学校世界史の授業転換〜知識の網羅から概念の獲得へ〜

レジュメ台本

(1)内容構成論:世界史の授業で何を教えるか

  • (1)-1.受験対策
    • 世界史を受験に使わない生徒は?
      • 予備校は大学受験に合格することが至上命題であり受験対策をする。しかし学校の場合は全員が世界史を受験科目にするわけではない。受験対策を前面に押し出しすぎると、受験に世界史を使わない生徒は内職に走る。
  • (1)-2.教科書
    • 授業時間数と通史の問題
      • 授業時間がタップリある場合は教科書の配列通りに解説を行うことも可能だが、学習指導要領における規定単位数(B科目4単位=140時間・試験や行事など潰れるため実質110時間前後)だけで教科書の内容をすべて終わらせるのは不可能に近い。配列通りにやって時間切れになり、受験で世界史を使わない生徒はこれで世界史の学習はオシマイ!というのではあまりにもオソマツである。
    • 平坦な授業
      • 教科書を諾々と配列通りに解説するだけでは平坦な授業になってしまうし、予備校講師が出している講義録(実況中継やナビゲーターなど)を読んだ方が早い。
  • (1)-3.トピック
    • 高校生の興味・関心
      • 世界史の範囲から高校生が知っておくべき重要なことや、ニュースで取り上げられているタイムリーな時事的問題をトピックとして取り上げる。
    • 題材の恣意性
      • これは生徒に興味関心を引き出し、学習意欲を高めやすい。しかし取り上げるトピックが恣意的になる・体系性が崩れる・全体の流れが分からなくなるという批判点も多い。そのため全体の学習内容やカリキュラムにどのように位置付けることができるかを明示する必要がある。
  • (1)-4.形式陶冶
    • 知識から考え方へ
      • 従来、歴史系科目では実質陶冶的な立場であり、「知識」を習得することが目的とされてきた。しかしそこから転換し、形式陶冶的に、歴史の内容を教えることを通して、読解力リテラシー・要旨把握力・論理的表現力などの「抽象的な思考操作の力」=歴史的思考力を習得させることを主眼に置いてはどうだろうか。
    • 歴史的思考力とは何か?
      • ここで問題となるのは歴史的思考力の定義だが、大学入学希望者学力評価テストの「評価すべき具体的な能力」やIBDP「歴史」が参考になる。
  • (1)-5.知識の網羅ではなく主要概念の習得
    • 「歴史」で重点が置かれる6つの重要概念
      • 原因、結果、連続性、変化、重要性、観点。授業で扱うことのできるすべてのトピックをつなぐ「概念の軸」となる。
    • 「概念の軸」と体系的な授業
      • さまざまなトピックの組み合わせが可能だが、この「概念の軸」があることにより、多様な選択肢のなかから教師がどのトピックを選んでも、一貫性のあるコースを設計できる。

(2)指導方法論:世界史の授業をどのように教えるか。

※ここでは「網羅的な知識」でなはなく「主要概念」をどのように教えるかについて述べる。

(2)-1.目的達成学習
  • (2)-1-a.「なぜ」という問い
    • 「導入」
      • 授業では「導入」段階が一番重要。「導入」で生徒たちの学習意欲を喚起させる。まず最初に「なぜ」の発問から始める。例えば「1848年革命」を扱うとしたら「なぜウィーン体制は崩壊したのだろうか?」などの設定を行う。
  • (2)-1-b.仮説を立てる
    • ペアワーク
      • 隣の人と「導入」における「なぜ」に対して仮説を立てる。ここでは正確な答えは求めずブレーンストーミングでよい。様々な柔軟な発想を立てさせる。自分の頭を使わせることが重要。机間巡視して目ぼしい仮説を探しておき、何人かに発表させる。最初のうちは選択肢形式にして、なぜそれを選んだのかを話し合わせるのでもよい。
  • (2)-1-c.仮説の検証
  • (2)-1-d.学習のまとめとリフレクション
    • 「やりっぱなし」ではなく振り返りが重要
      • 授業の最後に「導入」時に立てた「なぜ」に対する答えを生徒たちにまとめさせ、自分が立てた仮設を振り返らせて比較させる。そして教員の説明に対してどのように思ったかを書かせる。こうして1時間の授業を通して問いの答えを出せた達成感を得ることができる。
(2)-2.時事問題
  • (2)-2-a.NIE (Newspaper in Education)
    • 要旨把握力・根拠を示して論理的に説明する力
      • 時事問題は生徒の興味をひきやすい。生徒に国際欄の新聞記事を与え、要約文と意見文を書かせる。そしてペアワークでお互いに相手の書いた文章に対してコメントを行わせる。こうして現代世界で起こっている諸問題に対して自分の考えを持たせることができる。
  • (2)-2-b.現代社会の諸問題の歴史的背景
    • 私たちが生きている世界は歴史の上に成り立っている
      • 現代社会の諸問題について、生徒たちは「なぜ」そのような問題が起こっているのかと疑問に思うことであろう。その疑問を解消しながら、その歴史的背景を学ばせる。例えば英のEU離脱問題であれば、「なぜEUを離脱したいのか」という疑問に対し、グローバル資本主義の問題やEUの歴史的展開、戦後イギリス内閣史などを扱うことができる。
(2)-3.ICT活用 〜授業動画を動画共有サイトにUPする〜
  • (2)-3-a.反転授業
    • 学校でしかできない授業
      • 知識を習得するには様々な媒体があり学校の授業というのもその一つに過ぎない。一斉授業をするのもよいが、わざわざ学校に来るのだから、学校でしかできない授業展開をした方がよい。同年代同士で教室に集まっていることを利用して、他者と交流させることで、生徒の考えを多角的・多面的に深めさせたい。
    • 探究のための前提知識
      • しかし他者と交流する時に、前提知識がないと、上滑りになってしまう。そこで学校の授業を受ける前に、インターネットで単元の学習をしておいて、学校では探究的な活動を行う。従来とは展開が逆となるため、反転授業と呼ばれる。
    • 教員が自分で動画をネットにあげるべき
      • 反転授業の醍醐味は、教員が自分で動画を撮ってネットに載せることである。動画サイトには動画講義などいくらでも転がっているので既存の動画講義を使ってもよいし、NHK高校講座などを見させてもよいが、教員の数だけ歴史の解釈はあるので自分の歴史観を生徒に提示すべきである。また生徒は見ず知らずの他人の講義はなかなか自分から見ない。
  • (2)-3-b.知識の担保
    • 一斉授業を能動的に受けられるようになる
      • 学校の授業で主要概念の獲得を目指した授業を行うと、生徒自身が知識の体系化がおろそかになっていると実感する時が来る。これは探究的な活動をすることが悪いのではなく、逆に生徒の学習意欲が喚起されたと捉えるべきである。最初から何も考えずに一斉授業を行うと、生徒はただ授業を聴くだけの受け身となってしまう。しかし生徒が体系的な知識を必要とした時、一斉授業を能動的に受けることができるようになる。
    • 体系的な知識を習得するためにも動画講義は使える
      • 反転授業とは逆になるが、復習や補完として動画を見させることも可能である。しかしただ見させるだけでなく課題としてノート提出を行わせたり、動画講義をきちんと理解したのかをみるため小テストを行ったりして生徒の学習状況を把握しておく必要がある。