前近代西アジア史【3】イスラーム世界①ムハンマドの登場~アッバース朝の解体

1.西アジアの風土とイスラームの成立

(1)アラビア半島地誌

  • ①特徴…乾燥地帯・オアシス都市の形成・東西交易路と結合
  • ②南西部のイエメン。灌漑農業。中継貿易(インド洋交易で得られた香辛料を地中海へ)。「幸福のアラビア」
  • ③半島の乾燥地域…ラクダ・羊を家畜とする遊牧民(ベドウィン)が移動生活 →ラクダは「砂漠の舟」

(2)イスラームの膨張

  • ①誕生…メッカで誕生(610頃)。イスラームとはアラビア語でアッラーへの絶対服従を意味。人間の平等を訴え社会改革。
  • ②半島統一…およそ20年でアラビア半島を統一(630頃)。
  • ③征服活動…ササン朝ペルシアを倒す。ビザンツ帝国から領土を奪う。
  • ④独自の文明…オリエント文明・ヘレニズム文化をイスラームの原理と融合。

(3)現代のイスラーム世界

  • ①中東を中心に中央アジア・東南アジア・西アフリカまで広がる。現在信者最大国はインドネシア
  • ②イスラーム文明最盛期の歴史は現代のムスリム(イスラーム教徒)にとって自負心の支え。

2.予言者ムハンマド

(1)7世紀頃のアラビア半島情勢

  • ①辺境の地
    • オリエント世界や地中海世界からみると辺境。メソポタミアやペルシア・ローマなどの先行文明の影響は限定的。
    • アラブ人部族による勢力争い。多神教偶像崇拝
  • クライシュ族
    • 5~7世紀にメッカを支配。インド洋と地中海を結ぶ陸上交易。
    • 商業の成功
      • 良い面 → 契約、共同事業などの合理的な考えを生み出す。
      • 悪い面 → 富者のおごり、貧富の差の拡大などの社会矛盾。

(2)ムハンマドの登場

  • ①イスラームの始まり…ムハンマドが40歳の時(610年頃)、啓示を受けて預言者となったことを自覚
    • 唯一神アッラーへの帰依を説く。啓示として受け取った言葉は後に『クルアーン』となる。
  • ②初期の教えの特徴
    • 唯一神アッラーと世界の終末を信じること
    • 部族や人種の差をこえる人間の平等
    • 偶像崇拝を否定
  • ③富と血統を重視するクライシュ族は反感。

(3)アラビア半島の統一

3.イスラームイスラーム社会

(1)イスラームの特徴

  • ①六信
    • 神…アッラー。唯一・絶対・全能の神で世界を創造。
    • 天使…啓示を預言者に運ぶなど、神の命令を実行。
    • 啓典…啓示にもとづく聖典の意味。数多くあったとされる。『クルアーン』はその最後。
    • 預言者ムハンマドとそれ以前の預言者たちを信じること。
    • 終末来世…世界はやがて終末を迎え、すべての人間は復活して審判を受ける。
    • 定命…人間の運命はすべて神によってあらかじめ定められている。
  • ②五行
    • 信仰告白…「アッラーのほかに神なし」「ムハンマドはアッラーの使徒なり」と公言すること
    • 礼拝…日に5回、メカに向かって祈りをささげる。
    • 喜捨…貧しい人や孤児などのために、財産の一部を差し出す。
    • 断食…イスラーム暦9月、1ヶ月間、日の出から日没まで飲食しない。
    • 巡礼…一生に一度は、巡礼月(イスラーム暦12月)にメッカに巡礼する。
  • シャリーア
    • 聖典に立脚する独自の法(イスラーム法)。宗教的戒律だけでなく、結婚・離婚などの家庭生活、社会・経済、さらには政治までも含めた内容。

(2)ウンマとカリフ

アブー=バクル(位632-634)
  • ①ムハンマドの腹心であり後に義父(アイーシャの父)。ヒジュラにも同行。
  • ②ムハンマドの死後、後継者に選出され「カリフ」を称する。
  • ③ムハンマドの死後離反したアラビア半島諸部族を征服、イスラーム共同体の統一を成し遂げた。
ウマル(位634-644)
  • ①イラク、シリア、エジプト、イランを征服。
  • ②軍営都市(ミスル)のひとつバスラを建設。
  • イスラーム暦(ヒジュラ暦)の制定
ウスマーン(位644-656)
  • ①大征服の後、イスラーム世界の中央集権化を推し進めたが、出身部族ウマイヤ家を優遇。
  • ②初期改宗者優遇策を放棄し、大部族を尊重したので、反発にあい殺害される。
  • ③『クルアーン』の異本を廃し、決定版を作成した。
アリー(位656-661)
  • ①ムハンマドの従兄弟かつ娘婿。クライシュ族ハーシム家の出身。
  • ウスマーン殺害についてムアーウィヤ争う中、過激派であるハワーリジュ派に暗殺される。

4.半島統一後の征服活動

  • ②軍営都市(ミスル)の建設 → 征服地にアラブ人とその家族が移住し、軍営都市を建設。

 

  • ④異教徒
    • 人頭税(ジズヤ)と土地税(ハラージュ)を払うことを代償に、異教を誇示したり布教したりしない条件で、信仰の自由と自治を認められた。

5.ウマイヤ朝 (都;ダマスクス)

  • ①成立…第4代カリフ;アリーが暗殺された結果、対立してウマイヤ家が勝利し、ムアーウィヤがカリフ位を宣言。
  • ②膨張
  • ③アラブ人特権支配
    • a.征服者であるアラブ人にはジズヤ(人頭税)もハラージュ(土地税)も免除。
    • b.征服地の先住民は改宗してもジズヤ・ハラージュが免除されない。

6.シーア派スンナ派 (とその他)

(1)シーア派

(2)スンナ派

(3)ハワーリジュ派

6.イスラーム帝国としてのアッバース朝

(1)アッバース朝の成立

アッバース革命
‣アブー=アル=アッバースがマワーリーやシーア派などウマイヤ朝に不満を抱く人々の支持を得て、ウマイヤ朝を倒す(750年)
  →マワーリーの社会進出が進む。
  →シーア派アッバース朝成立後、弾圧される。
イスラーム帝国 
ウマイヤ朝がアラブ人が特権を有する「アラブ帝国」だったの対し、アッバース朝イスラームのもとでの平等を原則としたので「イスラーム帝国」と呼ぶ。
  ‣アラブ人の特権廃止 → アラブ人にもハラージュを課税、全ムスリムのジズヤを廃止

(2)マンスールの治世

  • ①中央集権化…交通網と通信網の整備、高度な官僚制の構築、革命軍の常備軍
  • ②バクダード…円城都市。東西交通路・ペルシア湾と地中海を結ぶ河川交通の交差点に建設し繁栄。

        ※繁栄を支えた背景にはイスラーム法(シャリーア)の体系化もある。

(3)繁栄と衰退

  • ①繁栄…第5代ハールーン=アッラシード(位786~809)の時に最盛期を迎えるが、行政機構の効率や政治的統一性に衰えの兆し。
  • ②衰退…カリフ位争い、トルコ系奴隷軍団の導入をきっかけとして衰退へ向かう。

7.アッバース朝の解体

(1)地方政権の樹立

地方総督たちがカリフの政治的権威を認めつつ自立傾向を強める

  • ①トゥールーン朝…エジプト総督代理として派遣されたトルコ系軍人イブン=トゥールーンが自立。
  • ②サーマーン朝……ソグディアナ地方で自立したイラン系ムスリムによる政権。

(2)三カリフ鼎立時代

アッバース朝のカリフを認めない王朝の君主が自らカリフを称す。

(3)衰退と滅亡

※配下の有力軍人を大アミール(大将軍)に任命して軍事権と行政権を付与 → 権力をめぐり政治的混乱