『ユキイロサイン 体験版』の感想・レビュー

東北地方の封建的な地方社会を舞台にした雪国冬ゲー青春群像劇。
封建遺制・スキーイップス・母親の想い出に囚われる3人の少女との交流を描く。
主人公は地主の嫡男で「ワケアリ幼馴染との関係」と「ホッケー競技」に葛藤を抱えていた。
体験版ではそんな悩める若者たちが町興しのためのクリスマスイベントに臨むことになる。
冬・青春・雪国という雰囲気ゲーとしては良作。
しかし肝心かなめのイベント描写やシナリオは薄っぺらすぎるように思われてしまう。
スキーもホッケーも描写に欠けるしクリスマスイベントも内容は掘り下げられない。
(あと雪国設定なのに平然と屋外でチャリ練習って色々ぶち壊し過ぎかも。)

シナリオの詳述に拘らず雰囲気を楽しみたいという嗜好のユーザー層向け

良かったところ

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  • 雰囲気ゲーとしては若者の悩みと雪国の情緒などが感じられて良い
    • 主人公が暮らすのは、とある東北地方(おそらく福島)の雪国の過疎地域。そこへ新たに2人のヒロインがやってくることから物語は始まります。ひとりは姉妹都市のロシアから母親の想い出を辿りにやってくるスヴェトラーナ(愛称スヴェ)、もうひとりはスキーのイップスに悩む高萩香子。この2人が地方の社会的指導者層の子弟である仲良し3人組(主人公・男友達・メインヒロイン勿来美玖)に加わることになります。青春群像劇らしく、青春時代ならではの悩みや葛藤を抱える主人公やヒロインズが描かれていきます。主人公は地主の一人息子でアイスホッケー部に入部しており、男友達との実力の差や進路選択に悩んでいます。またメインヒロインで幼馴染の勿来美玖とは中学時代に恋愛問題が発生しそれがこじれた上で今のようなトモダチ関係に至ったワケアリであることが匂わされています。このように悩みがある主人公だからこそ、同じように苦悩を抱えるヒロインたちに寄り添い、悩みの解決に一役買うことが出来るのですね。雪国効果も相まって雰囲気ゲーとしてはなかなかいい感じに出来ています。

 

イマイチだったところ

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  • 青春群像劇として青春の葛藤を扱うことだけが前に出過ぎており、それを支える基幹描写があまりにも薄すぎる
    • 雰囲気ゲーとしては良作な感じもしますが、問題点も多々あり、悩みや葛藤の背景となる描写がとにかく薄いように感じられてしまいます。
    • 主人公はアイスホッケーについて色々と悩みを抱えており、スヴェも男友達もアイスホッケー部なのに全然アイスホッケーの描写が出てきません。冒頭にちょろっと出てきただけ。本格的にアイスホッケー特有の苦悩を扱いたいなら、アイスホッケーの描写は不可欠でしょう。全国大会に出られそうとまで言っているのですから。しかし全然アイスホッケー描写がない。部活に行った→今日も疲れたとかいうような事実の羅列のみ。主眼となるのは部活におけるチームメイト(ライバルで親友で親戚の男友達)との関係性の悩みであり、それを提示したいだけ。アイスホッケーである必要ではなくアイスホッケーが単なるキャラ属性に堕してしまっています。これはスキー少女高萩香子さんについても同様です。スキー描写がほとんどない。香子さんのライバルでもある転校前の親友との関係性を描きたいだけで、ライターにはスキーを描きたいというコダワリが無いように思われてしまいます。雪国ゲーだから雰囲気づくりとしてウィンタースポーツを選ぶ必要があり、そこでホッケーとスキーがチョイスされただけのように感じられてしまいます。青春ゲーでありホッケーゲーでもスキーゲーでもないのですが、こういう基幹となるところを掘り下げてくれないと薄っぺらくなりがち。
    • そして描写の薄さはそれだけにとどまりません。ヒロインズ3人衆が市街地へ遊びに行くイベントがあり、そこで名物のクリームボックスを食すシーンがあるのですが、肝心の食事シーンが入らず、いきなり食後に飛んで「美味しかったね~」とか言われても読者は全く共感できないように思われます。過程が無く結果だけ示されそれに納得しろという展開がこの他にもチラホラあって結構苦痛。他にも設定回収のためだけのイベントとして指摘できるのが豪雪地域における屋外でのチャリ練習。これは香子とスヴェを仲良くするためだけに使われている感満載。オフロード用の自転車ならいざしらず、豪雪地域で雪が積もっている背景CGなのに、ママチャリに乗るとか……
    • 最後に、体験版最大のビッグイベントとなるクリスマスのスノーフェスティバルも同様です。流れとしてはスヴェが町興しイベントの募集に応募し、ロシアにおける地元イベントをステイ先でも再現することになります。このイベントは体験版のクライマックスとなるため、その準備イベントは何よりも大切になるはず……しかしこのイベントは純粋無垢で明るく前向きなスヴェに田舎の人々みんなが協力するという人徳を示すためだけの装置と化してしまうのです。高萩香子さんはデザインに興味がありイベントの制服の案を出すのですが、読者には一切どんなデザインなのか示されません。デザインをしてそれが採用されたね~というだけ。また主人公は男友達とともに油圧ショベルなどの重機を使って会場設営をするのですが、その会場設営描写が全く出てこないのです。スヴェがイベントを企画しそれが成功したという事実だけが大事!そして、イベントの最後に花火が打ちあがってイイハナシダナーエンド。花火はサインであり、サインは兆しという意味であるというオチになりタイトル回収して体験版終了。
    • シナリオの詳細とかそんなの関係なく青春の雰囲気を楽しみたいという人には良ゲーとなるのではないでしょうか?

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