千の刃濤、桃花染の皇姫「火取虫(国家政体論争編)」の感想・レビュー

米帝民主主義信奉者及び王室廃止論者と国家政体論争を行うことにより皇女が治世者として成長するはなし。
王権神授説な世襲制だからこそ自己に権力欲はなく民の安寧が第一であることを眼前に示す。
自らは神に統治権を授与されているだけ。ゆえに臣民に是非を問い民主主義を願うならそれでもかまわない。
しかしその前に米帝に支配される人種的抑圧から解放される必要があるのだ!!とクーデタを起こす。
そして傀儡政権を支配していた宰相は皇国を維持するための忠臣だったことが判明。
ところが米帝にクーデタは漏れており、火器と物量により圧殺されて、都落ちするのであった。

国家政体論争編


  • エルザ=ヴァレンタイン
    • 米帝宣教師外交を展開するヒロインです。米帝は建国以来、常に膨張してきました。西漸運動を推し進めフロンティアが消滅すると帝国主義侵略戦争に乗り出します。米帝の経済は産・学・軍が一体化しており、常に膨張し続けないと国家が破綻してしまうシステムが出来上がってしまっていたのです。日本はその犠牲となり米帝に搾取される対象となります。エルザは総督の娘であり、実父が植民地を搾取する様をまざまざと見せつけられてきました。純真なエルザは米帝が唱える「米帝民主主義によって蛮族の圧政から民を解放する」というお題目を率直に信じてきたのです。ゆえに理想と現実のギャップに苦しむことになります。
    • 自分が定まらないエルザは忠義を掲げる主人公くんにだんだんと惹かれていくようになります。ただ単に主君に盲従するのではなく、主君が間違っていたら諫め、「いつなんどきでも自分の心に嘘偽りなく向き合う」ことを実践する姿が輝いて見えたのでした。こうしてインスパイアされたエルザは総督の七光りから脱却し米帝民主主義のお題目に盲従するのではなく、自分が納得する「高潔さ」に身を捧げるのです。こうしてエルザは米帝が無差別爆撃を行うと民衆を救出するために祖国から離反するのでした。



  • 鴇田奏海
    • 鴇田奏海は傀儡となっている偽皇女です。思想としては王室廃止論者。米帝から侵略を受けた際、本物の皇女が国防の義務を十分に果たさず亡命したことに対して強い憤りを持っていたのです。そのため、ニセ皇女として擁立されると、強く帝政の廃止を願うようになったのでした。特に奏海は主人公くんの偽妹ということもあり、敬愛する軍属の主人公くんが国家のために意味もなく死ぬことを許せませんでした。そのため皇女ヒロイン朱璃と対峙すると、その罪を糾弾していきます。奏海を起用することを通して、朱璃に将来の政体に対するビジョンを持たせる装置とするのですね。朱璃は自らの王権についての認識を開陳していきます。
    • 朱璃曰く、王族が世襲して主権を握っているのは、神から統治権を信託されているからだとか→→王権神授説。さらに易姓革命の思想も取り上げ、自らの統治に不備があれば政権には固執せず、統治者が代わっても構わないと述べます。朱璃が目標とするのは臣民の安寧であり、それを全うするのが王族の役目であり、果たせねば責任を取ると。ゆえに、現状においてすべきことはまず米帝支配からの解放であり、その上で臣民の意思により政体を決めるべきだと主張します。こうして奏海は論破されることで、朱璃が治世者として器を広げるための役目を担ったのでした。



  • 小此木時彦
    • 中ボスは実は忠臣だったパターン2。傀儡ニセ皇女を擁立し、米帝支配下の間接統治において実権を握り、臣民を搾取していると思ったら・・・実は日本を守るためだったよーんというありがちな展開。米帝の宣教師外交をそのまま受け入れたら、国内の統治システムが徹底的に破壊され尽くしてしまうのでピンチ。ゆえに、米帝に対して皇族を中心とする日本的統治システムの有用性を示し、従来の政体を維持したまま間接支配を行わせるのが得策だと思わせるために暗躍するのであった!!つまりは逆賊と偽って皇族のために働いていたのでした。
    • 米帝献金していたのも恭順の意を示すためであり、私腹を肥やしていたと思われた財産も一切私利私欲には使われておらず、皇国再興のためにプールされていました。小此木は皇居爆撃により陛下が死亡した後、遺言に従って国を守ってきた忠臣だったのさー!!これまで敵対してきたのは若い朱璃の成長を待つためであり、王としての器を広げさせやカリスマ性を磨かせるためのものだったのです。小此木が自分という明確な敵を設定してあげることで朱璃の成長を促してきたのです。中ボス;小此木は朱璃に三種の神器を託し、主人公くんの生誕の秘密を匂わせて散っていきました。