倫理 青年期の思想【2】青年期の課題と生き方

1.豊かな自己実現に向けて

1-1.アイデンティティの確立(アメリカの精神分析学者エリクソンの思想)

(1)アイデンティティの確立とアイデンティティ拡散の危機
  • アイデンティティ…同一性:自己の存在証明/自我同一性:自分が自分であること。
    • a.これまでの生き方を肯定しながらこれから先の生き方を考える自分
    • b.他者とのかかわりのなかで対等な関係を持ちつづける自分
    • c.社会の中で自信と責任をもって自分の役割を引き受け、周囲から評価され役になっていると意識している自分
  • アイデンティティの確立に失敗すると・・・
    • 事例:同性や異性との間に親密な関係が見られない。集団での自分の役割が分からない
    • アイデンティティ拡散の危機…自己を見失い、精神的な危機に陥る。
(2)ライフサイクルの8段階
  • 乳児期:基本的信頼VS不信…養育者から周囲への信頼を学ぶ。今後の人間関係の基礎作り
  • 幼児期:自律性VS恥じ・疑惑…排泄などを自分でやる。自律性を身につける。
  • 児童期:自主性VS罪悪感…好奇心、模倣から積極性、社会の役割を身につける
  • 学童期:勤勉性VS劣等感…勤勉、能力習得。周囲の承認を得る喜び、達成感。
  • 青年期:自己同一性VS同一性拡散…自分は何者であるか。自分の生き方、価値観を形成
  • 成人期:親密性VS孤立…アイデンティティを確立した上で親密な関係を築く
  • 壮年期:生殖性VS停滞…社会の存続のため、次世代の人間を育成する
  • 老年期:自我統合観VS絶望…自分の人生を受け入れ、肯定し、円熟した人格を達成する

1-2.青年期の課題

(1)青年期の課題とは何?
  • 身体的変への適応、両親からの精神的な独立、情緒的な安定、職業観・人生観の確立
(2)G.W.オルポートの成熟した人格の6つの条件
  • (a)自己感覚の拡大…自己中心的な興味や活動を去り、自分以外の人間や事物に関心や愛を寄せる
  • (b)他者との暖かい人間関係
  • (c)情緒的安定と自己受容
  • (d)現実世界と接触する知覚と技能
  • (e)自己の客観視…自分の能力・資質や目的・欲求、自分についての判断などを客観的に洞察し認識する
  • (f)人生観の所持…自己の拡大と客観視を統合して、統一的な人生観を育むこと

2.現代における青年の在り方

2-1.青年期の延長

(1)前近代 ~青年期がない時代~
  • ①前近代には青年期は存在しない。大人と子どもの境界区分は明確で、儀礼により大人の仲間入りをした。
  • 通過儀礼(イニシエーション)
    • 誕生・成人・結婚・死亡など、人生の重要な節目や区切りに行われる儀礼。近代社会成立以前は、子どもは大人になるための様々な試練を含む儀礼を通過することによって、村や部族で大人の資格を持つものと認められ、大人の仲間入りを果たした。
  • ③近代以後…教育制度の確立とともに、大人になるための準備期間として青年期があらわれた。
(2)モラトリアム(※元来は「金融機関の預金の支払いの猶予」。エリクソンは心理学用語として用いる)
  • 青年が将来の準備期間として、大人としての社会的責任や義務を猶予、免除されること。
  • 猶予期間に役割実験をし、可能性や適性を探しだし、自己探求する。
  • モラトリアム人間
    • 人生の選択を避けて、いつまでも猶予期間に浸り続ける自己選択ができない精神的未成熟な青年。
    • 自分の社会的役割を求めても簡単には発見できず、何をしたらいいか分からないまま、卒業して会社など帰属や忠誠を強いる集団の一員となり、大人として自我を確立させなければならない状態にはいることを延期しようとする。
(3)ニート、フリーターの問題
  • 要因:新自由主義「新時代の日本的経営」と格差社会
    • 90年代初頭のバブル経済の崩壊に対し、小泉構造改革では新自由主義経済が採られ「新時代の日本的経営」により日本の雇用は3分化した。少数の経済エリート、知識技能を保持する専門職、そして大多数の大衆労働者に分かれたのである。従来の終身雇用制と年功序列賃金制から転換がはかられ、労働コストを削減するために、非正規雇用労働者が大量に生み出された。希望する職種などにはつけず、昇給・賞与・福利厚生などは軽視され、雇用調整の安全弁として使い捨てにされるようになったのである。このため、希望する職種に就けなかった若者がフリーターと化し、働くのが馬鹿らしくなったり人生に絶望したりした若者がニートになった。

2-2.生きる意味

  • フランクルの思想
    • ナチスアウシュヴィッツ収容所に入れられ、極限状況の体験をもとに、人間らしい尊厳ある生き方とは何かを探究した。人間を生きる意味を求める精神的な存在であるとし、人生への態度や行動を分析して、生きる意味を解明する実存分析を主張。
      • 生きる意味…人間は生命体として有限なので、意味のない死には耐えられず、自分が生きた意味を求めようとする。フランクルは、自分が今、ここに生きていることの意味を持ち続けた人が、極限状況において最後まで人間らしく生きたとする。
      • 人間の尊厳…どんなに悲惨な状況でも、使命感を持って生きるニンゲンに、奪うことのできない人間の尊厳を見出すことができる。死や苦悩などの悲惨な運命に直面しても、それを人間らしい態度で受け止めることによって、尊厳に満ちた意味のある人生を生きられる。