heritage and/or contents tourismの研究実践~旧軍港都市の歴史遺産活用からみる帝国日本の崩壊と再編~

レポートの計画書の素案・ネタだし・雑考。テキトーに書き殴った文章。

  • テーマ
    • コンテンツツーリズムにおいて娯楽の対象として文化財を消費する人々に対し、その歴史的価値にも興味を抱かせるための仕組みを作る。
  • 題材
    • 軍港都市の歴史遺産の活用を通して帝国日本の崩壊と再編を描く。

【目次】

1. heritage and/or contents tourism.

1-1. SITとしてのコンテンツツーリズム

 日本人の消費行動の一つとしてコンテンツツーリズムがある。これは小説・映画・漫画・アニメ・ラノベ・ゲームなどの様々なコンテンツ作品の題材に関連する場所を訪問するという消費行動である。コンテンツツーリズムにおいて訪問地の対象となるものは実に様々であり、物語の舞台となった場所や登場人物ゆかりの地(出身地、死地、墓所、慰霊碑など)だけでなく、作品と全く関係が無いのに名称のこじつけや雰囲気が似ているというだけで訪問地の対象となる場合もある。

 初めてその場所を訪れる訪問者が目的とするのは「作品との関連性」であり、その場所がもともと好きだったから訪れるという訳ではない。例えば大河ドラマ麒麟』に出てきたから明智光秀ゆかりの地を巡るのは、大河ドラマにおける明智光秀というキャラクター像や映像に出てきた景観に惹かれ娯楽の対象として歴史遺産・文化財を見なすことに他ならない。そういった意味では、コンテンツツーリズムはSIT(スペシャル・インタレスティング・ツーリズム)でありごく特定の分野に興味関心のある一部の人々による消費行動なのである。

1-2. コンテンツツーリズムをきっかけにして本質的価値に気が付く

 だがしかし、コンテンツツーリズムにおいては、カジュアルな娯楽として始まった消費行動が、その場所そのものに思い入れを持つように転化したといった現象が盛んに報告されている。これはコンテンツ化することで新たな需要を掘り起こすきっかけとなったということである。

 そもそも歴史遺産や文化財、自然景観は、もともと本質的な価値を有している。だがそれらは、そのままでは大衆にスルーされがちであった。歴史遺産や文化財は歴史に興味関心があるターゲット層にしか訴求しなかったのだ。しかしコンテンツ作品を通して消費の対象となることで裾野が広がり、本来歴史に全く興味の無かった人たちが歴史遺産や文化財に触れるようになったのである。そしてコンテンツ作品をきっかけとして歴史遺産に触れた人々が、その本質的価値に気付いたことによって、リピーターとなったり、そのフィールド/分野そのものに興味を持ったりするようになる。

1-3.「娯楽としての消費行動を通して本質的価値に気付いてもらうための仕組みづくり」

 ここで重要となるのが、いかにして娯楽の対象としてみられるようになった歴史遺産・文化財の「本質的価値」に気付いてもらえるようにするかである。

 従来はコンテンツツーリズム目的でやってきた訪問者たちは自然発生的にその場所の魅力に気付き、ファンとなっていった。だがコンテンツツーリズムが着目されるようになると、商業的にコンテンツツーリズムを利用してカネを儲けようとしたり地域振興のネタにしようとしたりした結果、失敗したケースも多々見られるようになっていった。

 それゆえ、「娯楽としての消費行動を通して本質的価値に気付いてもらうための仕組みづくり」が求められていると言えよう。そのためには社会教育施設としての博物館の役割が重要になってくる。地域における歴史系博物館は当該地域の歴史を整理体系化して、その地が如何にして形成されてきたかというルーツを説明する役割を担っているからである。コンテンツツーリズムとの関連性を汲み取ったうえでの教育・普及活動を展開する必要があり、これを研究することは意義のあることである。

2.歴史教育と博学連携

2-1. not only体系的な知識・歴史的枠組みの構築 but also歴史的諸能力の育成

 歴史教育において体系的な知識を付与し一つの歴史的枠組みを構築させることが重要なのは言うまでもない。だが学校教育においては知識偏重となり歴史用語の丸暗記をさせることがしばしば行われてきた。そのような学校教育にはしばしば批判が起こり、改革が唱えられていたが、大学入試が変わらなければ何も変わらないという結果に陥っていた。しかし改革の成果はようやく実を結び始め、2021年に実施された共通テストでは明らかに歴史用語の丸暗記が否定されるものであった。

 歴史教育で求められているのは、歴史的諸能力の育成である。歴史を通して得られる力を育て、その能力によって試験問題を解く。その能力は研究者によって異なる(かつては歴史的思考力や社会認識能力などが唱えられていた)が、ここでは歴史諸能力としてIBDPを参考にしておく。ここでは原因・結果・変化・連続・意義・視点の6つ能力の育成が求められている。①社会的事象が何故発生したのか、②その結果どうなったのか、③その事象によって変わったことは何か、④事象が起こったのにも関わらず変わらなかったのはどのような部分か、⑤その社会的事象の歴史的意義は何かなぜ重要なのか、⑥それらは誰のどのような視点で語られているのか、といった能力である。

2-2.紙の上の知識、実際の史料・遺物・景観

 学校教育ではあたかも教科書の歴史が全てであり、それこそが唯一普遍の歴史と見なされる傾向にある。教科書の内容を覚えることこそが金科玉条だと教えられていたこともあった(山川の『詳説世界史』や『詳説日本史』及びその用語集を隅々まで覚えることが受験勉強だとされてきた時代があった)。しかしトウダイやヒトツバシを世界史で受験する人々にはよく知られているように、山川の『詳説世界史』だけを読めばいいというものではない。社会経済史重視の東京書籍と、グローバルヒストリーの視点で書かれる帝国書院にも目を配り、同じ歴史事象でも教科書によってどのように書かれているのか、その叙述の違いを比較検討するという経験が求められている。

 このことから分かるように歴史叙述は必ず書き手の歴史観が入り、単一で絶対の歴史など存在しないのである。だからと言って好き勝手に歴史を書いていいというものではない。叙述には根拠が必要であり、その根拠となるのが史料なのである。従来の歴史教育では教科書の解説が中心であり、その教科書が書かれる根拠となった史料はスルーされがちであった。だからといっておいそれと一次史料を教室に持ってくることなどできないかもしれない。

 ここで重要な役割を果たすのが地域の歴史系博物館なのである。全ての時代の通史をカバーするのは無理かもしれないが、その地域に残る古文書や考古遺物、文化財などが博物館では調査研究、収集、保管、展示されている。実際に生徒を連れて行くのは無理かもしれないが、史資料の貸し出しや出前授業は行ってくれる。地域の歴史など教科書には出てこないと嫌がる教員もいるが、地域の歴史が歴史全体の中でどのように位置づけられるのか、どの記述と対応しているのかを明らかにすることは、高校生と地域を結びつけるうえでも重要なことであるし、面白いし、すべきことである。

3.グローカル 旧軍港都市の歴史的意義

3-1.地域の歴史を通して近現代北東アジア史を描く

 旧軍港都市の歴史から何が分かるか。19世紀後半、欧米諸国列強の帝国主義により主権-国民国家体制が世界全体を覆っていった。非欧米地域では異なる国際体制(イスラーム国際体制及び東アジア冊封体制)が敷かれていたが、これに対処することが必要となったのである。日本国内は幕藩体制による分権的な社会にあり、これを国民国家として再編する必要があり、明治国家が誕生した(明治憲法体制の国家を明治国家という。大正も昭和初期も)。

 日本は主権-国民国家体制への適応の中で、東アジア・北東アジアにおけるヘゲモニー争いに乗り出していくことになる。そのために軍事力の整備が喫緊の課題であり、海軍力の増強のために鎮守府が設置され軍港都市が建設された。旧軍港都市の歴史は地域そのものの歴史だけではなく、日本近現代史・北東アジア国際関係史を理解するうえで重要な意義を持つ。

3-2.帝国日本の崩壊と再編

 旧軍港都市の歴史は明治国家の成立と展開を示すだけのものではなく、その崩壊という点でも重要である。鎮守府という海軍があったからこそ成立していた都市が、崩壊に際してどのような対応し、また自らの歴史を正当化しようとしたのか。

 現在、日本遺産というものがつくられ、帝国日本の旧軍港都市4市は海軍が残したヘリテージによりブランド化を図っている。この旧海軍遺産を目的に多くの観光客が訪れる。このことは、帝国の崩壊に際して海軍イメージの連続性を強調したものだと言える。しかし海軍・軍事そのものを賛美するものではない。だとするならば、このことから連続させようとするイメージ像とそぎ落としてしまった断絶面が浮き彫りになってくると言えよう。旧軍港都市における歴史遺産観光からは、帝国日本の崩壊とその再編を描き出せるという点で意義がある。

4.小括 ヘリテージand/orコンテンツツーリズムとオーセンティシティ

4-1.真正性と地域の歴史系博物館

 訪問者はコンテンツ化された歴史遺産の消費を目的に旧軍港都市にやってくる。それによって文化財が観光資源として整備されブランド化されていく。ここで問題になるのは真正性の問題である。「見て」いるのは同じ文化財だとしても、「観て」いるものは『艦これ』だったり『世界の片隅』だったりするのかもしれない。訪問者にとって重要なのはコンテンツであり別に真実のものでなくともよく解釈しているだけに過ぎない。だが実際はどうであったのかと歴史的背景に思いを馳せることもまた歴史系コンテンツの醍醐味ともいえる。

 かつて北海道への観光誘致を目的に作られたノベルゲーとして『北へ。』という作品があったが、それを特集した地元新聞の記事には、きっかけは『北へ。』だったとしても札幌市が魅力的だったからリピーターになったと指摘されていた。

 たとえきっかけが真正性ではなかったとしても、その地域の魅力となるのは本質的価値であり、そこには真正性が必要なのだ。だからこそ、ツーリストに対し、その地域の成り立ちを語り、その地域そのものを好きになってもらうためにも、歴史系博物館の取り組みが重要になってくる。

 歴史遺産を目的にやってくる訪問者に対し、その歴史遺産の活用事例から帝国日本の崩壊と再編を示すことは、メタ的な興味をそそらせることができると思われる。