果つることなき未来ヨリ「アイラルート」の感想・レビュー

過去と未来をつなぐ歯車となるはなし。事象は語り部に叙述されることによって歴史になる。
†「過去だって放っておいたら勝手に歴史になるわけじゃないだろ、新たに生み出さないと」。
そんなわけでアイラルートの最終決戦ではイチローは犬族と共にゴーレム防衛戦を戦うことになる。
焦点が当てられるのはアイラ・リース・ダモンの三者だがテーマ盛り込みすぎ感があるな。
最後にアイラが黒髪になるのはキュリオの残滓を宿したからでいいのでしょうかねー?
アイラルートでは帰還の選択肢が出ずイチローはアイラと子ども作ってキャラバンエンドを迎える。

アイラルート概要


  • 原爆落とされて心が折れたイチローを叱咤するアイラ
    • アイラルートもユキカゼルートとおおまかな展開は同じで原爆が落とされる。が、原爆落とされた後の対応がアイラルートでは異なる。敵の中ボス;ダモンとのやりとりによってイチローの心がぽっきりと折れてしまうのだ。イチロー異世界人として召喚され軍制改革を行ったことにより戦争の展開が速まり原爆の投下となったことが指摘される。つまりはイチローの存在が原爆を落としたのだ。原爆投下後の黒い雨が降り続ける廃墟の街を眼前にするとさすがのイチローも衝撃を受けずには居られない。そんなイチローを支えるのがアイラであり、グジグジするイチローを叱咤激励。アイラは「血の河に足を踏み込んだら最後まで渡り切れ!」と激昂する!!諦念にかられるイチローに「血反吐を吐いて、泥水の中で喚き散らしてでも生きろ!」という場面は個人的名シーン。アイラの支えによって今一度イチローの士気が回復する。


  • 歴史に関する極めて個人的な感想。
    • 敵の中ボスであるダモンの「死に意味を与える?そんなものは、生き残りの自慰でしかない」という台詞が結構好き。歴史事象に意味なんてものはない。いやさほれ、イチローは自分が戦争を行う理由の一つに「過去に散っていった者達の死に意味を与える」とか言うじゃん。侵略国が勝利すれば原爆使用が歴史に肯定され正当化されるからそれを防ごうとするとかいう展開になるじゃん。しかし歴史事象に良いも悪いも価値もクソもなく、歴史叙述によって語られることで、叙述者の解釈で歴史観が発生するの。だからアイラが自己の存在証明として「過去と未来を繋ぐ歯車」となるために自らの神話を創出しようとする場面は結構意味深だよなーと。歴史教育に携わるモノとしては、思想に偏ることなく、どうしてこの歴史事象がこのような価値観で語られるのか?という解釈の視点を提示する必要がある。そのため、ダモンのように歴史に意味を与えることはオナニーでしかないということを念頭において置く必要があるのさ!とか思った。


  • 自己の存在証明
    • アイラルートではアイラが自己の存在証明を見つけることもまたテーマとなる。アイラはこれまで完全に生きる理由を問われた際に、思考放棄・思考停止し、単純な「掟」に自己の考えを丸投げしていた。作中では「理解を放棄して、人生を単純にして完結させていた」と表現されている。そんなアイラが自分が生きている意味をきちんと見出せたことは結構感動モノ。アイラが求めたのは自己の存在証明。滅亡してしまった郷土を再興して民族の拠り所を作り上げ、過去を紡いで歴史にし後世に示すこと。そのためにイチローに子種をねだる。子孫繁栄→子作り展開。アイラの存在証明が幻想の共同体でなくてイチローの子種で良かったと思いました。(※幻想の共同体=ナショナリズムが昂揚→自分が生きる意味を国民国家に見出す→自分が死んでも後に繋がるので人生に意味がある)。個人的にはアイラが主体的な意思により自分の答えを見つけられて良かったねエンドでも充分だったのですが、なんか無理矢理っぽくリース編とキュリオ編も詰め込まれる。リース編は族長を継ぐための決意をして覚醒する様子が描かれる。キュリオ編は最後にアイラがキュリオの思想を受け入れることになる。トートツに三年後に飛んだラストシーンでアイラが黒髪になってたのは、今まで思考放棄してたアイラがキュリオを理解し残滓を宿したからという解釈でいいんですかね?