- Key word
- コンテンツから文化財へ
- コンテンツ作品において、文化財がシナリオの演出をする上で重要な役割を果たす場合があります。その際に対象として扱われた文化財は「物語の効果」によって深く視聴者の心に残ることとなり、従来の文脈からだけではなく、新たな価値が創出されます。こうしてコンテンツを通してその文化財が注目されるようになると、これを契機として歴史的意義もまた再評価されていきます。すなわち、コンテンツとヘリテージの重層的な価値が生まれるのです。ここに、コンテンツだけで閉じてしまう一過性のブームで終わるのではなく、コンテンツをフックとして地域や文化そのものへと関心が広がっていくという可能性を見出すことができるのです。そしてコンテンツ作品に登場した文化財を通して、教科教育や社会教育を行うことが出来れば、ただのミーハー的な興味関心から(※最初はミーハーなノリでも全く問題はない)、文化財の保護・育成・継承にも繋げていくことができるかと思います。
- 『あの花』における「秩父吉田の龍勢」の扱いとそのシナリオ上の効果
- それでは『あの花』という作品において「秩父吉田の龍勢」はどのような意味を持つのでしょうか。『あの花』という作品は、一人の少女の死によって崩壊してしまった仲良し幼馴染グループの絆の再生が主題となっています。少女の死がトラウマとなり疎遠になっていた幼馴染たちが、死んだはずのヒロインの死霊の出現を契機として様々な衝突や葛藤を体験し、最終的には再び絆を回復するという内容です。ヒロインの死霊は「生まれ変わり」すなわち「輪廻転生」を目指しているため、未練を解消して成仏させることが、物語の目的となっています。死霊の少女は現世における自分の未練に気づけていないので、様々なことにチャレンジすることになるのですが、その一つが「打ち上げ花火」=「秩父吉田の龍勢」だったのです。幼馴染グループの構成員たちは、様々な打算によってこの企画に参加するのですが、最終的にこの「秩父吉田の龍勢」イベントを体験することによって、自分の罪を告白し腹を割って話せるようになるというシナリオ上の機能を持っています。それ故、本作において「秩父吉田の龍勢」は視聴者の心に強く響くモチーフとなり、新たな価値観が付与されることとなったのでした。
- 『あの花』ファン「龍勢サポーターズ」が果たしている地域文化における役割