雑録

【ネタだし】「観光と歴史教育に関する研究について」

これは枯渇した脳みそで無理やり捻り出した文章的な何かである。

1.研究課題の背景

 この研究は、歴史教育の限界点を観光学の観点から克服することを試みる研究である。まず研究課題の背景として、歴史教育の問題点と先行研究について述べる。

1-1.問題の所在

 現代の日本で歴史を学ぶ場面は主に二つに分かれる。一つ目が学校教育であり、二つ目が社会教育である。しかしながら両者とも様々な問題を孕んでいる。
 まず学校教育についてだが、これは歴史を学ぶ動機や内容に問題がある。一部の歴史好きな生徒を除き、歴史に対する興味関心は低く、カリキュラムに組み込まれているから単位を履修するために学んでいる。また仮に熱心に学習している生徒がいるとしても大学受験の試験科目であるからという側面が強い。教科内容についても、抽象的な概念の理解や用語の暗記が中心になっており、生徒は自分たちと関係のあるものと実感できず、どこか遠い出来事として内容を学んでいるにしか過ぎない。
 次に社会教育の問題点について述べる。社会教育で歴史を学べる場として博物館などの文化施設がある。博物館の4機能として文化財の収集・保管・展示教育・調査研究があるが、社会教育に関わるのはこの展示教育の分野についてである。博物館では常設展示の他に、様々な企画展示を行うが、それでも展示に興味を持つのは一部の層であり、なかなか裾野を広げることは難しい。文化財を継承していくためには、その認識を深めさせ、普及していく必要性があるので、歴史に興味の無い人々に如何にして足を運んでもらい、興味を持ってもらえるかという工夫が必要になってくる。
 以上のように、歴史を学ぶ場面において様々な問題があるのだが、これを解決するための一助となるのが、観光である。特に近年では、大衆娯楽に起因する観光が注目されており、これをきっかけにして地域資源にも興味を転化させる現象が見られている。この動きを歴史教育に取り入れて、その限界性を打破する試みを研究したい。

1-2.先行研究

1-2-1. 大衆文化を起因としながらも地域資源そのものへと興味が転化される事例に関する研究
  • ①Philip Seaton,Takayoshi Yamamura, Akiko Sugawa-Shimada, and Kyungjae Jang Contents tourism in Japan Cambria Press, 2017
    • コンテンツツーリズムの理論化を図り、その理論によって日本国47都道府県に渡る事例を3つの時間軸にそって分類し、体系化した論考。コンテンツツーリズムはアニメツーリズムだけではなく、歴史がコンテンツの一種になることを分析枠組みの一つに入れており、「ヘリテージ and/or コンテンツツーリズム」という概念が打ち出されている。「ヘリテージand/orコンテンツツーリズム」とは、日本史における重要な出来事は様々なコンテンツで繰り返し描かれているが、それら大衆文化における歴史叙述が遺産地への訪問を促している現象のことであると定義づけている。
  • シートン・フィリップ「歴史コンテンツとツーリズム」(山村高淑他編『コンテンツ・ツーリズム研究の射程 : 国際研究の可能性と課題』CATS叢書,第8号、北海道大学観光学高等研究センター、2016、65-81頁)
    • この文献では、コンテンツツーリズムにより文化財に新たな価値が創出されることが述べられている。地域ブランドを構築する際に歴史的人物を活用するという戦略のメリット・デメリットを考察している。ヘリテージツーリズムとコンテンツツーリズムのつながりとして「ヘリテージ and/or コンテンツ・ツーリズム」の概念を用いている。具体的には、姫路市圓教寺西郷隆盛には全く関係がないが『ラストサムライ』のロケ地としては西郷ファンを誘致している事例を紹介し、ヘリテージツーリズムの立場から見れば無関係でもコンテンツツーリズムから見ればオーセンティックになり得ることを指摘している。
  • ③山村高淑「コンテンツツーリズムと文化遺産価値へのアクセス」(岡本健編『コンテンツツーリズム研究〔増補改訂版〕』福村出版、2019、224-229頁)
    • ICOMOS(国際記念物遺跡会議)による”International Cultural Tourism Charter”(国際文化観光憲章)を取り上げながら、コンテンツツーリズムが地域の文化遺産を活性化する可能性について論じている。文化遺産を活用したツーリズム振興とは「その文化遺産の保護・継承に向けた「ファン・サポーターづくり」である」と主張し、アニメツーリズムは当該文化遺産に興味関心を抱いていなかった一般大衆を動員できると唱えている。「アニメをきっかけとして地域資源の再発見・再評価が行われ、地域資源の再活性化が誘発されるプロセス」を指摘している。
1-2-2.コンテンツにより文化財が再評価された具体的な事例「埼玉県秩父市」に関する研究
  • ①大谷尚之「埼玉県秩父市と『あの花』」(大谷尚之, 松本淳, 山村高淑『コンテンツが拓く地域の可能性 』同文舘出版、2018、84-99頁)
    • 埼玉県秩父市を舞台にしたコンテンツ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下『あの花』)に関する聖地巡礼と地域の取り組みを詳細に分析した論考。「龍勢祭」を巡る一連の動きを「魅力的な地域資源を出発点とした、リアルとファンタジーの往還運動」と捉えている。「龍勢祭」は「コンテンツ製作者、地域社会、ファン、それぞれが配慮し合いながら、「作品のその先」を創り出すことに成功した」とその意義を価値付けている。
  • ②秋本弘章「『聖地巡礼』と地理教育 〜「あの花」を事例に〜」(『地理月報』549号、二宮書店、2017年、10-13頁)
    • 『地理総合』が開始されるにあたり、地理教育の新しい方向性が「聖地巡礼」(アニメツーリズム)と一致していることを主張している。『あの花』に関しては、「段丘崖」が思春期の悩める心情を表現していることや「三十四箇所霊場巡り」が死霊顕現という作品のモチーフと関連があること、そして秩父と東京との微妙な距離感が地理教育の題材として効果的であることを紹介している。

1-3.先行研究の問題点

 大衆文化は人々に浸透しやすいので、それによって誘発される観光は、今までリーチされなかった層にまで観光資源への興味・関心を届かせる。そして従来の地域資源にコンテンツという新たな価値が付与される。しかしながら、ただコンテンツに誘発されただけでは一過性のブームに終わってしまうため、地域資源へと興味関心を転化させ、地域そのものと接続させる必要がある。コンテンツ→文化財・遺産→それを内包している地域システムそのものへと観光客の興味・関心を拡大させていくことが求められる。その事例として成功しているのが、『あの花』の舞台となった埼玉県秩父市における吉田の龍勢であり、秩父市は地理教育の題材にもなっている。
 以上のように、観光は歴史や地域資源と深く結びついている。しかしながら、コンテンツ目的で観光地にやってきた人々に地域そのものを好きになってもらうための工夫や仕組みについては研究、および実践が十分であるとは言い難い。地元民は情報を発信する側にあるが、地元であるからこそ、自らの地域資源には気づきにくい。郷土教育や地域学習があってこそ、人々は自らの地域に愛着を持ち、それを訪問者に語れるようになる。観光地はそこにあるものではなく育てるものである。また、コンテンツをきっかけにその地域に興味を持った人々が、体系的に地域の情報を得られる仕組みづくりが必要である。現地においては地域の博物館や文化施設などのコアとなる拠点づくりや、ネット上ではコンテンツに関する地域の周辺情報の提供などが求められる。
 上記をまとめると、①学校教育における歴史の授業でコンテンツツーリズムを取り入れ地元及び他地域の地域資源を再発見するような教科指導を作り実践すること、②地域の博物館をコア施設とし、コンテンツツーリズムを取り入れながら、コンテンツだけでなく地域そのものの魅力を発信できるような研究をし、実践することが必要である。

2.目的

 冒頭でも述べたが、この研究の目的は歴史教育の限界性を観光学の観点から克服することを試みる研究である。その手段として用いるのが大衆娯楽によって誘発された観光、すなわちコンテンツツーリズムである。大衆娯楽は作品に登場する舞台や文化財、キャラクターなどによって地域への関心を高める効果がある。しかし、それらの舞台となる地域には歴史的・文化的背景がある。コンテンツを通して当該地域への興味・関心にまで転化させるにはどうすれば良いか。この原理を解き明かし、応用することが、本研究の目的となる。

3.内容

 本研究は歴史教育を扱うわけだが、その内容は主に教科教育と社会教育に分けられる。
 まず教科教育に関する内容について見ていく。これは現在、高校に勤務しているが、そこでの研究・実践である。今年度は埼玉県のコンテンツツーリズムから歴史教育を展開した。埼玉県は県の観光政策としてコンテンツツーリズムを重視しており、2019年度はちょうど『翔んで埼玉』という映画が注目を浴びていた。この作品から埼玉県に興味を持たせ、さらに『あの花』を題材にして作品に登場する文化財を通史的に整理し、日本史全体との位置づけに連関させながら、授業を展開した。生徒たちは従来自分たちの生活世界と無縁なものとして日本史学習を捉えていた為、生徒の生活の文脈の中で語られる歴史は興味関心を高める結果を生んだ。このようにしてコンテンツツーリズムは生徒と親和性の高い作品を題材に選べば、大いに学習効果を促すものである。2019年度は埼玉県を中心にしたものであったが、他のコンテンツでの実践事例も増やすべきである。そしてまた、指導法に関しても、今回は一斉授業の方式をとったが、アクティブラーニングのグループ活動として、生徒たちにコンテンツ作品を選ばせ、主体的に発表させるなどの授業も実践し、その効果を実証したいと思っている。
 続いて社会教育であるが、これは博物館等施設とコンテンツツーリズムのコラボが挙げられる。かつて博学連携の一環として、博物館に勤務していたことがあるのだが、その時にNHK大河ドラマで真田家をテーマとする作品が放映されていた。この大河ドラマでは群馬県にある様々な城が登場したのであるが、豊臣秀吉の北条氏征討の契機となったのが、名胡桃城だったのである。博物館の企画展では、群馬県の中世の城を展示のテーマとし、名胡桃城の見学ツアーなども実施したのだが、大変な盛況を生んだ。これにより、大衆娯楽により誘発された観光が、文化財地域資源とリンクしたことを体感したのである。群馬県ではこの他にもコンテンツとコラボしている博物館等施設が少なくなく、『月に吠えらんねえ』とコラボした前橋文学館や、日本遺産や『宇宙よりも遠い場所』をコラボする向井千秋記念館・田山花袋記念館など調査の対象地として興味深い。また、北海道においては2020年に民族共生象徴空間としてウポポイが開館するが、『ゴールデンカムイ』によりアイヌ文化が注目を浴びているため、これも観光と社会教育のテーマとして研究対象となる内容である。

4.特色

 観光、特にヘリテージツーリズムやコンテンツツーリズムを教科教育・社会教育と結び付ける実践研究は少ない。小中高から観光学そのものを学習させようという観光教育というものがあり、先行研究としては寺本潔/澤達大編著『観光教育への招待』(ミネルヴァ書房、2016)が挙げられる。しかし、これは観光学の教育を社会科や総合的な学習の時間で行うための実践と教材開発の紹介であり、公教育で観光学を学ばせる意義と地域人材育成について論じた後、小中高での事例研究を提示しているものである。また先行研究でも挙げた秋本弘章氏が教科教育でコンテンツツーリズムを題材とする有用性を説いているが、これは地理教育に限られている。
 以上により、本研究の特色としては、観光学、特にコンテンツツーリズムやヘリテージツーリズムを実践として具体的に現実の場面に応用しようという所に、特色がある。
 現在、コンテンツツーリズムの成果を利用しようとする実践は、短期的な経済効果を狙うものや地域振興と結びつけようとする実践が主流である。しかしながら、遠回りになるが最終的には、その地域そのものの魅力が理解され得ないと一過的なブームとして終わってしまう。そのため、本研究は、コンテンツツーリズムの限界性をも乗り越える可能性を秘めている所に特色がある。

5.期待される成果

5-1.生徒の生活の文脈と教科内容をリンクさせ、学習の解離性を解消

 歴史教育における教科教育での限界性は、生徒の日常と教科内容が乖離していることは既に述べた。それゆえ、コンテンツツーリズムの成果を応用することで、生徒が自分の生活と歴史の教科内容に関りがあることを体感させることできる。この状態にすることが本研究で期待される成果の一つ目である。

5-2.コンテンツを目的とした観光客に地域そのものにも興味・関心を持つよう転化させる

 社会教育における問題点として、遺産や文化財について興味・関心を持つのは一定の階層であり、裾野を広げることが必要となっている。またコンテンツツーリズムの問題点として、コンテンツに関連することのみ興味があり、地域には別に興味がないため一過性のブームとして終わってしまうという現実がある。これらの問題を解決するのがヘリテージand/orコンテンツツーリズムである。コンテンツ目当てで訪問した観光客に、そのロケ地や景観、文化財は、歴史的に形成された文化的景観であることを体感させ、地域の遺産や文化財とリンクさせるのである。博物館等の社会教育施設を拠点にコンテンツツーリズムを展開することで、両者の問題を解消できる成果が期待される。

6.これまでの活動との関連

6-1.教員としての活動との関連

 これまで、教科教育の実践としてNIEやICT、アクティブラーニングなどの実践をしてきた。コンテンツツーリズムと歴史教育に関する授業実践については、勤務校で授業実践を行った。このようにしてもう既に研究・実践を行っているが、これを深めたい、

6-2.学芸員としての活動との関連

 博学連携の一環とし地方の地域博物館において学芸員の勤務経験がある。主に教育・普及活動に携わり、企画展の仕事なども担った。その際、コンテンツツーリズムと社会教育施設のコラボレーションの可能性を体感した。これを一事例だけでなく複数のサンプルを体系化し、どの地域の博物館でも実践できるよう理論化したい。

6-3.現在の研究との関連

 現在は帝国日本における植民地観光について研究しており、特に満洲国の観光がテーマとなっている。1930年代当時から、ラジオや映画、小説などの大衆娯楽で満洲に対する関心を深めさせ、実際に満洲国を観光するという行為が行われていたのである。つまりは満洲国におけるコンテンツツーリズムとして関係性がある。また、現在はアジア各地に残る帝国時代の遺産が整備される動きが起きており、『火の鳥大地編』など日本の植民地を題材にしたコンテンツ作品も生み出されている。ここにおいて現在の研究と関係がある。

7.準備

 学校教育については、現在の勤務校を継続する予定である。アクティブラーニングの実践を謳っている学校なので、コンテンツツーリズムを取り入れた授業実践を展開することが可能である。
 社会教育については、上記で挙げたように前橋市館林市の取り組みに着目している。また、『ゴールデンカムイ』ブームと地域的特性を活かし、札幌駅中心に展開されている先住民族の文化発信などをどのように教科教育や社会教育に取り入れるかを扱いたいと思っている。