まいてつ「ポーレット√」の感想・レビュー

「技術継承炭鉱」を軸にした地方創生をするはなし。過去は間違っていない。過去があっての今がある。
ハチロク√が機関士としての側面にスポットライトがあてられるのに対しポーレット√は観光産業重視。
ショージキ最初は廃炭鉱の複合アトラクション施設ってどうよ?と思われしが大臣視察編は面白かった。
主人公鉄道事故トラウマ問題も「ポーレットが抱える内面的な過去の傷」で割と綺麗に回収しています。
炭鉱業を「忌まわしき黒歴史」と捉えていた認識を「技術継承」に転化させる場面は結構好き。
あと切羽詰まって独りよがりになる主人公くんを義理のねーちゃんが説教するところはとても好印象です。

ポーレット√概要


  • 廃炭鉱テーマパーク編
    • 各ヒロインの√に共通しているのが愛すべき地元の復興なわけですが、ポーレット√ではどのように地方創生するのでしょうか?と、いうわけでウリにする観光産業を求めてデートします。印象的なのは駅弁クレープ・阿蘇神社の鬼面造り・木工細工キジウマ・鍛冶屋でステンレス包丁づくり体験などなど。地理ネタが豊富でテンションが上がるぜ!!そしてメインの廃坑探索。するとこの廃坑は保存状態が良く適当に放置されたものではないことに気づきます。そこから主人公くんたちが感じたことは、鉱夫たちは廃業ではなく「一時撤退」のつもりで鉱山を後にしたのであろうという推測でした。ここから「技術継承炭鉱」の話が持ち上がってきます。エネルギー革命で資源が石炭から石油に代わり日本の炭鉱業は廃れてしまいましたが、石炭自体は枯渇どころか豊富にあり、かつての発掘技術を廃れさせてはいけないという目的で認定されるのが技術継承炭鉱だそうな。ふむ面白い。
    • この廃炭鉱編で主要なテーマとなるのは過去の黒歴史との戦い。かつて物語の舞台となっていた炭鉱は国の補助金でズブズブになっており巨額な設備投資と技術練磨に囚われて産業構造の転換に乗り遅れて衰退したという事実があったのです。そんな炭鉱夫たちが未だ少なからず存在するなかで、再び炭鉱に目を向けることは封じ込めようとした瑕を抉るものだったのです。彼らの利益を代弁する老議員とポーレットは市議会で論戦を繰り広げていきます。一度は倒れてしまうポーレットでしたが主人公くんとのフラグ構築もあり、黒歴史は黒でないことを主張します。廃坑ギリギリまで行われた設備投資や技術練磨があったからこそ、「技術継承炭鉱」として認可が受けられるというのです。過去は間違ってはいない。過去があっての今がある。ポーレットの演説は議員の心を打ち、廃炭鉱テーマパークの方向性が決まります。大学の時、近代ツーリズムについて研究していた人文地理の先生がいて、観光に関する授業を受けた記憶がいくつか思い出されました。



  • ポーレット精神崩壊編
    • ポーレットは有能な人材でしたが危うい側面も持っていました。(※当初はそもそもよく選挙戦勝てたなと思いましたが、出身県を見てみると立候補者1名とかよくあることでした。2世、3世とかザラだったわ。地方ヤヴェぜ)。どうしてポーレットは精神崩壊しがちなのでしょうか?それには両親の離婚問題という過去があったのです。ポーレットの両親は共同で会社を運営していましたが、故郷の水質汚染問題に関与したことから歯車は狂いだします。ポーレット父はいつの間にかリーダーとして郷土を率いることになり、それが故に会社も家事も回らなくなっていったのです。そしてポーレット父が家政婦を雇ったことが契機になり離婚へと発展してしまうのでした。当時ポーレットは自分の頑張りが足らなかったから両親は離婚したのだと勘違いしてしまいました。そのためトラウマを引きずるポーレットはそれを刺激されると精神崩壊しそうになってしまうのでした。
    • 主人公くんはポーレットに2度救われます。1度目はポーレットが幼少期主人公くんを鉄道への憎悪から解放するのです。鉄道事故というけれど結局はモノであり、使用した人間の責任であるため鉄道そのものを憎むのは間違っていると悟らせるのです。これによって幼少期主人公くんは憎悪から解放されイモウトへの贖罪のため誰かの役に立ちたいと思うようになったのでした。そして2度目。これは他者需要願望に駆られる主人公くんに主体的な意志の確立を促します。ポーレットは母から捨てられたという瑕を抱えており主人公くんから見捨てられることを極度に恐れていました。些細なことで情緒不安定になりかけるポーレット。主人公くんはこの過程で、「誰か」の役に立ちたいのではなく「ポーレット」だからこそ支えたいのだと自分の意志を明確化させることに成功するのでした。こうして主人公くんは鉄道トラウマを払拭します。



  • 大臣視察編
    • 「廃炭鉱を利用した複合アトラクション」によって工場の土地取得を防いだ主人公くんたち。これで工場誘致が撤回されるかと思いきや、中央政界にコネのある工場誘致促進派は、準備の整わないうちに突如大臣視察の予定を入れ、認可を下ろさせないように仕組みます。なんとかして大臣視察までに施設整備を間に合わさなければ!!主人公くんたちは焦燥感に駆られていきます。さらに促進派はえげつない手段をとり、短期的な高報酬のバイトを募集し人材の引き抜きまで図ってくるのです。なかなか雇用が進まない主人公くんが思わず悪態をつくとおねーちゃんから説教を食らう流れに。この説教が個人的には大好きな場面。無意識に体面ばかり気にする主人公くんに対して周囲をもっとよく見ろとアドバイス。出題者の要求は大臣視察を乗り越えること。これを達成するために必要最低限の人材を確保すること。主人公くんは絶対に裏切らないと思っていただろう地元住民に離反されて苛立っていただけで、その人が目的達成に必要な人材かを考慮できていなかったのです。主人公くんはおねーちゃんの説教に目から鱗。あとはまぁトントン拍子でおねーちゃんコネクションを頼ったりオバチャン労働力を利用したり駅弁で市役所職員を啓蒙したりとサクサク進み大臣視察を乗り越えたよエンドを迎えます。