桃木至朗氏の講演会を聴講してきました。桃木氏が話したことをメモしましたので、今後の世界史教育を考えるうえで参考にしてみてください。(リアルタイムでタイプ打ちしたものなので誤字脱字がある箇所があるかもしれません)
1.高校歴史教育再編と入試改革の動き
- 日本の大学での歴史学は二つの点で世界一
- (1)史料を読んだり理論を扱うきめ細かさ
- (2)世界のほぼ全域についてハイレベルな専門家を擁する → 山川世界各国史など
- 日本では歴史学のレベルが学界外で認知されない
- 歴史オリンピックなどない 地理が必修を取り戻した背景には地理オリンピックがある
- 2020年度に向けて検定教科書の作成が始まっている
- 神戸大学付属 兵庫教育大学 悲観的な見方 現代社会・世界史Aが骨抜きにされた二の舞となる
- 必修でなくなった世界史の選択者が激減していく → 理科でいう地学的な扱いとなる
- 世界史の軽視はグローバル社会に真っ向から反対 大学ではこの危険性を認識できていない
- 火曜日にあった神戸大の歴史総合・地理総合 悲観的な見方 地理の先生が大幅に足りない → 世界史の先生が地理総合を教えることになるため地理総合がうまくいかない →共倒れ →大学人文系攻撃 →高校でも縮小してしまえ
2.現状維持はありえないのか?
2-1「国際化」「グローバル人材養成」と「アクティブラーニング」
- 昔:日本が優れた工業製品を作って輸出して外貨を稼げばそれでいい
- 昔の「国際化」→ 英語ペラペラの日本人
- 現在:特別な少数の日本人が外国のことを学んで海外で活躍する意味に限定されなくなる
- 観光客や労働者が普通の場面に入ってくる → 普通の学力の日本人が外国人に対応できなければおはなしにならない
- ※世界史Aはそもそもそれを狙いとしていた
- 英語教育だけじゃない 英会話だけ教えていればいいのではない すべての教育でグローバル化
- 観光客や労働者が普通の場面に入ってくる → 普通の学力の日本人が外国人に対応できなければおはなしにならない
3.歴史的思考力(・表現力・判断力)をどう整理・提示するか?
3-1 「歴史総合」について考えるべきこと
- 歴史的思考力について考える手がかりを桃木氏が提示する
- アクティブラーニング→主体的で対話的な深い学び
- 中学校教育との整合性
- 中学校程度の用語・事項を確認しながらアクティブラーニングを根付かせる 概念・考え方
- 現職教員の研修、教員養成をどうするか
3-2 世界史B・日本史Bの延長線上で考える方法との決別
- 大学での入試が変わらなければ何も変わらない
- 学校現場では教員が分担するやり方ではうまくいかない
- 用語中心の教え方は改めなければならない 用語を大幅に選定する必要性 機械的に頻度が多いものを残せばいいかというとそうではない
- 教員 → 世界史全体および歴史学全体を概観する大学レベルの授業を受けることが不可欠
- 教員が自らの体系的な世界史像を組み上げ、年間で教えられるカリキュラムを作る。
- 通史で最初から最後まで教えることは無理。しかしながらテーマがランダムになってしまうのも良くない。一定の通史的感覚を持ちながら テーマを設定する能力。教科書記述に唯一普遍一定の権威を求めることをやめる。
- 「用語集」に頼らずに教員が自分で教える事項を選定する能力
- 「問いから出発して授業を組み立てる能力」
- 教員一人一人が自分の世界史像を持つ。生徒には教員の世界史像は複数ある解釈の一つであり、教員がどのような根拠で世界を解釈しているのかを学ばせる。
- 受講生からの質問として出た事項
- 通史からの転換およびランダムでないテーマの代替として「一定の通史的感覚を持ちながらテーマを設定する」ことの重要性を唱えていたと思いますが、桃木先生自身はどのような世界史像を構想しておられますか?
- 桃木氏の答え
- 『市民のための世界史』を読め→「アジアを正当に位置づけ 日本を完全に含んだ世界史」
- 中教審ワーキンググループ
- 「歴史総合」
- 歴史上の転換点が現代とどうつながっていくか
- 比較・関連性・因果など → 小田中 比べる力・つなげる力
- 現代的な諸課題につながる歴史的な状況
- 大きな転換
- プリントに穴埋めしてこまかい用語を教えるのはダメよ
- 中教審では歴史の「概念」操作が多く使われている
- 概念 → 用語集が固有名詞や事件名だけではなく 概念が入っていないとだめだよ
- 文学部に来る人は概念が苦手
- 「歴史総合」
- 社会、地理歴史、公民で育成すべき資質・能力の整理(案)
- 知識や技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性
- 生徒が自分の問題として歴史を捉えられなければならない
- 「問い」を立てなければならない いい「問い」を立てられるか
- 考察、構想した結果、獲得する知識の例 → 東大や一橋大などの論述に答えられるようなレベル
- 中国、韓国、ベトナムなどは膨大な歴史の文章を覚えさせられるしフランスのエリートなどは大論述を課せられる。
- 一方で日本は文章ではなく単語レベルの暗記
- 新テストの目的と求められる力
3-3 定式化して教員が示す必要がある歴史の意義や考え方
- 歴史が好きじゃない子供たちの考え方
- フェイスブックで桃木氏物理学者と大喧嘩したはなし
- 「なぜ学ぶのか、学んでなんになるのか、どんな力がつくのか」を示す必要がある
- 日本学術会議「歴史的思考力育成の要点」
- 大阪大学歴史教育研究会 「歴史を学ぶ6つの意義と効用」
- 歴史は積み重ね…現在は過去の積み重ねの上にある。歴史を知らなければ、たとえば現在の日本社会がなぜこうなっているのかは理解できないし、したがって、日本の将来を考えることはできない。
- 歴史は繰り返す…人は過去の成功や失敗の教訓を学びながら、自分の行動を選択し判断することができる
- 長期的で広い視野…歴史は多くの場合、「時代」などの長い時間を扱うため、目の前の一日一日のことだけに一喜一憂するのではなく「長い目」で物事を評価・判断する力が求められる。また人文学以外の多くの学問が、人間社会や自然環境のなかの特定の側面だけを扱うのに対し、歴史を含む人文学は政治、経済、社会、文化や自然など多くの領域を含むため、ものごとを総合的にとらえる力が必要不可欠となる。
- 異文化理解…時代が違うと同じ国・地域でも、ものの考え方や社会の仕組みが違うことが多い。外国史の場合は「現代史」ですら自国とはちがったロジックで動いているのがふつうである。したがって歴史を学ぶことは自分たちの常識とはちがった考え方や仕組みを理解する訓練になる
- 情報リテラシー…歴史上の資料・記録はもちろん、現在の教科書ですら、同じ出来事について、書き手によって違った解釈・説明が与えられることは珍しくない。その背景には、書き手の知識や学力、立場、自分を正当化したり他人を非難する目的、学問的な理論の違いなど、いろいろなことが考えられる。そういうなかで事実を突き止めたり、妥当な解釈を選ぶ能力は「情報リテラシー」の一種である。
- 娯楽…歴史の色々なエピソードや人物像は面白い。良質な娯楽としての歴史の効用は大きい。
- 高大接続システム改革会議 重視すべき歴史学習のプロセスと評価すべき具体的な能力(案)
- 歴史を学ぶとこんないいことがありますよという考え方だけでなく歴史を知らないとどんなマイナスがあるかを語ることも必要(脅すことも必要)
- 共通の土台・基本的な概念の応用
- 歴史に固有な考えやパターンを蓄積して『歴史の基本公式100選』などがあってもよい
- 教材や課題などに応じてこれを習うとこんな能力が身につくよと例示
- 資料7-2 歴史の基本公式の例 A.歴史学の概念・論理 B.歴史のパターン C.「歴史の公式集」の記述例
- 教材や課題などに応じてこれを習うとこんな能力が身につくよと例示
4 「歴史的思考力」とアクティブラーニングの成果の評価方法
4-1 授業と評価の形態
- 毎時間する必要はない 形式面に陥るとかえってひどいことに陥る
- 教科独自の力と一般的学力や思考力を対立的にとらえたのではうまくいかない
- 資料やデータの読解を入れると国語のような問題になっていく
- あるべき試験形態 入試を改善する
- 大論文 事前にやらせた課題についての面接(口頭試問)
- グループ討論・発表 → 入社試験のノウハウに学ぶ?
4-2 「基礎学力を問う大規模入試」でもある程度可能な「考えさせる出題」とそれを継続する方法
- マークシートでも考えさせる問題がいくつかある
- 史資料を本格的に読まないと答えられない出題
- 正解の選択肢が複数ある 連動型複数選択問題
- 同じ事象について複数の解釈を示してそれぞれの背景や根拠を問う設問群
- 対立する複数の見解について両方とも論証を求めるような問題
- 実際に出題された例
- 16世紀の社会変動をテーマにしたとしても、発表方法などを出題する例も考えられる
まとめ
- 他流試合
- 高大連携・中高連携や博学連携など
- データベース
- 情報や資料を蓄積し簡単に探せる仕組みを共同で作る。