まいてつ「サブヒロインズ」√の感想・レビュー

サブヒロイン√はオマケみたいなもので割とサクッと終わります。
しかしそのなかで光るのが真闇√。正規ヒロインにして酒造業で地元復興√も作れた気がする。
各サブヒロインの内容はこんな感じ
真闇√…蒸気焼酎を特産品として焼酎列車で観光開発するはなし
凪&ふかみ√…主人公くんの「義務感」を解きほぐすために疑似修学旅行をする
れいな√…日本の石炭発掘とその採算性、及び鉄道による貨物輸送に関するはなし
稀咲√…わりと経済ゲー・鉄道路線に対する資本投資

真闇√(蒸気焼酎を特産品として焼酎列車で観光開発するはなし)


  • 役割アイデンティティ破壊
    • 真闇と主人公くんの共通点はその「役割」で自己同一性を確立していることでした。しかしそれは危ういもので「役割」がなければ自己が剝き出しとなってしまうのです。真闇は「歴史と伝統ある酒造業の長女」という役割で自己を縛り付け家族のため祖先のため家のため従業員のためと酒造りに滅私奉公してきたのです。そんな真闇を攻略するにはまず「役割」からの解放が必要でした。真闇は主人公くんのことが好き好き大好き好き好きなのにも関わらず、妹が主人公くんへ思慕を抱いていることを知ると、その感情に蓋をしたのでした。その蓋を主人公くんは容赦なく破壊。主人公くんは「養家に入ったから何も欲しがらなかっただけで、実家にいた時はどうでもいいものは妹にやったが本当に所有したいものは譲らなかった」という趣旨のことを述べます。この発言は真闇の心を打ち、その頑なさを解きほぐしていったのです。(ワタシモ シュジンコウクンヲ スキニ ナッテ イイノネー!!)また主人公くんは主人公くんで養家に入った引け目や事故のトラウマから他者需要願望に縋りついていました。それは「自分が人の役に立つ」から関係性を構築できるというものでした。損得や打算なしに無条件で自分を好きになんてなってもらえないと考える主人公くんの固定観念を打破するのはメインヒロイン枠のイモートちゃん。打算とか利益とか関係なしの好意があることを自ら玉砕することで伝えたのでした。そんなわけで真闇も主人公くんも役割に依存するアイデンティティを破壊してフラグ構築に成功するのでした。ちなみに主人公くんの感情吐露で真闇ねぇだけには頼りたくなかった理由は、恰好つけて良い自分を見せたかったのだと白状しており、他のヒロインの√でも無意識的フラグ構築してんじゃんと。
    • ちなみに真闇√では「レイルロオドが管理する蒸気焼酎」をメインに観光復興します。焼酎列車を走らせて機関車と酒をタイアップ。しかし真闇のツッコミは冷静で、マイナーな温泉のマイナーな焼酎を目当てに量産型蒸気機関車ハチロクに乗車しにくるの?と現実を見ています→だったら蒸気焼酎をメジャーにすればいいじゃないか!!とInternational Spirits Competitionに参戦することを決意。正規√だったら、ここから酒造業物語が始まるのでしょうが、オマケ√なのであっさりと8位入賞したよ!!

凪&ふかみ√


  • 修学旅行の疑似体験をするはなし
    • わりとあっさり目。凪とふかみにはそれぞれ急流下りの仕事がありましたがそれに加えて鉄道業の仕事もやってもらっていました。そのため二人に負担がかかっていることを知り、主人公くんが急流下りの手伝いをすることになります。ポーレット正規ルートではハチロクの共感能力によってナビから遠隔指示してもらい川下りを成功させた主人公くんでしたが、凪&ふかみ√では実力で舟を操っていきます。サブ√でなければ川下り観光業で√一本作れそうなノリ。しかしオマケシナリオなので川下り描写は早々に終わり、フラグ構築へ。主人公くんは鉄道事故トラウマにより感情の機微が鈍くなっていましたが、それを苦慮した凪&ふかみによって修学旅行疑似体験によって主人公くんをリハビリしよう大作戦が展開されます。包丁づくり体験ってポーレット√でもやったやん。で、主人公くんは無垢な二人に浄化されて自分を縛ってきた義務感から解放されてハッピーエンドを迎えます。うん、あっさり。

れいな√


  • 日本で石炭採掘は採算がとれるのか?というはなし
    • れいなはかつて鉱山で働いていた列車であるそうな。そんなわけで鉱山の蘊蓄が語られ結構面白い。もうこれ、れいなの過去編を丁寧に描き出しガチ鉱夫ばなしとかやっても製品として充分楽しめるのでは?とか思ってしまいます。八幡製鉄所とか筑豊炭田とか北九州工業地帯とか出てくるし、そこらへんをもっと掘り下げて新感覚☆鉱山ガール〜日本の石炭利用は鉄鋼と火力発電〜とかやれば正規ルートでもいけそう。客車と貨車の相違の説明とかわりと楽しいですし。しかし、れいなは結局サブヒロインですので、北九州で貨物線が復線しました、というところでそれなりに終わる。れいなが八幡製鉄所に派遣されるというはなしで「離別による恋愛感情の自覚」が発動しフラグ成立でめでたしめでたし。

稀咲√(わりと経済ゲー・鉄道路線に対する資本投資)


  • 地方創生について銀行と手を組む展開
    • 稀咲√が一番円満に終わる理想形エンドなのでは?(困難を乗り越えるドラマ性はないが。)地方創生のために地元民衆サイドと金融資本サイドが早期に手を取り合い鉄道復興します。紙芝居ゲーでも経済を扱う作品は多々ありますが、稀咲√では「地方銀行」が題材となっており興味深い内容でした。「闘争と協調の繰り返しによる健全な競争が技術発展を産み、経済が好循環していく。社会が硬直化しないよう、好循環を産むために、銀行は資金を融通し経済を活性化させている」云々というところは楽しく読めました。で、稀咲√では銀行頭取と腹を割って話し合うことで、金融資本サイドが工場誘致に強い「コダワリ」があるわけではないことが暴露されます。それ以外には経済活性化の手段がないから工場誘致を進めているのだと(そう考えるとこれまで金融資本サイドが行って失敗した地域復興は本当に独りよがりなものダッタンダナーと悲哀)。故に、銀行頭取から工場誘致以外に方法があるならやってみるがよいと課題を示され、頭取の娘かつ支店長でもある稀咲を与えられるのでした。
  • 鉄道路線に対する資本投資
    • この後はだいたいハチロク√の地域活性化と同じような感じ。廃線となった路線を複線し鉄道網を再構築して工業製品の輸送と組み合わせてウィンウィン。相違点は鉄道網の建設を投資対象として証券化し販売するところあたり?鉄道網建設に対する投資というと19世紀後半帝国主義を思い出すんですよねー。産業資本と銀行が結びついて金融資本が成立し、工業製品輸出だけでなく資本輸出が活発化して、インドとか中国の鉄道建設へ投資されていくとこ。まぁ稀咲√はサブヒロインなので早々に終結するのですが、デレ化した稀咲は結構破壊力が高いところがあります。幼少の頃に好意を抱いた主人公くんに全く相手にされなかった記憶から絶対に自分から好意は伝えず主人公くんに告白させようと焦れていた稀咲ちんとかニヨニヨしてしまいます。