千の刃濤、桃花染の皇姫(体験版)の感想・レビュー

架空戦記モノ。神権政治が残存する日本的な国が米帝に侵略されるはなし。
米帝の植民地支配に甘んずる日本人たちに民族的覚醒を促し、独立運動を展開せよ!と書くとコードギアス
米帝の対外膨張構造・統治の正当性を議論する歴史教育・民主主義の欺瞞・植民地支配と社会変革など大興奮!!
主人公くんが俺TUEEEするサムライチャンバラもあるし、幼馴染がヤンデレ化する展開もあるよ。
体験版はメインヒロインの皇女様の精神的成長が描かれ、個人的復讐から国家再興のための社会変革へと視点が引き上げられる。
しかし抑圧的支配の解放から国家形態を論じて統治システムに迫り社会契約論するのはもう既にやってるからねぇ。
ユースティアはあれだけ壮大な話を展開してメインは「主体的な意志の確立」だったしね。
どのようにオチをつけるのかが楽しみでもある。

体験版雑感

  • 箱庭支配VS宣教師外交
    • 物語の舞台は古代的な文化や風習が残存する日本。そこでは米帝から侵略を受けるまで穏やかな統治が行われていました。しかしその統治は為政者が一部の者に限られる世襲制であり、神権政治的な側面が根強かったのです。それは作られた箱庭の中での平和。一般民衆は確かに平和な生活を享受できていたのでしょうが、家畜的な幸福に過ぎなかったのです。この状況を危惧していたのが宰相でしたが、皇帝は進言を受け入れませんでした。そのため最終的に宰相によりクーデタが起こされ、合衆国の進駐を招くことになります。現代の日本人のほとんどが大衆的無党派層であり、主権者であることを認識せず、政治は偉い人にやってもらうものと惚けている姿勢が盛大に皮肉られているのです。
    • 米帝が掲げるのは宣教師外交であり、遅れた文明の国にアメリカ的民主主義を与えてやるのが天から与えられた使命なのだと主張します。いわゆる「マニフェスト=デスティニー」。しかしこれは侵略の正当化に過ぎず、米帝の経済構造が対外膨張なしにはやっていけないことが指摘されます。冷戦構造が崩壊したことにより、イデオロギー抗争の勝者となったグローバル資本主義。しかしそれが世界を覆ってしまうと競争原理が生み出した敗者の不満は宗教原理主義や地域主義、新保守主義や極右勢力に掬い上げられることになります。こうして国家間戦争からゲリラ闘争へとつながり泥沼化していくのです。つまりは現代社会がフン詰まりになっている状況が架空戦記を通して表現されているのです。
    • 以上のように考えると、じゃあこのゲームはそういった現代世界に対してどのような解決策を提案をするのか?ってのが注目されるところ。皇帝のご落胤の皇女さまは武人である主人公くんを操りどのような社会変革の夢を見せてくれるのかに期待が集まります。安易なご都合主義で終わらないことを願います。


  • 歴史教育と権力の正当化
    • はいはいIBDPや新学習指導要領が提唱する歴史教育でアクティブラーニングな歴史解釈ディベートのお時間ですよ。作中では、米帝が侵略を正当化する現代史を語るのに対して被支配者である日本人はどのように反撃するか?がテーマとして描かれています。歴史教育ってのは既存の政権が自らの支配を正当化するための装置なんだぜ?というおはなし。読んでいて楽しいなぁ。けどこういう討論形式は抽象的な思考操作ができりゃー楽しめるけど、ほとんどの高校生はナショナリズム的な方向に走りそうだなァーと思ってたら作中でも武力対立に発展してご覧の有様だぜ。
    • そもそも教科書の叙述自体そのものが解釈の一つに過ぎない。じゃあ、何でもかんでもご都合主義的な歴史叙述が許されるのかといったらそうでもない。客観的な歴史なんてものは存在しないけれども、なるべく客観的になるように複数の先行研究の比較や様々な史料の多角的な検討が必要とされるのです。けど授業でこのような歴史的思考力を育成するのは現状の高校教育ではとても難しい。我々歴史教員にできることは、教科書も一つの解釈であることを指摘するとともに、ではなぜ教科書はこのような解釈をしているのだろうか?と書き手の意図を類推させることくらい。せめてこれだけでも教科書が絶対唯一だと信じ込み、山川用語集を振りかざして、全ての歴史用語を丸暗記するのが歴史の学習だということを防げることができるんじゃないかなぁと。


  • 個人的復讐から社会変革へ
    • ルルーシュとおんなじようなノリ。当初皇女さまは個人的復讐に囚われ、クーデタを起こした宰相を殺して自分も死ぬと息巻いております。そこにはまぁ世襲的な皇女プライドとか伝統や因習の重みがあるのですが(育ててくれた乳母を特訓の仕上げとして手にかけていたりとか)。しかしながら我らが主人公くんは大局的な視点を持っており、じゃあ宰相殺したらどうなんのよ?と投げかけます。実質、米帝の支配は間接統治であり、宰相が祀り上げた偽皇帝を介して傀儡政権が建てられているという状況です。抑圧的な支配であるけれども秩序が保たれているのもまた事実であり、宰相ぶっころっただけでは無秩序な軍閥割拠状態になるのが目に見えているのです。それは合衆国の直接介入を招く口実ともなるので何としてでも避けたいところ。主人公くんは皇女さまに考えを改めさせるため、学園生活を体験させたり、植民地支配の実態を見せたりするのです。そして皇女さまは宰相と直接対峙する好機を得ます。この話し合いを通して、宰相を暗殺するだけでは駄目であることを悟りるのですが・・・ここからヤンデレ精神攻撃タイム。


  • ヤンデレ精神攻撃
    • 精神攻撃の毒牙にかかるのは皇女さまと幼馴染剣士。まず皇女さまは個人的復讐から社会変革へと転向しましたが、続いて国家と愛する男のどちらを選ぶかという天秤に迫られます。ここで皇女さまは愛する男(主人公くん)を選んでしまうのです。一方で幼馴染剣士ですが、彼女は長い年月を主人公くんのために捧げてきており、主人公くんもその好意に気づいているのですが、主人公くんは最終的に忠義を選んでしまいます。ぽっと出の皇女に長い年月を経た自分の思慕があっけなく敗退する瞬間でした。
    • 以上により皇女さまは自らの命と引き換えに反乱を起こそうとし、他方で幼馴染剣士は皇女さまを屠ろうとするのです。主人公くんを巡る女同士のサムライチャンバラのはじまりはじまり。展開は一方的であり、強靭な幼馴染剣士に対して皇女さまは手も足も出ません。よもやこれまで、といったところに主人公くんが現れ、皇族という血統にではなく皇女さま自身に忠義を捧げるのです。これにより皇女さまは「王としての意識」に覚醒し、世界を認識する視点が引き上げられます。ギアス発動!皇女の目覚めは従者の潜在的能力を引き上げることに繋がり、主人公くんは幼馴染剣士を打ち倒すのでした。こうして主人公くんと皇女さまは植民地支配を打倒するべく社会変革を始めるよ!というところで、傀儡皇帝がテロに巻き込まれて体験版はお開きとなります。