ヘンタイ・プリズン ROUTE5(グランド√)「内呂脩平シナリオ」の感想・レビュー

グランド√本編は個人的な私怨により過度な表現規制を目論む偏向的BBAの妄執を打破する話。
収容所トップの水城姫子はfem思想による正当化で自分にとって不愉快な表現を規制しようとする。
近年SNSで炎上した献血イラスト問題を筆頭とする諸事件に対する痛烈な揶揄である。
主人公はfemBBAに利用された挙句死刑執行となるが全収容所メンバーが立ち上がる!
モブ一人に至るまで全てのキャラに見せ場があり総力戦で大団円する流れは熱い展開。
アフターは資本主義社会に磨り潰された女医と社会の理不尽を蒙った中年がメインとなる。
裏の主人公こそがこの中年:釘谷譲二であり彼が再生されることでグランドエンドが締めとなる。
そう考えると本作のテーマは人生における生きる目的の模索なのかもしれない。

個別攻略ヒロインたちを一つの時間軸で救え!

f:id:r20115:20220212231454j:plain
本作の個別√は3人の囚人ヒロインで構成されており、彼女らに対応するボスキャラとして3人の看守長が配置されていました。メカクレ系黒髪炉利には武力を司る女帝看守長、ヤクザ系組長姐御には新興宗教のシスター看守長、キチガイ系天才イモウトにはそれに振り回される糞真面目系看守長、と云った具合にそれぞれキャラが濃い敵役が用意されているのです。個別√ではそれぞれの看守長を打破するための流れでヒロインと情交を深めてフラグ構築し、痛快に勧善懲悪することが前面に押し出されています。グランドルートでは、一つの時間軸の中で3人の看守長を倒すことが求められ、主人公くんは極めて合理的に行動していきます。女帝に対してはトラウマとなっている暗闇に引きずり込んで不具の脚を狙って精神崩壊させます。姉妹間の確執に関しては、お姉ちゃん大好きイモウトに、洗脳されてしまった姉の脚を折らせ、それを介護するという形で和解させます。新興宗教のシスターに対しては全囚人を島外に連れ出し説法をするイベントを見計らって大爆発を起こします。こうして主人公くんは見事三看守長を撃破。体験版第2弾で目的としていたゲーム開発が正式に認められることになり、しばらくは安寧の日々が続きます。この三看守長との戦いにおける主人公くんの行動は、収容所の人々全体を巻き込むものであったため、後の暴動・蜂起の際に主人公くんに協力してくれる伏線となっています。
 

収容所トップ水城姫子との戦い

f:id:r20115:20220212231444j:plain
グランドルートで三看守長を倒せたのは、収容所トップである水城姫子が主人公くんの後ろ盾となったからでした。彼女は自分の後継者の育成に失敗しており、主人公くんに白羽の矢を立てます。主人公くんは直接教育を施されメキメキとその能力を身につけていきます。一応この人物にも主張があり、自分の娘が不幸にも強姦されて廃人と化したので、二度と性犯罪が起こる事の無い社会を創ることを理想としていたのです。しかしそれはお題目に過ぎないことが徐々に暴露されていきます。結局は自己を正当化するためのものに近く、ホントウの所は自分が気に食わないから・不愉快だからという個人的感情により表現を規制しようとしていたのです。主人公くんのゲーム制作についても、泳がされていただけであり、完成間近によって、その破棄を求められます。これを拒否すると水城姫子はブチギレ。主人公くんは攻略ヒロインたちの刑期を肩代わりすることで3人を逃がすのですが、それにより死刑となってしまいます。独房に閉じ込められ死を待つだけの主人公くん。いよいよ死刑執行となるのですが、その時、これまで収容所で培ってきた絆パワーにより暴動・蜂起・反乱が起こり、囚人・看守含めて収容所トップに反旗を翻します。息もつかせぬ攻防を経て、主人公くんは無事に脱獄することに成功します。この時、モブキャラ含めて全勢力をもって総力戦するところは分かっていても結構ムネアツな展開。日本人ってこういう大団円パターン好きだよね。最後は前作『ぬきたし』のメンバーが助けに来てくれて主人公くんは3ヒロインと再会することが出来てハッピーエンドとなります。
 

女医先生物語~資本主義社会におけるやりがい搾取とバーンアウト

f:id:r20115:20220212231513j:plain
エンディング後に解放されるアフターでは主人公くんが内呂脩平と名前を改め新しい人生を歩み始めます。それは3ヒロインと共にゲーム会社を起し作品を作るというものでした。刑期を終えた囚人たちや看守たち、主人公くんの姉が次々に会社を訪れる場面は、総力戦をしたこともあり感無量なところがあります。そこでは女医先生の物語も締めくくられることになります。女医先生は母子家庭で育ちながらも自分を助けてくれた医者に憧れて医学部に進学したというありがちな展開。充実した大学生活を過ごすも医学部には莫大な金がかかるため附属病院で働くことを条件に奨学金にありつきます。若くて理想に燃えていた女医先生ですが、資本主義社会の実態を垣間見て次第に心が病んでいきます。理想と現実のギャップ。猪突猛進していた女医先生ですが、ある時いきなりプツリと糸が切れるかのようにバーンアウト。全てを捨てて逃げてしまったのです。過労死せずに一命をとりとめたものの、一度逃げると再就職は難しく、それで刑務所の医者になったというワケ。そこでも精神をすり減らし、主人公くんの脱獄を助けたこともあり刑務所勤務もクビに。以後、主人公くんが会社を建てた島へと一緒に落ち延びることとなります。主人公くんは当初ゲーム制作を自己の存在証明としていましたが、さらにその先を見出します。ゲーム会社の売り上げを使ってLGBTの人達のための扶助組織を作り、それを女医先生に担当してもらうことになります。このバーンアウト問題は女医先生だけではなくソフりんを通しても生々しく描かれており、ライターは会社勤めに一回失敗して、その後バーンアウト状態になったのではないかと邪推してしまう程でした。バーンアウト経験者の人は女医先生やソフりんの心情に激しく共感できるんじゃないかな。
 

中年物語~生きる屍となった無気力な中年の再生~

f:id:r20115:20220212231518j:plain
本作のラストを飾ることになるのが、刑務所内の情報屋として主人公くんと交流のあった中年:釘谷譲二さん。なんとこの人物は裏の主人公とも言え、水城姫子から教育を受けた初代後継者候補性だったのです。釘谷さんが囚人となったのは、自分の惚れた女の報復をしたからでした。事件を起こした首謀者である市議とその息子は権力により揉み消しを図った挙句、釘谷さんの女が悪かったのだといけしゃあしゃあと責任転嫁してきます。これにブチ切れた釘谷さんは勢い余って殺してしまったのです。収容所トップの水城姫子と同じような境遇であった釘谷さんは、目をかけられ、教育を施されるのですが……。最後の試練で出身故郷を裏切ることが出来ず、後継者になれなかったのでした。それ以降、釘谷さんは情報を売ることで僅かな見返りを得る情報屋となり刑務所で余生を過ごすことになります。主人公くんの情報を水城姫子に売ったのも釘谷さんであったことが判明します。グランド√のラストはそんな釘谷さんの再生が丁寧に描かれて行くのです。外の世界には居場所など無いこと、それでも釈放されてしまったこと、居場所を求めて彷徨いながら主人公くんのルーツを辿ったこと、主人公くんが創業したゲーム会社には釘谷さんが必要なこと等々が語られ、最終的に主人公くんと再会してエンドとなります。このシナリオでは、中年が抱える不安や心の機微が如実に表されており、人生の目的を喪失した男性の、残りの人生に対する緩慢な自殺が抉りだされていきます。表の主人公くんはゲーム制作を自己の存在証明として強調していました。一方で女医もソフりんも釘谷さんも一旦は人生の目的を喪失しますが、そこから再生を果たします。ここから言えるのは、本作は人生において生きる目的を見出すことがテーマだったのかもしれません。

f:id:r20115:20220212231458j:plain

感想まとめはコチラ