さくらの雲*スカアレットの恋「グランドエンド(レベッカ・クルーガー√)」の感想・レビュー

「親殺しのパラドクス」により2110年から過去跳躍してきた加藤大尉の野望を打ち砕く話。
主人公こそが歴史を意図的に歪めていた存在であったという展開が最高のカタルシス
主人公が元いた時間軸は「令和」ではなく「桜雲」でWWⅢが勃発した世界線だった!
戦争で左腕を失くし天涯孤独となった主人公は志願兵となり悲劇の青春を送っていた。
だからこそ過去跳躍した大正時代に安寧を見出し、過去に安住しようとしたのである。
これまでのルートで歴史を修正しようとしても出来なかったのは主人公のせいというオチ。
所長(レベッカ)のおかげで立ち直った主人公は加藤大尉と対峙し野望を阻止することに成功。
加藤大尉が歴史修正に乗り出した背景まで描けていれば良作になっていたと思う。
あとシナリオに全く関係ないが、脇役のちよの声優が味わい深い演技をしており良かった。

グランドエンド概要

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  • 歴史修正するはずの主人公こそが歴史を歪めていたのだ!
    • 並行世界の観測者であるアララギにより2020年から1920年に過去跳躍させられた主人公。元いた時間軸に戻る為には歴史の歪みを修正することが必要であると説かれます。ラスボスとして用意されているのは加藤大尉で、彼が人為的に関東大震災を起こしてしまうとゲームオーバーとなりその世界線は放棄されます。主人公に与えられた手段は、アララギを媒介にして過去跳躍した時点の自分に電報を送ることができるというもの。ヒロインの個別ルートごとに新規情報を得て、それを電報で送り、最終的には歴史修正に至る・・・のであろうと思っていました。しかし読者の予想を裏切るのがシナリオライターというもの。なんと主人公は歴史を修正することを放棄し、自ら意図的に歪みを生じさせていたのです。歪みを生じさせる中心となれば、自分は過去において異質な存在ではなくなり、存在が確定されるというノリ。そんなわけで主人公は未来の知識を駆使してテロなどを防ぎ、住みよい「帝国日本」を作り上げようとします。加藤大尉ではなく主人公こそが歴史の修正を阻んでいたのです。
    • では何故主人公は歴史の修正を放棄したのでしょうか。その理由は、主人公が元居た世界線にありました。私たち読者は2020年から100年前の1920年にタイムスリップしたという情報しか得ていなかったので、フツーに令和2年と思い込んだことでしょう。しかしそれはミスリードを誘発させるためのギミック。主人公がいた2020年は現代の令和2年ではなく、第三次世界大戦が起こってしまったという桜雲2年という世界線だったのです!驚きだね!!「桜雲」のセカイではドローンによって細菌兵器だのなんだのが撒き散らされ主人公はペストで左腕が壊死し、家族を喪い天涯孤独となってしまいます。そしておきまりの展開として志願兵となり戦争に突入していくという負の連鎖。
    • 以上により過去跳躍した当初こそ、未来に帰ろうとしていた主人公でしたが、大正時代で安寧な時を過ごすうちに過去に安住したくなってしまったのでした。それ故、主人公こそが歴史修正の妨害者となっており、主人公を翻意させるところが本作品最大の見せ場となっています。レベッカの愛情が主人公を改心させるシーンは一見の価値ありですので、何とかそこまでたどり着いてください。主人公が未来に帰ったとしても、大正時代に残ったヒロインズが第三次世界大戦を防ぐために奮闘するから未来で待ってろ!という熱いノリ。

 
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  • 加藤大尉パートが描けていればスゲー面白かったんじゃない!?
    • 加藤大尉は主人公より約100年先の未来2110年から1910年にやってきた存在でした。10年かけてカネと人脈と地位を形成した加藤大尉は地熱発電を応用し、人為的に関東大震災を引き起こそうとします。その狙いは帝都再建計画。スクラップアンドビルドの際に、22世紀の知識で帝国を導き、未来の日本を(自分の都合のいいように)創設しようというものでした。加藤大尉は大正時代におけるカラクリ発明家の子孫であり、この発明家こそがタイムマシンの理論を生み出したという設定。学界からは見向きもそれなかったのですが、その業績を子孫たちが解読していき、ついにタイムマシンが生み出されたという流れです。過去跳躍してきた加藤大尉は自分の先祖に目を付け、大正時代にタイムマシンを開発させようとします。その理由は加藤大尉も寿命があるため永遠には生きられないので、数年ごとに未来跳躍することで支配の時間を伸ばそうとする意図がありました。しかしこのことが仇となって加藤大尉の敗因となります。なんと本来であれば先祖のカラクリ発明家はタイムマシンではなくプロポーズ人形を開発しており、このことが縁で結婚相手と結ばれていたのです。加藤大尉が無理矢理タイムマシンを開発させたため縁談は失敗に帰し、子孫の加藤大尉も生まれなくなるという「親殺しのタイムパラドクス」が発動します。こうしてアッサリと加藤大尉は消滅し、歴史の歪みは修正されます。まぁ本作の見どころは「根本的に歴史を歪めていたのは主人公」というのが面白ポイントなので加藤大尉がアッサリ退場するのは致し方ないのですが、もうちょっとこう何とかならんかったものかと。加藤大尉の薄っぺらさは、やはりその背景が描かれなかったことであり、加藤大尉がどのような2110年を過ごしてきたのかを詳述し、なぜ歴史を歪めたいのかという理由を深め、加藤大尉には加藤大尉なりの信条があったことを示して欲しかったものよ。最終的に加藤大尉が人間ひとりひとりを軽視していたために失敗に終わったという幕引きになるので、ラスボスバトルが主人公の改心よりも軽くなってしまったのかもしれません。
    • エピローグでは加藤大尉の野望を討ち果たした主人公がきちんと未来に帰ります。元の時間軸に残った所長は約束通り奮闘し第三次世界大戦を防ぐことに成功。主人公が100年先の未来で目を覚ますと、そこは「桜雲」ではなく「令和」であり平和な世界となっていました。そこには自分とレベッカの子孫であるマリィが待っており、所長の遺言が渡されてハッピーエンドとなります。めでたし、めでたし。

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