雑録

果つることなき未来ヨリ「第三章」の感想・レビュー

第三章は「管理された箱庭の中の生命は生きていると言えるだろうか?」というのがテーマ。
主な主題は「管理された箱庭」・「生命の尊厳と不老不死の呪縛」。
ガスが漏れ出た鉱山を調査しその原因である蟻を退治するというのが全体上の流れ。
また三章では現代知識をファンタジー世界に流用して軍制改革を行う異世界モノあるある展開もあるよ。

第三章概要

  • 管理された箱庭
    • イチローたちは軍制改革のために必要となった資源を増産する必要があった。しかしアルミニウム鉱山では毒ガスが発生し生産効率が落ちていた。その調査にイチローはむかうことになる。毒ガスが発生しても生産がストップしないのはなぜか。それはアンデッドの一団が細々と発掘を続けているから。このアンデッド集団がどのようにして形成されたかを通して「管理された箱庭の中の生命は生きていると言えるのだろうか?」という問いが発せられることになる。
    • アンデッド集団はもともとは古代魔法を操る一族であった。しかし古代魔法が軍事利用に転用されることに辟易した一族は俗世から離れて桃源郷を作り隠れて生きるようになる。こうして管理された箱庭の中での安寧とした暮らしが確立された。だが安寧な暮らしが続くと、中には自由な生活を欲する者達が生まれてくる。そこにたまたま偶然外部からの接触がある。ゾンビを操る死霊魔術師が桃源郷のすぐ側に墜落したのである。ほっとけば死んで物語は終了するのだが、好奇心旺盛な少女Aと三章ヒロインは治癒魔法を使って看病することになる。その魔術師は回復し桃源郷から出て行くのだが、当然下界に戻ると桃源郷の話題になり、とうとう発見されてしまう。こうして古代魔法を操る一族はゾンビ研究の犠牲となりアンデッド集団となってしまった。少女Aと三章ヒロインだけは魔力が高かったこともあり、知性を失わず不死の身体を手に入れた。責任を感じた少女Aは三章ヒロインの記憶を消し飛ばし、ゾンビ集団を治療しながら流浪の民を率いて「家族」とし落ち着く場所を求めてさすらうことになったのである。
    • 管理された箱庭の中から自由を求めてしまったが為に一族を滅ぼしてしまった。このことは少女Aの重い十字架となり、自分が否定した箱庭の中の平和を強く求めるようになる。それが毒ガス鉱山において発掘を続けながら静かに暮らすこと。だが少女Aが記憶を消去した三章ヒロインがイチローと出会うことによって自我を覚醒していき、その安寧の暮らしを否定するようになるというのが構造として面白いところ。アウフヘーベンっぽくてすき。

  • 生命の尊厳と不老不死の呪縛
    • 三章ではゾンビとアンデッドを使い分けている。本質には違いはないのだが、ただ使役されているだけなのがゾンビであり、尊厳をもって扱われるのがアンデッドなのだそうな。で、ゾンビやアンデッドがさらに進行すると骨だけの存在となりスケルトン化する。三章終末部では、アンデッド集団が次々とスケルトン化していく様子が描かれていく。その際に、唯一完全体のアンデッドとして永遠に生き続ける三章ヒロインが、散っていく仲間達を手をこまねいて見つめるだけとなり、生命とは何かについて苦悩してくことになる。スケルトン化を待つだけのアンデッドに対して、モノ扱いせず尊厳を持って扱おうとする姿勢を示すことを通して、ホスピス=ケアについて描いている。戦争において命がゴミのように散っていくなかで、既に死ぬことが確定した唯だ待つだけの疎ましい存在を丁重に扱うことに対して、馬鹿馬鹿しさと大切さの二律背反を感じ取らせるように叙述されている。また三章ヒロインは自分だけが生き続け大切な人たちが死んでいくという辛い試練が与えられており、イチロー異世界から戻ったあとやはたまた惑星が滅び世界が塵となった後でも生き続けるところまで思いが馳せられている。