2022年発売のノベルゲームまとめ

  • 2022年私的おススメ3本+次点
    • 例年に比べるとあまり製品版をプレイしなかったが、その中で3本を挙げるとするとヘンプリ、キス炉利、あおかなEX2。ヘンプリは収容所生活を通して様々なキャラの群像劇を巧みに描き出すと共に主人公くんが自己の信念を貫き通し人間の証明をする。キス炉利は毎度お馴染み夜のひつじ先生の新作であり、人生を上手く生きられない人間の心理が真摯に描写され、ついには壊れながら生きるという思想に到達した。あおかなEX2はキャラ人気1位のみさきちが満を持して登場!競技者としての存在理由に悩むが愛を持って戦うという結論に至る。次点をあげるならばフタマタ恋愛。繊細な感情を持つ大学生たちのキャンパスライフを描きトラウマを解消し個別√に入るまでの人間模様は大変面白い(だが個別√は単なるキャラゲーである)。
    • cf.2022年発売ノベルゲームの一覧

  • ウマ娘におけるゼロ年代泣きゲー要素ついて
    • 昨年と同様二次創作でよく見かけるのはウマ娘。私は個人的に泣きゲーや鬱ゲーが好きなのだが、PCゲーでそれらの傾向の作品が少なくなりスマホゲーで顕著に見られるようになった。ウマ娘では2021年にライスやスズカのメインストーリーで泣きゲーっぽさが醸し出されていたが、2022年にはゼロ年代泣きゲーの特徴を持つシナリオとして、アヤベさん・アルダン・マーチャンの3強が生まれたことが特筆される。アヤベさんは死んだ妹の幻影に囚われて自己を追い込み、アルダンは死に逝く自己と向き合い存在証明に駆られ、マーチャンは存在の消失を死と捉えて観測されることを求めるのだ。彼女らはレースに人生を賭けており、そこから命を燃やして自己を追い求めるため、それが泣きゲーや鬱ゲーの土壌として合っているのかもしれない。もしくは史実のウマの人生(?)そのものが泣きゲーチックだからかもしれない。ウマ娘はシングレがいよいよ佳境だし、2023春からはナリプが主人公でアニメ化もするから多分2023年も見る。
    • cf. 泣きゲ要素のあるウマ娘の個別シナリオ

  • スマホゲー・ソシャゲ・steamなどについて
    • 近年、シナリオの良いスマホゲーやソシャゲ、steamが多いと聞く。好きなライターさんやらがブルアカに嵌ってシナリオを賞賛しているのを見ると、自分も読まなければならないという気分になってくる。だがプラットフォームが余りにも多様化しておりなかなか良作があってもそこまで辿り着けないのが現状である。もしこれは読んどけというシナリオのソシャゲなどがあればご教示くださいますようお願い申し上げます。

以下、個別作品の論評。

【目次】

ヘンタイ・プリズン (Qruppo) (2022-01-28)


特殊性癖を持つ主人公が自己の価値観を貫き通すため、牢獄でのし上がり下剋上していくお話。ムショでの暮らしはソルジェニーツィンの作品群を彷彿とし『収容所群島』や『イワン・デニーソヴィチの1日』のように極限状況の中での人間模様や自己の内面心理が描かれていくことになる。設定としてはぶっ飛んだ展開が多いが、それが逆に痛快感を与えており、割と真剣に読んでしまった。収容所に入れられた各キャラの人生観や生きる事の意味などがよく表現されていると思う。ただ主人公くんが選んだ自己の表現手段がエロゲー制作であり、皆でエロゲーを作るという作品は履いて捨てる程あるので、そこは手垢塗れ感はあった。多分ライター自身が身を置いている境遇なので題材にしやすいのだろうけど。エロゲ業界は既に斜陽産業であり衰退しきって久しいのでエロゲが持っているポテンシャルやら社会的影響を表現しようとしたかったのかもしれない。

1/1彼氏彼女 (SMEE) (2022-02-25)

年齢を気にして恋に奥手な多恵子さん

キャラゲー。高校編・新卒社会人編・社畜生活編の3パターンあり、人生の発達段階に合わせた恋愛模様が楽しめる。ヒロインは4人いて、高校編1人、新卒社会人編2人、社畜生活編に1人配置されていてフラグが立たないと次のライフステージに進む。高校編からいきなり社会人編になり何故大学キャンパスライフ編が無いのかは謎。シナリオ的には高校編のヒロインは正直言って微妙であるので、さっさと社会人になってしまった方が良い。特に誰とも結ばれること無く辿り着いた社畜生活編に突入してからが一番面白い。攻略対象は行き遅れ三十路おばさんなのだが、このおばさんらしい人生観とかおばさんの中に秘めた女性の感情とかが良く表現されており、年齢を重ねたからこそ得られる魅力というものがここにはある。おばさんが十分攻略対象となることを証明したことに歴史的意義のあるシナリオであり、これからはおそらくBBA系ヒロインも増えると思われるので、その嚆矢として語られることになるだろう。

アンレス・テルミナリア (Whirlpool) (2022-03-25)


セカイ系。作者の頭の中での世界観構築がメインであり、攻略ヒロインは世界観を語る上での単なるパーツに堕してしまうといういつもの。作者の世界設定について行ければ楽しく読むことが出来るのであろうが、所詮は作者の頭の中での出来事であるため、結構突っ込みどころ満載。折角キャラが可愛いのにちょっと勿体ない気がしないでもない。内容的には、現在のセカイAは終末を迎えようとしており新セカイBに継承すべきことを審判するため主人公くんが遣わされている。しかし主人公くんはその過程において世界Aのヒロインたちと情交を深め、神に従うことを良しとしないようになる。そのため神に反逆し神のいないセカイCを創造するというのが基本的な構図。徐々に明かされていくセカイの謎や主人公の裏人格の活躍などは面白かったかな。

フタマタ恋愛 (ASa Project) (2022-04-28)

孤独に耐えかね主人公を引き留める宮子

個別√に入るまではかなり面白く読めた。泣きゲー・鬱ゲーの風味が良く聞いており、大学生たちの多感な内面描写や生き様がよく描かれている。主人公くんは自分のことをクズと認識し、実際にそのように振る舞っている。その理由は高校時代に惚れた女を直も引き摺っていることであり、フツーの恋愛が出来なくなってしまっている。過去の女は現在でも主人公くんにとって比重を占めており、その女の相手をすることが主人公くんに影を背負わせているのだ。端から見ればこの女と主人公くんがくっつけば全て丸く収まるのだが、それには劇薬が必要であった。主人公くんの時間を進めるため、野心家で腹黒の野ブタが暗躍し感情ストレートで純粋な煌が奮闘する。そのため個別√に入るまでの人間模様は本当に面白い。ただ個別√に入った瞬間に単なるキャラゲーと化す。

毎日キスしてロリータ (夜のひつじ) (2022-05-20)

人生。切っちゃお。ちょきちょき

我らが夜のひつじ先生の炉利シリーズ。今回も夜のひつじイズムが満載であり、人生を上手く生きる事が出来ず苦しんでいる男性が、家庭環境に問題を抱えて生きる事が辛い炉利たちを救済することで救済されるという相互救済な展開。特に夜のひつじでは、既存の社会秩序に適合するのではなく、社会の外の人間関係に安寧の地を見出す痛々しさを抱えているのが良い。多分人生が上手くいってる幸せな人間がこのシナリオを読んでも、単なるアウトサイダーの感傷と斬って捨てられるだけであろう。特筆すべき点としては社会性の回復や社会からの承認を受けようとするのではなく、壊れながら生き続けることに人生観を見出す事。生きている社会に絶望したとしても、自殺しない限りは人生は続く。自殺は救いの一種なのだろうが、皆が皆そうできるわけではない。癒えることも無く、蒔きもせず、紡ぎもせず。壊れながら生きる人生に救いがもたらされている。人生切っちゃお、ちょきちょき。そして私は丸太になる。

AMBITIOUS MISSION (SAGA PLANETS) (2022-05-27)


仮想通貨・アイヌタイムリープ封建制・階級制度など様々な要素を取り入れたのに上手く扱えず単なる舞台装置になってしまったキャラゲー。シナリオをご都合主義で処理するのは勘弁してほしい。体験版まではすごく面白いし、このまま仮想通貨をメインにした経済闘争モノを描ききれば十分良作になったんじゃないかな。だがしかし現実ではファンタジー的なタイムリープとご都合主義満載なアッサリとした問題解決。面白い題材を扱っているだけに残念感が否めない。舞台装置というのはキャラや関係性のための単なる道具じゃないんだよ!いやキャラゲーやりたいだけだったら、何でこんなに社会問題の設定をテンコ盛りにしたんやという感じ。社会問題をきちんと描けてこそ、キャラが生きるということをプレイヤーに再認識させた作品。

蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2 (sprite) (2022-05-27)

愛を説くみさきとメンヘラと返すみなも

さきち√のファンディスク。一流のアスリートになったみさきちが競うことの中に愛を見出すことがテーマ。あおかな本編においてみさきちはエンジョイ勢であり身体能力と才能に依存したプレイで結果を残せてしまう競技者だったため、途中で頭打ちになってしまう。これ以上伸びる為にはブレイクスルーが必要であり、試合観や戦略を覚えるための脳トレ、そのプレイを実現するための地道な肉体トレーニング、そして多感な思春期を乗り越えるためのメントレが中心として描かれた。ファンディスクでは追われる立場になったみさきちがその息苦しさにより精神崩壊し、自分は何のために戦うのかという疑念に駆られることになる。これに答えを出すことがファンディスクのテーマであり、みさきちは自分を倒そうと立ち向かってくるライバル競う中でその闘争の中に愛を見出すのである。この競技者としての愛という答えを見出すことができたみさきちはアスリートとしてまた一歩成長する。競技を続けていれば、その都度メンタル的な問題は発生するので、それを一つずつ主人公と一緒に乗り越えていくというのがいいよね。みさきちは感情が複雑で歪んでいるので、その分色々と精神的に考えてしまいゴチャゴチャになるので、その分人間臭くて味のあるキャラとなっている。流石はあおかなの中で人気1位のキャラでありプレイヤーから好かれるのも頷ける。

ジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world- (きゃべつそふと) (2022-07-29)

ハイパーアルティメッドまどかエンド

クソナガスクジラ。異能バトルもの。視点ギミック。同じような展開の焼き直しが多く長すぎる。内容については以下の通り。主人公くんは異能学園に潜入調査する。その学園は人間と亜人の学園だとプレイヤーに思わせてシナリオが進み、学園モノの仲間との友情が中心となる。だが学園において「人間」と思われていた種族は実は「吸血鬼」であった。主人公くんの種族は「人間」であり、対吸血鬼用としてスパイに来ていたというギミックが発動する。ここら辺は割と面白みを感じられる。よくある善悪二元論で語れず相手には相手の事情があるという使い古されたパターンだけど、ギミックとしては効果があっていいよね。だが最後はスゲーご都合主義で終わる。世界を生かすために自分が死ぬことを選んだヒロインが、御都合主義でアッサリ復活して終わるというオチ。ヒロインを死なせることによって生み出したカタルシスを自ら踏みにじってしまう問題。これってどのメーカーでも見られる問題なので、クリエイター側にハッピーエンド症候群のヒトがいるのかしらん?


アマナツ (あざらしそふと) (2022-08-26)


キャラゲー。勉強ばかりしてきた主人公が田舎で人間関係を求めるのだが、体験版までがクライマックス。体験版以降は主人公が学力コンプレックスに悩まされることはなくなり単なるキャラゲーとなる。もう少し主人公くんが思想を変化させるまでに色々あっても良かったんじゃない?あと主人公くんは充実した学園生活という青春コンプレックスを追い求めているので、同性の友人連中と馬鹿をやることも忘れてはならない。共通ルートではキモヲタ、オカマ、筋肉と一緒にたむろして語り合うというシーンによって青春を感じられて良かった。だがヒロインの個別√に入ると、ヒロインとの情交が主となるので、友人たちとの関係が蔑ろにされがち。ヒロインとのイチャラブと同級生とのバカ騒ぎを両立させるのって大変よねと改めて思った。あと主人公が同居して世話になるメインヒロインについてなのだが、声優さんが独特な声なので、この声優さんが演じるキャラを攻略する時は、そのキャラを攻略するのではなく、その声優さんを攻略している気分になる。これは筆が速くシナリオを量産しているライターにも言え、特定の言い回しやフラグ構築のパターンが多いとキャラを攻略するのではなくライターを攻略している気分になってくるのと一緒。

終のステラ(Key) (2022-09-30)

死という有限性に際して自分の技能を伝授し娘として認定する主人公

ポストアポカリプスモノな終末セカイでAIが主体的な意志を宿す話。2022年になってもセカイ系っすか?って感じ。雰囲気としては娘の成長を見守り育てていくノリであり、プレイヤーに「父親」になることを求めている。ノベルゲーのユーザーに父性を持たせるためのゲームと言っても過言ではない。舞台はポストアポカリプス。文明が崩壊してしまったセカイにおいて人類は旧時代の遺物の残滓に依存しながらへばりつくようにして生きていた。主人公はそこで遺物を発掘調査整備販売しながら渡り歩く技術屋であり、ある時AI少女の育成を頼まれることとなる。最終的に主人公はセカイかAI少女かを選ばされる。主人公はAI少女のために死に、セカイよりも少女を生かすことに実存を見出す。結果的にこれがAI少女にシンギュラリティをもたらし、旧セカイが救われることになることを予感させて幕を閉じる。ポストアポカリプス的な世界観やアクションバトル、大人な主人公の父親的なカッコよさ等は面白かったが、如何せんセカイ系から脱却できないところにノベルゲーの限界性がある。

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