1.近代的自我の成立
1-1.文学における個の模索
(1)夏目漱石 近代的自我(内面的・精神的な自己意識)を模索する。
- 自己本位…他人に依存せず、自分か考え信じ、内面的自己の主体性を確立すること。
- 則天去私…自己の確立とエゴイズム(利己主義)の矛盾に苦悩した漱石が、辿り着いた小さな私を去り、大きな自然に従うという境地。運命に甘んじて静かに一切を受け入れる態度。
(2)森鴎外 近代的自我にめざめた個人が社会とぶつかり苦悩のうちに順応する。
- 諦念(レジグナチオン)…自我と社会の矛盾を統一する世間に甘んじつつも埋没しない境地。個人と社会の葛藤において自己を貫くのではなく、自己の立場を受け入れることによって心の安定を得る諦めの哲学。
(3)浪漫主義 近代的自我の目覚め、感情の解放という主題で多彩な表現をする。
- 与謝野晶子『みだれ髪』…奔放な情熱や官能を大胆にうたう。
2.近代日本哲学の成立
2-1.純粋経験【西田幾多郎】
(2)哲学の認識をめぐって
- 独我論…自我のみが実在し、他者や世界はその自我に対する現象にすぎないという考え
- cf.近代西洋哲学における認識
- 主観(認識する自己)と客観(認識される対象)を対立的にとらえる→主観である自己が、空気振動による音を認識してはじめて、音楽の音となる。すなわち自己→(認識)→音楽の音
- 西田哲学の純粋経験における認識
- 主客未分(主観と客観がまだ区別されていない)の具体的直接的な純粋経験=すぐれた音楽に一身に聞き入っているときの経験。すなわち自己=(統一)=音楽の音
- 真の自己…主観としてある小さな自己を否定。真の実在である純粋経験を自ら経験すること。
- 西田幾多郎の善…主観と客観とを統一するはたらきのなかに自己を没入させていくこと
(3)西田幾多郎の行き着いた果て
- 絶対矛盾的自己同一
- 他なるものが自己否定的に一つの世界になり、同時に一つの世界が自己否定的に多なるものになり、多なるものと一つの世界が相互に矛盾的に対立しつつ同一であること。
2-2.人間の学【和辻哲郎】 個人と社会との関係性の見直し
- 和辻の近代西洋哲学観…個人の確立を重視するあまり人間が間柄的存在であることを見落としている。
- 間柄的存在…人間は個人のみではなく、個人と社会が人間の二つの側面をなしているという考え方。人はつねに人と人との間柄(関係)においてのみ人間となるのであり、決して孤立した個人的な存在ではないということ。
- 人間としての倫理学
- a.人間が間柄のなかにおかれながら埋没することなく独立した個人としての存在を自覚する
- →個人重視になると・・・利己主義が台頭(自分がよければすべて良い)
- b.その自己をふたたび社会のなかに投入して自己のおかれた社会全体をよりよいものにする
- →社会重視になると・・・全体主義が台頭(国家のためなら何をしても良い)
- a.人間が間柄のなかにおかれながら埋没することなく独立した個人としての存在を自覚する
- 研究対象は歴史および風土を背負った人間としての在り方への考察へと進む