概要
はじめにー教員の多忙化と授業準備について
- 授業準備
- アクティブラーニング型授業等、生徒が主体的に取り組む授業を実践するための準備に時間がかかる。
- 生徒に、歴史の事実に気づかせたり、解釈させたりするためには、問いを解くための資料が必要であり、教員が問いを作るための知識も必要。
- 現行の学習指導要領(※レジュメ作成者註:平成21年版高等学校学習指導要領)では世界史を「地理的条件や日本の歴史と関連付けること」(A・B共通)、「現代の諸課題を歴史的観点から考察させ」(A)、「現代世界の特質を広い視野から考察させる」(B)ことが求められており、日本史・地理・現代社会の知識も必要である。
- 新科目「歴史総合」では日本史を世界史と同等に準備しなければならない。
- アクティブラーニング型授業等、生徒が主体的に取り組む授業を実践するための準備に時間がかかる。
一 神奈川県の「高大連携の試み」
- 神奈川県教科研究会社会科部会歴史分科会主催「高大連携の試み」
- 内容
- 阪大桃木至朗氏の協力で2007年以降毎年行っている。
- 共通のテーマで高校教員と大学教員が高校生に向けて授業を行い、その後、生徒や教員から集めた意見・質問をもとに、教員間で研究協議を行うというもの。
- 特徴
- 「授業で扱う内容」の重視
- 生徒の学習意欲や主体性を喚起させるような問いは興味深い歴史内容を踏まえることで作ることが出来る。
- 大学教授が高校生に直接授業を行う。
- 「授業で扱う内容」の重視
二 連携講座における授業実践
- (一)ねらい
- 授業実践「近世の東南アジア」の実施
- 受験に対応できるように関係事項にできるだけふれること。
- 普段手が回らない分野を一時間で学べれば生徒の手助けとなる。
- 思考力を要する問いを中心に授業を行う。
- 授業実践「近世の東南アジア」の実施
- (二)地図を使用する問い
- (三)年代を使用する問い
1799 オランダ東インド会社解散
1811 ジャワ島をイギリスが支配
1816 イギリス、ジャワ島をオランダに返還
1830 強制栽培制度を導入
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- 問:1799年にオランダ東インド会社が解散させられた理由
- 問:1830年に導入された強制栽培制度はほぼ同時期に起きたオランダの財政危機を救ったが、その危機の原因。
- 問の意図…年代を歴史を考えるための道具として用いる。
- 問のねらい…一つの地域でみているとみえてこないことが、複数地域の歴史をくみあわせることで立体的に見えてくる。
- (四)リード文に研究成果が盛り込まれた入試問題
スールー諸島には、15世紀初頭ころから、ホロ島を中心にイスラーム王国が成立していた。この小都市国家が18世紀後半、中国とインドを結ぶ一大中継基地として、突如興隆した……インドを拠点にしたカントリートレーダーたちが、スールー・中国間の交易ネットワークに参入してきたため……スペイン領マニラの中国人やスペイン商人も参入した……従来スペイン圏とイスラーム圏の対立抗争史として描かれて……対立抗争期であったはずのこの時期に、マニラやスールー間に交易ネットワークが成立していた……「スールー圏」の解明によって、フィリピン諸島地域の歴史像は、従来よりもはるかにダイナミックに描き直されることになった。
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- 問いは、この研究の発表によってフィリピン像がどのように変化したかを論述する問題。
- (5)まとめ
- 筆者は受験の知識を身につけるために、思考力を擁する問題を解くと、記憶の定着を早めると考えている。
三 前任校(※レジュメ作成者註:神奈川県立神奈川工業高等学校)での実践
- (一)「逆さま歴史教育にかかる研究校」
- 神奈川県の指定事業。「現代の課題に着目し、過去にさかのぼって探究し考察することで、生徒の考える力を育てる」教育方法のこと。
- 各単元の現代的意義を理解し、現代の事象と結びつけて学習させる。
- (二)大航海時代のアジアとアメリカ
- 単元のねらい…19世紀半ばまで中国・インドが世界のGDPで一・二位を占めていたこと、およびアジアが文化的に栄えていたからこそ大航海時代にヨーロッパはアジアに進出したということを生徒に伝える。
- 単元の問い…アジアとアメリカを比較する問い。アジアの国々のサッカーチームとアメリカ大陸のサッカーチームの写真を提示して違いを考えさせる。アジアチームは肌の色が同じであるが、アメリカチームは人種混合であるのはなぜなのかという問。
- 単元の終結…アジアはヨーロッパよりも栄えていたので貿易目的であり植民地支配ではなかったことを示す(※レジュメ作成者註:植民地支配をうけなかったから人種混合がおこらなかったということなのか?)。
- (三)産業革命期の労働者
- (四)第一次世界大戦
- (五)まとめ
- 知識について
- 教員側から教えるのではなく、生徒に教科書を読みながらおこなう穴埋めプリントを解かせたり、資料を読ませたりして、生徒に自分で知識を習得させた。
- 単元の本質に迫れる問いの設定
- 問いを解くためには、生徒が自分たちで単元内容を理解することが求められる。さらに教員の解説を聞いたり、掘り下げた質問を考えることで、知識の習得と思考を同時に行うことができ、時間短縮につながる。
- 知識について
この文章を読んで思ったことなど
- 結局は受験が世界史を勉強する原動力なのか
- この筆者は折角前任校で受験と関係ない工業高校での世界史の取り組みを行っている(「さかさま歴史教育にかかる研究校」)にも関わらず、高大連携講座の授業実践では受験を学習の原動力としている。しかも高大連携講座では授業方法論よりも「内容の面白さ」を重視しているにも関わらず、結局は受験に帰結させている。世界史は必修であり全ての高校生が世界史を履修するが、全高校生のうちの大学受験をする層で受験科目に世界史を使う割合はとても限られたものになる。歴史好きな高校生なら「内容の面白さ」だけでいいと思うが、歴史が好きではない生徒にはどのように指導しているのだろうか?
- また高大連携講座では「一斉講義型であっても内容が面白ければ生徒は自ら考え感想や意見、疑問を持ち、発言する」とあるが、「内容の面白さ」は相対的なもので、受講生によって興味関心は違うだろうし、何を面白いと思うかは人それぞれなので、「内容の面白さ」に依存することは難しいのでは?と疑問に感じる。
- 大学教授が高校生に授業することが高大連携?
- 高大連携講座の実践として、年間週一で大学教授が高校にやってきて講義をし高校生は毎回レポートを提出するというものを見たことがある。そこで高校生がよく言うのは教授が知識を所与のものとして扱うので何を言っているのかさっぱり分からないということである。無論、大学教授に提出するレポートにそんなことは書けるわけもなく、空気を読んでおべっかを書く。一応、「高校の学習内容を踏まえながら」とあるが、ある程度の基礎知識や基礎概念がなければ、理解することは難しいと思うのだが。大学教授が考える「内容の面白さ」が(特に歴史が大好きというわけでもない)一般的な高校生に伝わるのだろうか。それともこの高大連携講座には歴史大好き高校生が受講しているのだろうか。