コンテンツツーリズムにおける問題点と博物館の教育系キュレーターの役割

コンテンツツーリズム研究でよく批判される問題点のまとめとその対処法(案)

【目次】


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ブランド性の消費

コンテンツ産業(小説・映画・アニメ・漫画・ゲーム・ラノベなど)を誘引とする「人の移動」をコンテンツツーリズムという。そこでツーリストが消費の対象と見なすのは、コンテンツ化によって生じたブランド性である。例えば『艦これ』に誘引されて鎮守府や工廠、慰霊碑などを訪問したツーリストは、キャラクターIPに発生した「ブランド性」を現地で消費することが第一目的なのである。すなわち、ジャパンマリンユナイテッドの大屋根を見て『艦これ』ファンが想いを馳せているのは戦艦大和というよりも、艦これのキャラの大和の方が比重が大きいのである。

真正性/オーセンティシティ

コンテンツツーリズムのブランド性消費において問題になるのが真正性の問題である。大衆はもともとヘリテージや文化財そのものを求めてきているわけではない。コンテンツとの文脈や関連性を求めている。だがコンテンツ作品はフィクションや娯楽である以上、全てが忠実に再現されているわけではないし、意図的な改変を加えることもある。近年「日本遺産」の認定が進められているが、そこで重視されているのはストーリーである。

ヘリテージの真正性を保証するのは歴史学の役割である。現代に残る建築物や遺物の由来や来歴を史資料によって解き明かして叙述する。当然叙述者の歴史観が混入することは否めないので、出典や扱った史料などの根拠などにもアクセスできるようにしておかねばならない。

コンテンツツーリストとオーセンティシティをつなぐ必要性

コンテンツツーリストは歴史遺産や文化財などのヘリテージを娯楽として消費する。そこには真正性は無い。それ故、ツーリストに如何にしてヘリテージそのものに興味・関心を持って頂けるかが問題となる。

コンテンツツーリズムは一過性のブームという側面が少なからずある。またイナゴのように消費対象を食い散らかす特性もある。そのため、安易にコンテンツツーリストに迎合した結果、ブームが去って荒廃した上に従来の観光客も喪失するというケースもある。

きっかけはコンテンツツーリズムであっても、ブランド性だけでなく、真正性にも配慮し、本質的価値を提供する必要がある。コンテンツツーリストとオーセンティシティをつなぐ存在が必要なのだ。

博物館における教育系キュレーターの役割

コンテンツツーリストとヘリテージの真正性を繋ぐ存在として注目されるのが博物館/資料館である。博物館は地域のランドマーク的存在となるため、コンテンツツーリズムにおいて博物館が聖地巡礼の対象となることが良くある。地域の博物館などに行くと、クリエイターが残していった色紙やサインなどが片隅に置かれていたりコラボグッズが売られていたりもする。

博物館は単なるランドマークではない。博物館の本質的な機能は①調査研究、②収集、③保存、④展示の4機能であるが、社会教育施設としての側面も有している。当該地域がどのような歴史的過程を経て形成されてきたかというアイデンティティを示す機能を持っているのだ。それ故、聖地巡礼をしにきたコンテンツツーリストたちにヘリテージの真正性、本質的価値を提供できる場所となりえる。

文化財や歴史遺産は、もともと本質的価値を持っている。ただ従来それらは主に歴史愛好家によって消費されていた。だがコンテンツツーリズムによって(一過性のものとはいえ)ご婦人方が刀剣に興味を示し、オタクたちが山に登ったりバイクに乗ったりキャンプしたりするついでに歴史遺産も巡るようになった。ターゲット層がコンテンツを通して(一時的とはいえ)広がったのである。こうした新たに参入した人々に、彼らのチャンネルに即した形で本質的価値を提供すれば、ヘリテージやそれを生んだ地域そのものにも興味関心を転化させてくれよう。

ここでは如何にして、コンテンツツーリストのチャンネルに即するかということが重要である。ニワカ的知識でカネをむしり取ろうとすると失敗する。それ故、ヘリテージに関する知識と共にコンテンツに対する深い理解を持った人材が求められる。その人材になり得るのが博物館における教育系キュレーターであろう。博物館は社会教育施設であり、近年では博学連携なども盛んに唱えられている。高校では歴史総合も始まる。ただ単に歴史を解説するのではなく、ニーズ(教育目的)に合わせてヘリテージを活用して歴史を描くことが必要なのだ。

小括

ここではコンテンツツーリズムの問題点とその対処法として博物館の役割を論じた。

コンテンツツーリズムの問題点は、ツーリストがヘリテージの本質的価値を求めているのではないということである。ツーリストはコンテンツ化の際に生じた「ブランド性」を消費する為に聖地巡礼に訪れる。

だがそれは否定すべきことではなく門戸が広がったと考えるべきだ。大切なのは如何にしてブランド性消費のためにやってきたコンテンツツーリストに地域やヘリテージの本質的魅力に気付いてもらうかである。

その役割を果たすのが地域のランドマークとして聖地巡礼の対象となる博物館である。博物館は社会教育施設でもある。故に、コンテンツツーリストのチャンネルに即する形で地域やヘリテージの本質的価値を提供すれば受け入れやすくなると言えよう。

そうすれば、コンテンツツーリズム目的でやってきた人々が地域やヘリテージそのものに愛着を感じるようになってくれる可能性が高まるはずである。関係人口が増加することが期待できる。(さらにはリピーターとなり、ふるさと納税をしてくれたり、クラウドファンディングの支援者になったりしてくれるところまで行くかもしれない。)