2018年2月14日発表「高等学校学習指導要領案」における「歴史総合」、「日本史探究」、「世界史探究」について

2018年2月14日、高等学校学習指導要領案が発表されました。文部科学省は3月15日までパブリックコメントを募集しているので、皆さんも高等学校学習指導要領案に目を通して、疑問に思ったことなどを送りましょう。

特筆すべきことは、3点。一つ目として授業方法の規定化。課題追究/解決学習を行うことを通して、知識・技能、思考力・判断力、表現力を身に付けさせることが明確化されました。二つ目として学習指導要領の配列通りの順番で指導計画を組むことが規定されたこと。これでもう近現代から学習することができなくなります。三つ目は、探究系科目単位数足りない問題。3単位なのにも関わらず古代から現代まで全分野の通史を政治・外交・社会・経済・文化を扱ったうえで、課題追究/解決学習を行うというものです。絶対終わらないと思います。

以下は私が個人的に気になったところの雑感です。

歴史系科目全体に関するもの

  • 授業方法に対しての明確な規定化
    • 従来の学習指導要領とは異なり、授業方法が明確に規定された。「歴史総合」、「日本史探究」、「世界史探究」いずれも課題追究学習/課題解決学習を行い、その活動的な学習を行うことを通して、知識・技能及び思考力・判断力・表現力などを身に付けさせることとなった。
    • 【疑問点】活動型の学習を通して知識を身に付けることは果たして可能なのか?
      • よくある批判として活動型の学習を行うにしても最低限の知識がないと、授業が深まらず、ただ単に活動しているだけという「這い回る社会科」状態に陥ってしまうというものがある。
      • 最低限教科書を下読みさせておくかレジュメを配布し必要な用語に目を通させておくか反転授業を行うかなどの工夫が必要となる。
  • 単位数と学習内容の問題
    • 「日本史探究」と「世界史探究」のは各3単位で「日本史B」、「世界史B」より1単位減るのに、学習内容は古代から現代までで通史全部な上に、課題追究学習/課題解決学習を行う。
    • 「日本史探究」も「世界史探究」も従来と同じく学習内容は古代から現代までの通史となっており、ケーススタディではない。さらに「歴史総合」で学習した内容も重複して学習するのであり、学習内容は減っていない。課題追究学習/課題解決学習を全範囲全分野で行うので一つの単元ごとに割く時間は増えることが予想されるのに単位数は減る。
  • 「歴史総合」と「日本史探究」、「世界史探究」は何が違うか
    • 内容
      • 「歴史総合」で18世紀以降の近現代史を学び、「日本史探究」「世界史探究」では古代から現代までの通史を扱う。「探究」でも「総合」で扱った近現代を学習する。
    • 授業方法
      • 「歴史総合」は課題追究学習/課題解決学習を行い、それを通して知識・技能及び思考力・表現力・判断力を身に付けさせる。
      • 「日本史探究」は課題追究学習/課題解決学習として、「問いの表現」→「仮説の表現」→「解釈の表現」を行う三段階構成を取る。
      • 「世界史探究」は課題追究学習/課題探究学習として、大項目B〜Dでは中項目(1)で大項目の観点について考察させて問いを立てさせ、それに基づいて中項目(2)以下を学習する。大項目Aは学習の導入、大項目Eは学習のまとめである。

歴史総合

  • 授業方法の規定化
    • 課題追究学習及び課題解決学習を行うことが規定化された。そしてその学習を通して、「知識、技能」及び「思考力、判断力、表現力」などを身に付けることができるように指導することとなった。
    • 後者の「思考力、判断力、表現力」を身に付ける学習においては、主に「主題を設定する学習」を行い、「考察し、表現する」ことが求められている。
  • 内容について 
    • 大項目A〜Dで構成されておりその配列順で授業を行う。大項目Aでは「歴史の扉」が設置され、「日本や日本周辺の地域が世界の歴史と繋がっている」ことを前面に押し出し、歴史叙述の根拠と複数解釈性を扱うことで「歴史総合」の導入としている。以下、大項目と中項目。
    • A 歴史の扉
      • (1) 歴史と私たち/(2) 歴史の特質と資料
    • B 近代化と私たち
      • (1) 近代化への問い/(2) 結び付く世界と日本の開国/(3) 国民国家明治維新/(4) 近代化と現代的な諸課題
    • C 国際秩序の変化や大衆化と私たち
    • グローバル化と私たち
      • (1) グローバル化への問い/(2) 冷戦と世界経済/(3) 世界秩序の変容と日本/(4) 現代的な諸課題の形成と展望
内容の取扱いより
  • 内国植民地
    • 「アジア貿易における琉球の役割,北方との交易をしていたアイヌについて触れること。その際, 琉球アイヌの文化についても触れること」
  • アジアへの日本の影響
    • 「日本の近代化や日露戦争の結果が,アジアの諸民族の独立や近代化の運動に与えた影響とともに,欧米諸国がアジア諸国へ勢力を拡張し,日本が朝鮮半島や中国東北地方へ勢力を拡張したことに触れ,各国の国内状況や国際関係の変化に気付くようにすること」
  • ポスト冷戦
    • 「冷戦終結後も引き続き課題として残されたことや,冷戦終結後に新たに生じた課題などに触れること。その際,国家間の対立だけでなく,民族対立が拡大したり,武装集団によるテロ行為を契機として戦争が生じたりするなど,地域紛争の要因が多様化していることにも触れること」

日本史探究

  • 「日本史探究」の学習方法の規定化 問い→仮説→解釈
    • 「歴史総合」と「日本史探究」で異なるところは何か?「歴史総合」では活動型の学習を通して知識・技能、思考力・判断力・表現力などを養う構成であった。「日本史探究」の学習方法は3段階で組み立てられており、課題追究/解決型の学習を行いながら、【時代を通観する問いの表現】→【仮説の表現】→【解釈や画期を根拠を示して表現】することが求められている。
  • 内容構成について
    • 大項目A〜Dで構成されており、黎明期の日本から時系列順に近現代まで学習する。「歴史総合」で学習した近現代も扱う。「日本史探究」は3単位であり、「日本史B」より1単位少ないのにフツーに全通史扱う。
    • A 原始・古代の日本と東アジア
      • (1) 黎明期の日本列島と歴史的環境/(2) 歴史資料と原始・古代の展望/(3) 古代の国家・社会の展開と画期(歴史の解釈,説明,論述)
    • B 中世の日本と世界 
      • (1) 中世への転換と歴史的環境/(2) 歴史資料と中世の展望/(3) 中世の国家・社会の展開と画期(歴史の解釈,説明,論述)
    • C 近世の日本と世界 
      • (1) 近世への転換と歴史的環境/(2) 歴史資料と近世の展望/(3) 近世の国家・社会の展開と画期(歴史の解釈,説明,論述)
    • D 近現代の地域・日本と世界 
      • (1) 近代への転換と歴史的環境/(2) 歴史資料と近代の展望/(3) 近現代の地域・日本と世界の画期と構造/(4) 現代の日本の課題の探究
内容の取扱いより
  • IBDPのようなケースステディではなく通史を維持したまま活動型の学習をやるように規定
    • 「我が国の歴史を大観して理解し,考察,表現できるようにすることに指導の重点を置き,個別の事象のみの理解にとどまることのないよう留意すること」
  • 「日本史探究」3単位であり「歴史総合」を設置したにも関わらず、近現代もやる。
    • 近現代史の指導に当たっては,「歴史総合」の学習の成果を踏まえ,より発展的に学習できるよう留意すること」
  • 学習指導要領の配列順に授業を行い、それ以外は認めない
    • 「内容のA,B,C及びDは,この順序で扱うこと。また,「歴史総合」で学習した歴史の学び方を活用すること」
  • 歴史の複数解釈性/歴史の画期
    • 「歴史に関わる諸事象には複数の解釈が成り立つことや,歴史の変化の意味や意義の考察から,様々な画期を示すことができることに気付くようにすること」

世界史探究

  • 「世界史探究」の学習方法の規定化
    • 課題追究/解決学習を通して知識・技能及び思考力、判断力、表現力を身に付けさせるのは「歴史総合」、「日本史探究」と同じである。
    • 「日本史探究」が問い→仮説→解釈の三段階構成を取っているのに対し、「世界史探究」では大項目B〜Dの中項目(1)で「読み解く観点について考察し,問いを表現」し、中項目(2)以下で「考察した観点を踏まえた問いを基にして」、「課題を追究したり解決したりする活動」を行うことにその特徴がある。
  • 内容構成について
    • 「世界の歴史の大きな枠組みと展開に関わる諸事象」を扱うこととなっており、前回の学習指導要領の世界史像と同じく、独自の文明を形成した諸地域世界が交流・再編・結合・変容を経て世界の一体化を果たすという流れである。
    • 大項目A〜Eで構成されており、大項目Aの「世界史へのまなざし」は導入であり、大項目E「地球世界の課題」中項目(4)地球世界の課題の探究で学習のまとめをするように配列されている。学習の順序も規定されており大項目Aから順に学ぶ。
    • A 世界史へのまなざし
      • (1) 地球環境から見る人類の歴史/(2) 日常生活から見る世界の歴史
    • B 諸地域の歴史的特質の形成
      • (1) 諸地域の歴史的特質への問い/(2) 古代文明の歴史的特質/(3) 諸地域の歴史的特質
    • C 諸地域の交流・再編 
      • (1) 諸地域の交流・再編への問い/(2) 結び付くユーラシアと諸地域/(3) アジア諸地域とヨーロッパの再編
    • D 諸地域の結合・変容 
    • E 地球世界の課題 
      • (1) 国際機構の形成と平和への模索/(2) 経済のグローバル化と格差の是正/(3) 科学技術の高度化と知識基盤社会/(4) 地球世界の課題の探究
内容の取扱いより
  • 構造的な理解
    • 「大きな枠組みと展開を構造的に理解し,考察,表現できるようにすることに指導の重点を置き,個別の事象のみの理解にとどまることのないように留意すること」
  • 「歴史総合」との関連
    • 近現代史の指導に当たっては,「歴史総合」の学習の成果を踏まえ,より発展的に学習できるよう留意すること。
  • カリキュラム配列の規定
    • 「内容のA,B,C及びD並びにEについては,この順序で取り扱うものとし,A,B,C,D及びEの(1),(2)及び(3)の学習をすることにより,Eの(4)の学習が充実するように年間指導計画を作成すること。また,「歴史総合」で学習した歴史の学び方を活用すること。」
  • 高校世界史の世界観(内容の大項目B〜D)
    • 「自然環境と人類との活動の関わりの中で,歴史的に形成された諸地域」が「…交流の広がりとともに再編が進む中で,地球規模で諸地域がつながり始め」、「諸地域の結合の進展とともに変容が進む中で,地球規模で諸地域のつながりが広まり始め」る・
  • 学習の導入としての内容の大項目A
    • 「内容のAについては,この科目の導入としての位置付けを踏まえ,生徒が現在と異なる過去や現在につながる過去に触れ,世界史学習の意味や意義に気付くようにすること」
  • 学習のまとめとしての内容の大項目E
    • 「内容のEについては,この科目の学習全体を視野に入れた(4)の主題を探究する活動が充実するよう(1),(2)及び(3)の主題を設定し,多元的な相互依存関係を深める現代世界の特質を考察できるよう指導を工夫すること」
  • 資本主義の危機・総力戦・福祉国家
    • 自由主義経済の危機により,資本主義諸国では国家による経済への関与が積極的に進められるようになり,そのことが,第二次世界大戦を経て,福祉国家体制の成立の契機となったことに気付くようにすること。また,第二次世界大戦を契機とした欧米諸国の覇権の推移に触れるとともに,Eとのつながりに留意すること」

各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い

  • 主体的・対話的で深い学びと課題追究/解決学習
    • 「生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること。その際,科目の特質に応じた見方・考え方を働かせ,社会的事象の意味や意義などを考察し,概念などに関する知識を獲得したり,社会との関わりを意識した課題を追究したり解決したりする活動の充実を図る」
  • 「総合」を履修した後に「探究」を履修する。
    • 「各科目の履修については,全ての生徒に履修させる科目である「地理総合」を履修した後に選択科目である「地理探究」を,同じく全ての生徒に履修させる科目である「歴史総合」を履修した後に選択科目である「日本史探究」,「世界史探究」を履修できるという,この教科の基本的な構造に留意し,各学校で創意工夫して適切な指導計画を作成する」
  • 言語活動の重視
    • 「…考察したことや構想したことを論理的に説明したり,立場や根拠を明確にして議論したりするなどの言語活動に関わる学習を一層重視する」
  • 資料活用・発表プレゼン
    • 「調査や諸資料から,社会的事象に関する様々な情報を効果的に収集し,読み取り,まとめる技能を身に付ける学習活動を重視するとともに,作業的で具体的な体験を伴う学習の充実を図る」
    • 「その際,地図や年表を読んだり作成したり,現代社会の諸課題を捉え,多面的・多角的に考察,構想するに当たっては,関連する各種の統計,年鑑,白書,画像,新聞,読み物,その他の資料の出典などを確認し,その信頼性を踏まえつつ適切に活用したり,観察や調査などの過程と結果を整理し報告書にまとめ,発表したりするなどの活動を取り入れるようにする」
  • 情報教育
    • 「情報の収集,処理や発表などに当たっては,学校図書館や地域の公共施設などを活用するとともに,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用し,指導に生かすことで,生徒が主体的に学習に取り組めるようにする」
    • 「その際,課題の追究や解決の見通しをもって生徒が主体的に情報手段を活用できるようにするとともに,情報モラルの指導にも留意する」