【地図・資料】新京観光資源総整理(エリア別)

新京の観光資源がどのような役割を果たしていたかを分析するために、地域別で整理した。
旧市街は満洲国建国以前の長春(満鉄附属地・寛城子・商埠地・城内)。
新市街は満洲国建国以後、国都建設計画で作られた地域。

1.旧市街

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地図は『国都新京案内』(新京観光協会、1940)。

1-1.旧満鉄附属地

1-1-1.中央通り沿い
  • 新京駅
    • 現在(1939年当時)の新京駅の建物は1914年に竣工。国都の表玄関。交通の中心地。
  • 中央通
    • 新京駅南の広場から放射する真南の道路。旧満鉄附属地の中央部を通って大同大街に接続する。
  • 新京ヤマトホテル
    • 1909年の建設。純洋風建築で国際ホテル。新京上流階級の社交場。
  • 満鉄新京支社
    • 1907年10月満鉄長春出張所として附属地行政。幾たびの改称後、昭和12年7月新京支社となり12月に附属地行政権を満洲国へ移譲。
  • 新京神社
    • 中央通西側。広大な神域を占める。大新京鎮護の神として、天照・大国主明治天皇を祀る。
  • 満洲新聞社
    • 新京神社周辺。高い塔を持つ。満洲日日新聞の姉妹紙。満洲文化、産業開発、民族の融和親善に主力を注ぐ。
  • 満洲弘報協会・満洲国通信社
    • 1937年10月竣工。満洲新聞社前。満洲の新聞統制機関。満洲国通信社は7月に独立。
  • 児玉公園
    • 旧満鉄西公園。児玉大将を記念すべく1938年に改称。潭月池のボート、林美しい夕陽丘、野球場、陸上競技場、冬はスケートリンク、落下傘塔、メリーゴー-ランド、誠忠碑(寛城子事件の慰霊碑)、海軍記念碑などがある。昔の西公園は中央通の突き当りであったが、国都開発計画により大同大街に接続した。
  • 関東軍司令部/日本大使館
    • 児玉公園の南、中央通西側。関東軍司令部と同じ建物に日本大使館があった。1934年竣工のその建物は「お城風の厳然たる建物」、「館頭高く燦として煌く菊花御紋章の尊さ」。在満日本大使は軍人で関東軍司令官、関東局長官を兼ねた。
  • 関東局/憲兵隊司令
    • 中央通東側。道路を挟んで関東軍司令部の会い向かい。関東局と憲兵隊司令部の合同庁舎。

1-1-2.旧附属地東部エリア 日本橋通り周辺

  • 日本橋通周辺
    • 新京駅南の広間から放射する東南の道路。富士町、三笠町、吉野町を斜めに突切って南広場に至る。カフェ、バー、ダンスホール、キャバレーなどでひしめいている。
  • ピンカンリ
    • 新京に二つある満人妓館地区の一つ目。別名「平康里」。南広場北東の大和通にある。
  • ロシア人喫茶店
    • アウエチシヤン、アララート、アルメニヤ等。ロシア少女の運んでくるピロシキやプーロシキなどを味わう。
  • ロシア人キャバレー
    • 1928、29年頃創業のモデルン、インペリアル。新築のサモワールサモワールは「-ロシアムスメの店・土曜日は古代衣装で踊ります-などと、ちょつとアトラクテイブな広告をする」。「玄関を入るとすぐホールで、まはりにテーブルを置いて踊つたり飲んだりするという寸法である。ニーナだかナターシヤだとか、小説でお馴染の深い名乗りをあげて、一打ほどのロシアムスメがよき鴨ござんなれと待機してゐる」(『新京案内』1939)。
  • 日本橋公園
    • 俗に東公園ともいう。満鉄を記念する創業館がある。旧附属地と商埠地の境目。
  • 新京銀座・吉野町
    • 中央通の東側。吉野町は銀座通りと呼ばれる随一の繁華街。附近の祝町、東一条通と共に歓楽街。

1-2.旧寛城子エリア(新京北西部)

  • 寛城子
    • 旧東清鉄道の附属地。ロシア人が居住していたため、ロシア風の建築群が見られる。
  • 寛城子戦跡記念碑
    • 寛城子事件(満鉄職員殺害から端を発した日本と東北軍閥が衝突)及び満洲事変における戦闘が行われた戦跡。

1-3.旧商埠地

  • 商埠地
    • 日本橋公園(東公園)から朝日通を超すと、商埠地大馬路へ入る。大同広場から北西に伸びる長春大街と交叉する所までが商埠地。満人街を形成している。
  • 宮内府
    • 宮殿が出来るまで商埠地に執政府(後、宮内府)が置かれた。結局、順天大街の宮殿は完成しなかった。現在の偽満皇宮博物院。
  • 清眞寺
  • 泰発台
    • 四馬路の角には満人百貨店最大の泰発台がある。
  • 新民戯院
    • 四馬路の横丁の露天街にある。新京唯一の支那芝居の小屋。
  • 小盗児市場
    • 六馬路から三馬路あたりまでずっと続いている古物商。古着屋、ガマの油屋、靴、帽子、古土瓶の蓋、サイダーの王冠などの店が並んでいる。

1-4.旧城内

  • 城内
    • 商埠地大馬路と長春大街の交差地点に城内の北門の跡がある。ここから南関までが城内。いろいろな商店の現物を象った看板を見て歩くのが面白い。
  • 新天地
    • 新京に二つある満人妓館地区の二つ目。別名「向春路」、「歓楽地」。1937年に附属地以外の妓館が移転、一廓に集められた。四方に門があり中央に広場。小屋掛の支那芝居などがあり、飲食物の露天が並ぶ。妓館の数は百軒程度もある。
  • 関帝廟
    • 全安橋の北にある。新京を訪れる書家たちが必ず絵にするところ。満洲情緒の豊かな廟。
  • 南関
    • 長春城内の南門があったところ。伊通河を渡つて吉林街道に続く全安橋の袂。

2.新市街

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2-1.大同大街

  • 大同大街
    • 新京中央を貫く道路。新発路で中央通りと接続する。大同広場以北はビル街。以南は官公庁。順天公園を経て新京南端の建国広場まで続く。
2-1-1.大同広場以北
  • 忠霊塔
    • 大同大街より西部。故武藤元帥以下、満洲の土を鮮血に染めた護国の英霊を祀る。
  • 大同広場
    • 国都の中心の広場。新京特別市公署、首都警察庁、電々会社、中央銀行が立ち並ぶ市政・経済の中心。
  • 護国般若寺
    • 大同広場東北の長春大街にある臨済宗の寺院。門、仏殿、鐘楼、鼓楼が丹碧に彩られて美しい満洲らしい寺。
  • 興安大路
    • 大同広場から北西に走る大道。市が自慢のパークウェイ。
  • 国立衛生技術廠
    • 興安大路を西進して鉄道を越えた競馬場の向かい側。国内医務、防疫行政の完璧を期する民生部の直轄機関
  • 新京医科大学
    • 国立衛生技術廠の北部。民生部の所管で満人を主とし若干の蒙古人の学生からなる。
2-2-2.大同広場以南
  • 新京特別市公署
    • 大同広場の南東。国都建設計画で最初に着手。新市街で一番古い建物。
  • 首都警察庁
    • 大同広場南西。特別市公署と並び新市街で一番古い建物。東洋風な好ましい建築。
  • 協和会本部
    • 大同広場を南下し、大同大街が下り坂に入る東側。倶楽部か住宅風の瀟洒な建物。
  • 白山公園
    • 協和会本部の西。大同大街を挟んで会い向かい。園内には動物園がある。
  • 大同公園
    • 協和会本部の南。国都建設計画で出来た最初の公園。野外音楽堂、プールがある。イタリアから贈られた牝狼の像も園内にある。
  • 牡丹公園
    • 大同公園の西。大同大街を挟んで会い向かい。テニスコート、花苑、温室等がある。
  • 孝子墳
    • 大同公園の正門の前、大同大街の西側の道路にある小高い古墳のようなもの。満人の信仰の厚い廟で大同大街の建設にあたって特に取り残された程。民族融和の象徴。
  • 世界紅卍会
    • 孝子廟の南。大同大街と興仁大路との交差点。満人の道教系施設。朱や緑に彩られた門が美しい。
  • 内務局・民生部・経済部・専売総署
    • 興仁大路を過ぎて大同大街をさらに南下した地点。国都建設計画により立てられた近代建築群。"

2-2.宮廷御造営地周辺

  • 宮廷御造営地
    • 大同大街と交叉する興仁大路を西へ進む。溥儀の宮廷予定地。完成しなかったが、後に中国共産党満洲国時代の設計図を基に完成させ、現在は吉林大学。地質宮と呼ばれている。
  • 南新京駅
    • 興仁大路の西端の突き当り。将来の国都の表玄関となるべき駅とされていた。
  • 国務院・治安部・司法部・交通部・合同法衙
    • 宮廷御造営地の正門前の順天広場から南に走る順天大街に位置する官衙群。政府機関の大建築が点在して新国都の新鮮な美しさと溌剌たる生気を感じさせる。建築の美しさには驚嘆せずにはいられない。
  • 順天公園
    • 国務院、治安部の南。順天大街から大同大街の東の果てまで続く広大な公園。
  • 黄龍公園・南湖
    • 順天大街の南部の突き当りの安民広場の南部。南湖は人造の湖水。

2-3.新京南部エリア

  • 南嶺戦跡記念碑
    • 大同大街の南端の突き当りである建国広場から東方の地域。満洲事変において戦闘が行われた戦跡。新京周辺では南の南嶺と北西の寛城子で満洲事変に際して戦闘があり犠牲者を出した。
  • 大陸科学院
    • 大同大街南部。建国広場の北。白亜の建物。満洲国の資源開発並に産業各部門の伸長確立を図り、満洲国の科学的研究を統制するために設置。1937年に竣工。
  • 大同学院
    • 南嶺戦跡北部。満洲帝国の管理養成機関。国務院に直属する。
  • 建国廟
    • 大同大街の南端の建国広場の東南。満洲国の鎮めとして、建国功労者の霊を合祀すべく建設。
  • 建国大学
    • 建国廟に隣接する満洲帝国の最高学府。帝国の指導者を育成すべく、各民族の青年中より選抜。
  • 総合大運動場
    • 南嶺記念戦跡を北上し、中央警察学校の北。運動場の東部には中央観象台、西部には大動植物園の建設計画。

全体図

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参考文献

  • 以下より作成
    • 『南満洲鉄道旅行案内』(1909年12月、1912年10月、1917年1月、1919年6月、1924年9月、1929年12月、1935年4月)、『満支旅行年鑑』(昭和14年版~昭和18年版)、『観光地と洋式ホテル』(鉄道省、1934)、『国都観光バス案内』(新京交通株式会社、1938)、『新京案内 康徳6年版』(新京案内社、1939)、『鮮満支旅の栞』(南満州鉄道株式会社 南満洲鉄道東京支社、1939)、『満洲の観光バス案内』(大連都市交通株式会社 大連都市交通等、1939年)、『国都新京案内』(新京観光協会、1940)