星テレ11話感想「関係性が悪くなると修復する努力をせず全てを切って捨て孤独に陥ってきた女、それでも手を伸ばしてくれる友に出会えて承認の喜びを得る」

自分の価値を証明しないと居場所にいられないと思い込み勝手に自滅した女の存在そのものを肯定し救済する話。
雷門マタタキは理工系の知識と工作スキルに自信がある少女であり、それを存在証明の手段として依存していた。
つまりは技術屋の自分がアイデンティティの根拠であったのだが、技術や能力と云ったものは上には上がいる。
それ故一度負けるとプライドは粉々に打ち砕かれ、自分は技術があるから必要とされているという拠り所がなくなる。
そんなマタタキの心境を理解できるのは、自分に価値が無いため居場所が無いと思い込んでいた海果だった。
有能なマタタキと無能な海果という対の存在であったため、無能になったマタタキの心情を誰よりも分かったのだ。
価値を媒介とする人間関係が解消され、雷門マタタキという一人の存在として無条件に承認された瞬間であった。

自分の居場所が無いと感じていた海果だからこそ、居場所にいられないと思い込むマタタキを癒すことができる

自分の弱いプライドを守るために自分の有能さで存在証明しようとした結果

ロケット大会に大敗し技術屋としての価値を喪失しロケ研での居場所を無くしたと思い込んで登校拒否になりガレージに引き籠る雷門マタタキ。彼女を解放するには、技術目的で引き入れたのはではないことを示さなければならない。だが言葉でいっても伝わらない!そこで海果たちは知己を得た科学技術高校へ技術指導を請いに行き、工作技術のイロハを一から学ぶのだ。これまで雷門マタタキに全てを頼り切りであった海果たちは、自分たちのスキルの拙さが彼女を孤独に追い込んだと思い、自分たちにスキルがあればマタタキを一人にせず、皆で協力できたと奮闘するのだ。そんなわけでA-partではロケット作りがメインとなり、工作タイムとなる。立派な設備で体系的な技術指導を受けた海果たちはメキメキと力をつけ、雷門マタタキを再訪する。海果は身につけた技術を示すためロケット対決を申し込むが、雷門マタタキは憔悴しており、いやに素直に海果たちとの勝負を受けた。
 

孤独を孤高と読み替えて

こうして海果たちと雷門マタタキの2度目の勝負が始まる。だが雷門マタタキははじめからこの戦いを最後にするつもりであり、全ての関係性を断とうとしていた。雷門マタタキはこれまでの人生において人間関係でちょっとでも上手く行かなくなると、関係性修復に1ミリも努力しようとせず全てを断ち切ってきたのであった。その果てには孤独しか待っていなかったが、弱い自分の高いプライドを守るためには、こうしないと自我崩壊するのであった。『山月記』系統ヒロインの典型であり臆病な自尊心と尊大な羞恥心の典型のようなキャラ。こうして独りよがりになって孤独になった結果、虎になるんだろうね。だが雷門マタタキが虎になることを防ぐのが、小ノ星海果なのである!海果は自分が無能であったため、現実社会で居場所を作ろうとせず、宇宙になら自分の居場所があると思い込んで逃避に走っていた。だが高校でロケ研という居場所が出来て、そこは能力とか価値とか関係なしに海果を受容してくれたのである。だからこそ今度は海果が、能力の有無とか必要とされるとかされないとかではなく、雷門マタタキという存在そのものの居場所となるのだ。
 

小ノ星海果の無条件承認

周囲に自分の価値観が受け容れられないという孤独。その孤独に対し、理解を求めるのではなく、自分の高い能力を示すことで、孤独を孤高と読み替えて自我を保つ。だが有能さを自分の存在証明の拠り所とすると、自分の力が大したものではないと思い知った瞬間に精神崩壊するに至る。この世の中には上には上がいるものであるし、他者から評価される手段のためにやってる奴には限界あるからである(ロケットが好きだからロケット研究していた科学技術高校と自分の存在証明のためにロケット作った雷門マタタキという対比)。有能さというメッキが剥がれ自分には何もなくなったとアイデンティティ崩壊したところではじめて、価値や能力の有無ではなくて個人の存在そのものが承認されることになる。共通の趣味を持つ友が救いとなった。雷門マタタキという個別具体的なキャラを用いて描いたけど、普遍的なテーマでもある。

小ノ星海果の救済

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