【レジュメ】満洲国における各観光事業団の実践事業の特徴

前回は『満支旅行年鑑』を調査し、満洲国における各観光事業団の取り組みを整理した。

今回はこれらの事業の特徴を分析する。

満洲観光連盟の各事業の特徴】

満洲観光連盟の各事業を分析すると、まず初めに観光資源の創出が見て取れる。具体的には、観光写真や観光論文の募集や絵葉書、ポスターの発行などである。昭和15年度が事業のピークであり、観光資源の募集、観光百選の決定、観光美術展の開催、初めての観光週間の実施など様々な取り組みを打ち出している。特に観光週間については「国土宣揚、観光観念の正しき認識の強調に予期以上の成果を収め、茲に満洲最初の観光週間は滞りなく終了した」とかなり高い評価をくだしている。
 
そして満洲観光連盟の事業として特に強調されるべきものが、欧米を始めとする各国旅行団の招聘であり、様々な欧米団体を満洲国に招いている。昭和13年度のアメリカ、カナダのハイスクール女教員16名を満洲に招聘したことに始まり、昭和14年度には蘭印女教員団、アメリカ・カナダ女教員団、印度人教育家団、朝鮮新聞記者団などの団体や作家・作曲家・作詞家など文芸方面の誘致も行っている。外国旅行団の招聘も昭和15年度がピークであり、メキシコ、アメリカ、ドイツ、ブラジル、スペイン、カナダなどの国の学生や知識人達を招いている。昭和16年度には国際観光宣伝強化及び外人接遇改善座談会が新京に開かれており、ベルギーや南米チリの知識人や民国の教員団を招聘している。満洲国の存在を世界に認知させ、正当化を図るための努力が観光事業からうかがい知ることができる。

奉天観光協会の各事業の特徴】

奉天観光協会の特徴としては各種旅行団の催行である。戦跡参拝からハイキング団まで多くの団体旅行を組織している。特に日露戦争満州事変に関する戦跡が豊富にあるのが奉天であり、戦跡への巡拝は数多く組まれている。また奉天清朝と関係が深い地域であり、北陵・東陵という観光資源がある。北稜が清朝第二代ホンタイジの陵墓で、東陵が清朝初代ヌルハチの陵墓である。これらの陵墓を参拝する証として入門証が配布されている。奉天はまさに「中国色」が観光資源となっていたのだ。そして奉天観光協会は観光業に従事する人材の育成にも力を入れており、時々講習会が行われていることが分かる。

【新京観光協会の各事業の特徴】

新京観光協会の特徴としては、まず初めに出版攻勢が挙げられる、リーフレット、パンフレット、地図、絵葉書など大量の印刷物を発行している。また従業員を観光バスに乗せて新京観光を経験させていることも重要であり、サービスを提供するホスト側の観光認識を深めようとしている。そして新京では、昭和15年度、16年度にペストが発生しているにも関わらず観光客が訪れていることが特色である。さすがに昭和16年度はペストに加えてガソリン統制のため観光バスの利用者は減るが、それでも4万815名が観光バスに乗っており、10万を超える人が観光案内所を利用している。

【哈爾濱観光協会の各事業の特徴】

ポスター、地図、パンフレット、写真などは他の各観光協会と同様であるが、歴史的特質としてロシアをウリにしていることが挙げられる。松花江湖畔にロシア料理店観光亭を開き、ロシアグルメを提供している。また、この松花江において煙火大会を何度も開催している。そして哈爾濱といえば、いわゆる夜の観光で有名であるが、昭和14年度にはこの夜の観光を発展させるための座談会が開かれている。そして夜の観光関連として女中の育成にも力が入れられており、昭和13年度と14年度には女中を実際に哈爾濱観光させている。また土産物の開発・販売にも力を入れており、創出支援や販売斡旋なども行っている。

これからやること

  • done やった
    • 満洲国に行くための諸制度については調査済み→観光斡旋機関、旅券制度、旅行ルート、費用概算
    • 満洲国の観光国策も調査済み 観光委員会、満洲観光連盟、各都市の観光協会の年度ごとの取り組み
    • 国都新京については、メディア表象(『満支旅行年鑑』、『満洲グラフ』、各種パンフレット)分析、旅行者のまなざし(各種旅行記・紀行文)は調査済み
    • 博物館に関しては、満洲国国立中央博物館について、新京本館と奉天分館の取り組みは調査済み
  • to do やる
    • 満洲国における観光都市の比較を行うので、清朝からの伝統が色濃く残る奉天およびロシアによって支配されていた哈爾濱を取り上げ、新京と同様にメディア表象と旅行記分析をやる。
    • メディア表象については、『旅行満洲』(後継改題誌『観光東亜』、『旅行雑誌』)の調査をしていないので、それもする。