キミのとなりで恋してる!〜The Respective Hapiness〜「サイドストーリー」の感想・レビュー

勝彦(男友達)・彩香(涼香の姉)・恵(主人公の妹)のエピソード小咄集。
※サイドストーリーの人々は攻略できません。「攻略できない」ことこそがテーマとなっているから。
特に恵ルートでは「兄に恋慕するけれども結ばれなかったイモウトのその後」が提示されておりせつない。
また勝彦ルートでも「正ヒロインエンド成立により結ばれなかった幼馴染みB(莉奈)のその後」が描かれておりせつない。
ある意味「主人公くんと結ばれなかったその後のヒロイン」が「人生に幸せを見出す」に挑んだ作品とも言える。
恋仲や婚姻関係になるだけが幸せじゃなくて主人公くんとの関係構築の幸せは人それぞれ!というはなし。
「攻略できない」をウリにした逆説的な意欲作として評価したい!反発もありそうだけども。

サイドストーリー&プロフィール欄の雑感


  • 勝彦ルート
    • スピンオフして主人公;勝彦でピンヒロイン低価格モノを出しても売れるんじゃね?と思うくらい結構魅力的な男サブキャラ。勝彦の設定として重要なのが「堕胎した少女に対する救い」と「父親に対する反抗」の二つ。
      • まず前者の堕胎モノはサブキャラだからこそ扱えるテーマだと言える。ファンディスクでは堕胎から立ち直っていく紺野ゆかりの姿がそこはかとなく描かれていく。勝彦のために陸上部に入って甲斐甲斐しく世話を焼いたり、栄養管理といってお手製のお弁当を作ってくれたりと子を堕胎したショックを勝彦に尽くすことで癒していく。またゆかりの精神的な回復に重要な役割を果たしたのが莉奈の存在。周囲から面白半分に誹謗中傷されるゆかりに偏見なく接してくれたのが莉奈であり、ゆかりも莉奈に懐いていく。勝彦ルートはなぎさエンドの設定なので莉奈は主人公くんと結ばれていない。勝彦はゆかりを支えてくれた莉奈に謝意を告げるが、主人公くんと結ばれなかった莉奈がそれでも二人を祝福する様子を疑問に思ったりするのだ。黄昏時の校舎から陸上部で活躍する主人公くんとなぎさの様子を慈母のように見つめる表情を晒す莉奈。アガペー。勝彦は莉奈の中に聖母を見出す。莉奈を毛嫌いしていた勝彦がサンキューという場面はぜひご覧頂きたいところ。
      • 勝彦の人物描写で重要な設定の二つ目が「父親への反抗」。こういう作品では反抗を貫き通してツッパリ続けるのは逆に子どもっぽいと評価され最終的に大人になって和解する流れになるんですよねー。『暗夜行路』してたけど『和解』しちゃった☆的なノリ。そんなわけで当初は父親への反抗と自己証明のための手段として陸上していた勝彦が、本当に陸上と真摯に向き合うために父親と和解する姿は結構色々なことを考えさせられるね。目的を手段としてしまった勝彦がその呪縛から解き放たれる系な感じ。【陸上を父親を見返すための手段としていた】→【父親の走りを受け入れられず伸び悩んでしまい苦しい思いをする】→【主人公くんを見て走ることの楽しさを思い出す】→【彩香先生から父親に関するアドバイスを貰う】→【自分が父親を見返すために陸上しているに過ぎなかったことを認める】→【陸上のためにわだかまりを捨て父に教えを請う強さを得る】(分かりやすいチャート方式)。この一連の流れは思わずグッとくる展開です。



  • 彩香ルート
    • ファンディスク追加新キャラという紹介だったので、すっかり攻略できる気分になっていたのは私だけではないはず。攻略できません。イモウトの涼香を心配して北海道の標津(しべつ)へとやって来るのですが、そこで目にしたのはイモウトがイキイキと楽しそうに陸上をする姿。自分の指導下では思い詰めていた涼香が、走ることの楽しさを思い出しなんとも楽しそうではないか!!!そんな姿を見せつけられた彩香は、自分が指導者となった理由を回想する。かつて彩香が選手だった頃、一緒に練習していた陸上仲間の親友がいた。しかし次第に能力の差が開きだしてしまい親友は陸上を辞めてしまう。それだけならまだしも親友は彩香をなじり、侮蔑の言葉を投げて去っていったのだ。ショックを受けた彩香だったが、それを救ったのがイモウトの涼香の存在。涼香もまた陸上のタイムが伸び悩み走れなくなっていたのだ。涼香の前を走ることに存在意義を見出した彩香は指導者となることを決意。以来ずっとイモウトを支え続けてきたのである。そんなかけがえのないイモウトが自分のもとを去り、主人公のもとへ靡いたのだからその心情は穏やかではなかったであろうよ。彩香ルートでは、仲違いした親友から和解を求める手紙が来ており、当初はその返事を保留していた事が明らかになる。親友からの和解を二つ返事で受け入れることはできなかったのである。しかしイモウトや主人公くんたち陸上仲間の連帯を感じたことを契機に、和解を受け入れることができるようになったのだ。どんなカタチであれ陸上と関わることをやめなかった彩香はジョギング仲間として親友との復縁を果たすことができたよエンドを迎える。



  • 恵ルート
    • 恋する実妹は愛するお兄ちゃんと結ばれなくても前向きに幸せを見つけて生きていくよエンド。攻略できません。主人公くんと結ばれなかったキャラがその後の人生を如何に生きるか?という問題提起をし、その答えの一つを提示したことに歴史的意義がある。正史(なぎさエンド)を迎えた主人公くんは北海道から関東へと移り、たまに帰省するだけになっていた。主人公くんが居なくなって寂寥感に苛まされる恵はレジ打ち店員な日々を送る。たまの帰省で主人公くんと顔を合わせても寂しさに囚われて会話が弾まない。そんな二人の関係を打開したのが「綺麗になったね」と主人公くんが述べたひとこと。今まで主人公くんにかまってもらっていた「かわいいイモウト」のアンチテーゼとして「綺麗な女性」が示されことにより、その恋心は止揚され「お兄ちゃんに追いついて、一緒に走りたい」という自立した自分を確立することができたのだ(「それぞれの道が、それぞれのしあわせにつながっている……だから、わたしはこの道をひとりで歩こう」)。こうして市民ランナーとして活動することになった恵は、愛する兄との思い出の象徴である故郷を守るよと、郷土愛エンドを迎えるのであった。