか言っちゃってる自分がいる。藤崎竜太さんのシナリオは良いねぇ。


 

元長柾木・藤木隻『猫撫ディストーション Exodus』 (WHITESOFT) (2012-02-24)

哲学思想ゲーのファンディスク。本編は妹の死によって崩壊してしまった七枷家が永遠の在り方を求めて並行世界を観測して確定させるゲームとなっていますが、ファンディスクのExodusでは並行世界を確定させて現実へと回帰することがテーマとなっています。そのため、Exodus編(ギズモ正√)、式子母さん、結衣姉さんのシナリオは内容が深まっており読み応えがあります。Exodus編は本編及びファンディスクのギズモ√でなしえなかった「猫が人間になる可能性」を追求する展開になっています。Exodus編における竜安寺の石庭を例とした宇宙と永遠の観測に関する話は割と印象深く残っています。和風庭園における「ししおどし」(竹がカッコンするやつ)を永久機関として見なすことは、日本人の集合的無意識を指摘することにつながり、その中に遺伝史的な永続性を見なすことができると考えると結構グッときますね。「この音が竹と石のぶつかる音にしか聴こえなければ、何も観ることはできません。でも、この響きの中に永遠を観たのなら、ただの裏庭が広大な宇宙にも観えるでしょう……」という描写のとこね。結衣姉さんシナリオで仏教史及び各宗教史を引用しながら、世俗社会における慣習・因習の馬鹿馬鹿しさを語るシーンは、トルストイの『復活』における宗教の欺瞞性にも通ずるものがあり面白い。


 

J・さいろー、姫ノ木あく、天宮りつ『DRACU-RIOT!』(ゆずソフト)

ゆずソフトのお気楽異能バトル活劇。可愛い女の子と一緒に特殊スキルを駆使しながら、犯罪組織を取り締まれ!!というノリ。90年代後半からゼロ年代に飼いならされた私は、閉塞感や頽廃的な寂れた感じが好きなので、お気楽活劇モノには乗り切れないところがあるのは確か。「吸血鬼」という存在から起こるヒロインたちの対人関係の悩みを共有することで、フラグが成立。その後、ヒロインと協力しながら「社会的な問題」を解決していく。エロゲパターンの型どおりといってもいいほどの「個人的な悩み」⇒解決してフラグ成立⇒『社会的な問題』⇒解決してエンディングという展開。全エンド後に解放されるサブキャラのニコラがキャラ的に一番可愛く感じる。


 

渡辺僚一『はるまで、くるる』(すみっこソフト、2012-04-27)

3ヶ月間閉鎖空間コロニーループモノ。最初はループするコロニーが高次元による存在の実験施設であり、主人公くんたちが反旗を翻す革命的展開を想像していました。しかしそれはミスリードであり、コロニーは人類滅亡後の世界のための「種の保存」施設だったのです。ヒロインのうちの一人がコロニーの維持者であり、主人公くんがその役目を引き継ぐという流れに構成することで、主人公くん自身が「観測者」の存在となるわけです。主人公くんは氷河期が終わり地球環境が整うまでループを繰り返させ続けていくのですが、ここからが超展開。太陽系そのものの終焉により氷河期が終わらないことが判明し絶望というところからの復活と地球そのものの銀河系移動という展開は圧巻?です。最後にコロニーから抜け出し、主人公くん&ヒロインズが人類の始祖になる場面は結構グッときます。


 

紺野アスタほか『この大空に、翼をひろげて』(PULLTOP)

人力飛行艇で空を飛ぶことを目指す青春活劇。似た作品としては『水平線まで何マイル?』が存在する。相違点は主人公くんが怪我による挫折を抱えており、メインヒロインが身体障害者で車椅子使用者ということ。そんな一度は人生に敗退した若者が「人生を諦めるにはまだ早いか?」と立ち上がっていく姿には心動かされるものがあるね。少なからず現実社会にルサンチマンを抱きながらも、それでも空へと思いを馳せるという展開にはハラショーだ。ただ、複数シナリオライター起用のため、紺野アスタさんとその他で主人公くんの性格とシナリオの質が変わりすぎ。そして「主人公の親友的ヒロインは個別に入るとグダグダになるの法則」が発動してしまいあげはシナリオが残念なことに。だがそれを差っぴいても正ヒロインと真ヒロインのシナリオは良かった。紺野アスタさんには『夏ノ雨』でお世話になり、PULLTOPのメーカーは『ゆのはな』、『かにしの』、『てとてトライオン』、『しろベル』といい作品がありますよっと。


 

西村悠一、坂元星日『古色迷宮輪舞曲 〜HISTOIRE DE DESTIN〜』(Yatagarasu)

同工異曲のシナリオが量産されているタイムリープもの。他の作品と異なるところは、用語集のワードをシナリオ中に駆使しながらイベントを進め、フローチャートをプレイヤーが好きにジャンプできるというところ。紅茶が正しく入れられなくて死亡してゲームオーバーという展開が待っている。物語を俯瞰しながら解決に導くことによって、プレイヤーが擬似的に作品内での「神」(第三者の審級)としての役割を担うことになる。タイムリープを繰り返すことで生じる苦悩を抱えながら、実妹エンドに辿り着く結果になります。クリア後は「神」の視点を持つプレイヤーが、同じ役割を持つゲーム内登場人物と対話できるというオマケもある。


 

砥石大樹ほか『さくら、咲きました。』(SORAHANE)

近未来が舞台の作品において死生観を描き続けるメーカーの作品。『AQUA』を受け継ぎ、近作は「不老不死」の生命工学が発展したという設定。人は「死への存在」であるからこそ、「実存」を見いだすことができるのに、「不老不死」の状況では「生きる活力」が無くなっていくというもの。閉塞感を打破するために、日常を一生懸命生きることの重要さを唱えている作品だ。この「失われた20年」の日本であるからこそ、生きる目的や意味を提示することがこれほど主張されるのだろうね。「地球滅亡のお知らせ」を受けたとき、「不老不死」の日常がずっと続くと思っていた人々はどう行動するかという展開になる。『そして、明日の世界より』と似た命題だが、実は地球は滅亡しない。最後は不老不死の存在である主人公くんたちが、不老不死の技術が失われた世界で、周囲の人の死を見取りながら生きていくところに生命倫理が見いだされるかもしれない。


 

漆原雪人『いろとりどりのヒカリ』(FAVORITE)

ハイパー真紅先生ゲー。ファンディスクにあってファンディスクにあらず。本編にも勝るとも劣らない質・量を誇る。前作『いろとりどりのセカイ』の舞台設定や攻略ヒロインは、すべて真紅先生と結ばれるためのものであった。つまりは攻略ヒロインズは捨て駒に過ぎなかったのだ。そんなわけで『いろとりどりのヒカリ』では、前作で捨て駒扱いされたヒロインズに対して、贖罪を行っていくという展開になる。攻略ヒロインが物語りを構成するための部品に過ぎなくなってしまった昨今の作品において、それを逆手にとるというアイデアは、結構斬新的な発想だと思うのだが、どうですかね。そして最後は主人公くんと真紅先生の娘さんが両親を救う為に、世界を相手に立ち向かう。主人公が諦めずに足掻き、真紅先生が胃炎になるまで神経をすり減らすなかで、現実の学校空間でうまく生きられない娘が立ち上がっていく姿は、一種のカタルシス。娘さんの頑張りにより、捨て駒ヒロインズたちも救済され、真紅先生は晴れて幸せになれました!!


 

森崎亮人『Re:birth colony -Lost azurite-』(あっぷりけ)

『フェイクアズールアーコロジー』の後継作品。情報技術が進んだ近未来社会で、電子ガジェットを駆使しながらも、貴族制の残る格差社会が舞台。主人公くんは孤児から叩き上がった存在であり、ヒロインに流されず、積極性や主体性があるのは見ていてわりと爽快。閉塞感が漂う腐敗しかけた世界の中で、主人公くんは狭き社会の中で、成り上がっていこうとする。だが、下部構造が上部構造を規定する中で、主人公くんは新たな変革に立ち向かうことになっていく。シナリオの展開としてはご都合主義が多く、それはそれでいいのだが、主要登場人物が死ぬことで物語が成り立つ展開の中で、エンディング後にあっさり生きていましたーとかやられるといかんともしがたい。姉ルートで姉は死んでおくべきだったし、グランドエンドで主人公くんも死んでおくべきだったと思う。最後の最後で感動が台無しのように感じてしまいます。


 

王雀孫・森林彬・東ノ助・真紀士『月に寄りそう乙女の作法』 (Navel) (2012-10-26)

女装主従関係モノ。ルナ様ゲー。女装モノやお嬢様モノだとensembleのお家芸であり雰囲気もそれに近い所がある。個人的な所感だが、百合系お嬢様モノは『マリみて』で周知され、女装(男の娘)してお嬢様女子校に潜入する展開は『おとぼく』で紙芝居ゲーにも取りいれられ、量産はメーカーensembleが担ってきたと思う。正直設定だけ見ればこの業界において吐いて捨てるほどあるかもしれない。しかしそのような中で「つりおつ」を際立たせているのが、「服飾」の専門性と「大蔵家」のお家問題である。ルナ様ルートにおいて、一度服飾デザインで挫折してしまった凄惨な過去を持つ主人公くんが、その主従関係に他者需要願望を見出して自分を肯定し、無償の愛を主君に降り注ぐ様子が一種のカタルシスを生んでいる。これがプレイヤーを惹き付けているのだと考えられる。ルナ様ルートは良くできており、ルナ様アフターやルナ様アフターアフターまで作られ、つりおつ2ではルナ様エンド後の二人の子どもが主人公となる。しかし複数シナリオライターの弊害か、ルナ様ルート以外はそれなりであり、特にミナトンシナリオは粗が目立った。


 

瀬尾順『あえて無視するキミとの未来 〜Relay broadcast〜』(ALcot ハニカム )

未来視ができるが故に斜に構えて生きてきた主人公くんが、放送部のおかげで積極的に生きることができるようになったぞ!!という作品。キャラゲー風味。オススメなのが義妹のナナギーと幼なじみの真鍋計さん。この二人のシナリオの場合、放送部も未来視もあんまり設定として必然性がないが・・・。いや、ホント真鍋計さんは良いキャラゲーしている。主人公くんを一途に思う幼なじみながら、その親友としてのポジションを変えたくないため、乙女心を冗談で誤魔化してしまうという恥じらい。そして、二人きりになると、垣間見せる情愛。「ときめかないねー」とか言いながら、内心ではときめきまくりの真鍋さんの心情は一読の価値アリ!!主人公くんの机で「角おなぬー」してたら当人にばれるという使い古されたパターンだが、見ていて思わずニヨニヨしてしまう。


 

御影、鏡遊、竹田『夏空のペルセウス』(minori)

不遇な女の子を助けることで、自己の存在理由を証明しようとするおはなし。主人公くんと攻略ヒロインの他に登場人物が全くといっていいほど存在しない超絶セカイ系な舞台設定。さらに女の子を救う以外に目的が存在しないという純粋なキャラゲー。これらによりゼロ年代のにおいがぷんぷんする雰囲気になっております。どのシナリオでも関与してくるのがイモウトの存在。このイモウトが物語の一種の原動力になっております。このイモウトはホントウに世の中の価値観として兄以外のものを見いだしていないという一種特異的な存在となっている。ゼロ年代後期の作品は、セカイ系に対しては寧ろ否定的な立場をとっており、社会性や仲間内でのコミュニティの中に近親相姦の禁忌を位置づけようとしているので、余計に際立っている。イモウトとの享楽に溺れた後、社会的に生きようとうするも挫折し、最終的には社会の承認を捨てイモウトのみに生きる「イモウト的実存」に辿り着くシナリオは、既に語りつくされている感もある。


 

かずきふみ『ガンナイトガール』(きゃんでぃそふと)

戦争モノ。現代日本が戦争に巻き込まれ、戦時下における普通の少年と軍属の少女の交流を描く。戦争モノなのに、何故戦争をしているのかや社会的な背景にはほとんど触れることもない。『群青の空を越えて』みたいな作品を期待していると華麗に裏切られる。一般人が軍人と恋愛をすることを主眼としており、その中で銃後として何が出来るかを描こうとしている。話が進むうちにトンでも展開に発展し、ヒロイン達はロボットを操縦する実験体であることが判明し、ロボットバトルを繰り広げることになる。主人公くんは常に受け身であり、積極的な行動を起こそうとしては、空回りしてしまう。これは戦時下において一般人が出来ることなど何もないことを示唆しているが、物語としてはどうなのでしょう?


 

御厨みくり『キミへ贈る、ソラの花』 (Cabbit) (2012-12-21)

メインヒロインが既に死んでいる作品を描くことに定評のある御厨先生ゲー。今回は幽霊と人間が交流する学園が舞台となっています。メインヒロインのまつりシナリオはそれなりに面白いです。安易に復活したりせずに消えていく所に感動があるというもの。未練が満たされないからこそ幽霊となっているのに、フラグ構築のために未練を満たしてしまうと成仏するという生き霊モノの二律背反的な展開をお楽しみください。主人公くんの全てを肯定する義妹ルートを除いて各ヒロインともバッドエンドが用意されており、そのバッドエンドこそが良い味を出しています。


 

桜井光『黄雷のガクトゥーン 〜What a shining braves〜』 (Liar Soft(ビジネスパートナー)) (2012-12-21)

黄雷のガクトゥーンは学園異能バトルモノです。しかしバトルがメインではなく、異能を駆使する72才が若者を説教して救済することが物語の本質なのです。主人公のニコラ=テスラは作中では最強であり俺TSUEE状態です。物語の人物たちは過去にトラウマを抱えており、その解消を願っています。そのため力を欲しており、何でも願いが叶う鐘にニコラを生け贄として捧げようとします。こうして異能バトルのお膳立てが整い、バトルが繰り広げられるのです。しかし基本的にニコラの優位性は揺るがず、上から目線で説教カウンセリングが行われます。作品の大まかな流れとしてはこの「説教カウンセリング」を眺めていくことになります。しかしニコラにも弱点がありそれがヒロインとの結びつきになっています。ニコラは世界の理を外れた存在であり、放っておくと消滅してしまいます。存在するには他者の記憶に残り続けることが必要で、それが出来るのがスミリヤ家の人々だけなのです。しかしそれが故にスミリヤ家の人々は斬殺されてしまいます。唯一の生き残りであるのがメインヒロインのネオン=スカラ=スミリヤであり、ネオンとニコラの関係性変化が作品の原動力となっています。