【感想】ブルーアーカイブ「鬼方カヨコ(ドレス)」 絆ストーリー

フォーマルな服装をして、好きな人と一緒に、二人だけの時間を過ごすことの喜びを描く話。
「特別な事の中にある変わらないもの」と「日常の中を特別にすること」が対比的に描かれる。
前者では格式高い会場から路地裏へ抜け出し、二人で夕焼けを見ながら穏やかな時間を過ごす。
これはドレスを着ていたとしても、先生と一緒に過ごす日常を何よりも大切にしている事を示す。
後者では先生との食事に際し、その外食が特別であることを表すためカヨコが自らドレスを身に纏う。
これは先生と一緒に外食をするのだから、普段通りでは終わらせたくないという意図を示す。
最後はドレスを着ることに肯定的になれたカヨコが子供の意地と称し庇護されるだけの存在から脱却する。

ドレスという特別な時に着る服装を通して異なるシチュでの大切な人との過ごし方を描く

格調高い会場を抜け出し、先生と二人の静かな時間を共有するカヨコ

カヨコの絆ストーリーでは、ドレスというフォーマルな衣装が良く活かされたシナリオが描かれている。フォーマルな服装というものは、普段の日常とは異なる晴れの場に着るもの。すなわちドレスを着ることでその場が特別である事を示す効果を生む。

それを逆手にとって、たとえフォーマルな服装をしていたとしても、あなたと過ごす何気ない日常が大切なのだ!ということを表現したのがメモロビ。格式高い会場において息が詰まったカヨコはふと抜け出し、先生と一緒に路地裏で休憩をすることになる。他者の視線が無いなかで、何をするということでもなく、穏やかに無為の時間を過ごすことを楽しむのだ。カヨコと二人で非常階段に座り、夕焼けを眺めるシーンの情緒深さはメモロビの中でも屈指の出来栄えを誇るであろう。

特にカヨコが自分のセカイの中に先生を内包している姿が良い。これまでは一人で孤独の時間を楽しんでいたが、今はもう先生と共に静かな時間を楽しむことに喜びを見い出してる。休憩の終わりも近づき、もう離れなければならないのに僅かな時間を惜しむかのように「―……少しだけ……。―もう少しだけ……ここにいて。」と縋る姿が大変素晴らしく表現されている。また先生もそんなカヨコのことを受け容れており、御礼を言うカヨコに対し、口にしなくても分かってるよと応じる流れが、しみじみとして趣深い。

その一方で、ドレス特有のフォーマルな効果によって、日常をトクベツなものに変えるという真逆のシナリオをぶっこんで来る。ある時先生は便利屋に仕事で必要な書類を取りに行くのだが、その書類を用意してくれたカヨコに夕飯を御馳走することになる。ちょっとお洒落なレストランである。そこにカヨコが着て来た服がドレスだったというワケ。普段着で来るとばかり思っていた先生は、カヨコがドレスを着て来てくれたことにちょっとビックリ。そんな先生を見たカヨコがポツポツと言い訳をし、「せっかく先生が奢る食事だし、ちゃんとした服装にしたかったの」と述べる姿がグッとくる展開になっている。カヨコはドレスを着て先生と食事をすることで、その食事が単なる食事ではなく、特別な食事に変えたのであった。

そして最後には、先生に褒められ続けたことにより、自分がドレスを着ることを肯定できるようになったカヨコの姿が!!カヨコは自分なんかがドレスを着ることに対して引け目を感じていたし、先生に褒められるのも社交辞令だと思っていた。だが、ドレスを着て先生と一緒に特別な時間を過ごしたことによって、カヨコはドレスを着ることの劣等意識から解き放たれたのだ。カヨコが放つ名台詞「お世辞じゃないってこと、私、信じるって決めたから……だから、こうしているわけ。」は破壊力バツグンである。

そしてカヨコは自分が先生に守られるだけの存在、すなわち庇護対象としての存在から脱却しようとする。それが作中サブタイトルでは「子供の意地」と表現され、先生に奢られるだけでなく、自分が払いたいと意地を張るのだ。生徒にカネを出させるわけにはいかないと至極真っ当な判断をする先生に対し、カヨコが先生のセリフを引用しながら納得させるシーンは是非見て欲しいところ。

この意地こそがカヨコにとって先生の隣にいる為の覚悟であり、子どもな自分だからこそ貫き通す必要があったのだ。その場では「今はこれで十分だから」と述べるカヨコだが、メッセージアプリでは「ひとつ言いそびれたけど」と先生の気を引き、「あとで改めて話す」と打って、物語は幕を閉じる。先生「と」生徒という庇護対象から脱却し、先生「の」生徒になった瞬間であった。

先生と二人きりの穏やかな時間を惜しむかのように縋りつくカヨコ
先生との行為を終え、御礼を口にするカヨコと分かっていると応える先生の関係性
先生との夕食をドレスを着ることで特別にしたかったカヨコ
先生を信じ、ドレスを着ることに肯定的になれたカヨコ
先生の言葉を引用して「子供の意地」を通すカヨコ
先生に庇護されるだけの対象から先生の生徒になりたいカヨコ