「第63回高等学校教育研究大会」(筑波大学 附属高等学校)

筑波大学 附属高等学校の教育研究大会に参加したので内容をまとめておく。
内容は講演会と公開授業と教科分科会の三種類。
公開授業と教科分科会は地歴公民に参加。

講演「高校生にとっての親密性と友情-『クール・ティーチャー』の視点から-」

  • クールティーチャーとは何か
    • クールティーチャーとは学級を家族のような集団として経営するのではなく、データと客観的な情報をもとに分析を行う教員のことである。冷静に児童生徒を観察し、教育サービスを提供する。分析の結果、伸びそうな生徒に個性を尊重しながらアドバイスを行う。
      • 講演者は一度も現場に出たことがないとのこと。
  • コミュニケーション過剰重視型社会
    • 現在の高校生たちはコミュニケーション過剰重視型社会の犠牲者である。産業構造の変化によりサービス産業が社会の中心となったことがその原因である。人間関係を構築することが社会で求められるため、「みんな一緒でなければならない」という「同調圧力」がかかる。これは封建遺制のムラ的作法である。このようなムラ的作作法は「情報化社会」により、さらなる「同調圧力」の強化を招いている。Facebooktwitter・Lineなどのコミュニケーションツールが、「いつでもつながっていなければならない」という強迫観念を生み出し「ネオ共同性」を構築している。
    • 高校生達を救うためには、近代的自我の確立が必要である。生徒達には同調圧力に屈せず「自分は自分で良いんだ」という自己肯定感・自尊感情を持たせてあげることが重要。そのためにはクールティーチャーが必要で、学級経営において一致団結という家父長制的なクラス運営をしてはいけない。

公開授業

公開授業は同一の教師が二つの授業を行った。筑波大学 附属高等学校のカリキュラムは1年次で「世界史A」と「地理A」、2年次で「日本史A」と「倫理」、3年次で受験科目のB科目と政経を履修するとのこと。「世界史A」は産業革命から現代史までの通史を扱い、その合間にテーマ史として前近代史を挟んでいく。通史タイプの授業は対話形式で授業が進められていく。テーマ史のタイプの授業は、パワポでの一方通行的な知識注入を行い、残り15分間で白紙の紙に授業再現を行わせる。

通史タイプの授業「20世紀前半の世界」
  • 概要
    • 教員がおもむろに「前回の続きから」と言っていきなり授業開始。前時の振り返りも授業の目的の提示も一切なし。ついでに学習指導案もなし。レジュメから察するに単元ごとに「大きな問い」があって、その「大きな問い」に答えるために、資料を検討しながら下位概念の「小さな問い」に答えていくという進め方のようだ。以下にレジュメに書いてあった「問い」を転記しておく。

9 第一次世界大戦 〜被害が大きくなった原因はなにか〜
Q1. これらの同盟(筆者註;日露戦争後に構築された国際関係の同盟)が、締結国におよぼすメリットとデメリットは?
Q2.19世紀以降、イギリスはドイツのなにを警戒したのか?
Q3.「英独が戦争に至ることはないであろう(両国の間にあるのは、戦争などというリスクをおかすほどの争点ではない)」という楽観的な見方が当時のマスコミに多くみられたにもかかわらず全面戦争となった一因には、オーストリアの対セルビア強硬策を支持するなどした、開戦へ向けてのドイツの積極性があげられる。この積極性の背景は何か。
Q4.各国の社会主義勢力が戦争を容認した理由
Q5.第一次世界大戦では1000万人以上が犠牲となった。このような甚大な被害がでた要因であろう、それまでの戦争とは異なる第一次大戦の特徴をなるべく多くあげなさい。
Q6.第一次大戦長期戦となった要因をなるべく多くあげなさい。
Q7.孤立主義を保っていたアメリカが参戦するに至った動機はなにか?
Q8.アメリカの世論は参戦以前からドイツに対して厳しかった。そうなった背景を説明しなさい。

  • 展開
    • 本時の授業では、Q5とQ6が扱われた。生徒に挙手・発言させて、その発言に対して返答していくという形式である。そして何人かに発言させた後、それらの意見に揺さぶりをかけ、最後に授業者が資料・史料を根拠にしながら解釈を示すという展開である。板書はほとんどしない。チャイムがなったらおもむろに終わった。生徒はこの50分間を通して何を身につけたのかのまとめもないまま収束していった。
  • 授業検討会における質疑
    • 前近代の知識がないのに、近現代の授業ができるのか?
    • 問いを提示して対話形式を行うスタイルの授業だが、問いに答えるための前提知識はどこで獲得するのか?
    • 指導案を作らないのはなぜか。授業の前に目的や目当ての提示や説明責任を果たしていないので何を学習すればいいのか分からない、授業の終結部もなくまとめや振り返りがないので、50分間を通して何を身につけたのかが分からない(都立の先生方からの質疑)
    • 対話形式の授業において、対話するのはいいのだが板書をしないので生徒の発言が記録されず、同じような発言が空滑りしている。そのため、教室のメンバーで知識・情報の共有がなされない。
    • 対話形式のスタイルが、教員と発言している個人の1対1になってしまい、発言するのは特定の一部の生徒だけ。残りの生徒を観察していたが、その他の生徒は惚けている。
    • 対話形式において思考を深めるのではなく、教員の発問に反射で答えているだけで思い付きの単発な意見で終わってしまっている。
テーマ史タイプの授業「近世ヨーロッパの知識人」
  • 概要
    • 教員がパワポによる一斉授業を行う。生徒には机上に何も出させず聞くことに集中させる。パワポ講義終了後、白紙に授業再現をさせる。それを提出させておしまい。授業終了後、生徒達が速攻でスマホを取り出しいじり始めたのが印象深い。
    • 通史の間にテーマ史を挟んでいくが、通史で第一次世界大戦を扱っている時に「近世ヨーロッパの知識人」を扱うのはなぜかの説明責任を生徒達に果たしていない
    • 扱うテーマがなぜ重要で、どのような歴史意義があり、現代とどう繋がるのかの説明がない
      • 検討会で、なぜか第三者が「教師の意図を類推させる」とフォローを入れていたが・・・
  • 質疑
    • 京都大学脳科学を研究しているとかいう研究者は、授業を聞かせた後その場ですぐに授業再現をさせることが知識の定着を図ることにつながりとても良いとべた褒めであった。
    • テーマ選定の理由は何か
    • テーマと通史の関連性は何か。

教科分科会

  • 筑波大学 附属高等学校 社会科教育における言語活動について
    • 地理
      • 5プレ…という5分間のプレゼンテーション
      • 天声地理人語…授業内容を600字で天声人語風にまとめて新聞社の読者欄におくる
    • 政経
      • 進路が決まった3年生たちに読書活動をさせて、書評を作らせている。
    • 日本史
      • 愛知教育大学の入試問題を配付し「日本についての知識がない外国人に日本史について説明する問題」、「ある歴史事象について自身が行った評価・判断の根拠を説明する問題」などが出題されている例を紹介した。
    • 倫理
      • 現代社会の諸課題の所で、生徒達主導でテーマを決めさせ活動させる。