ヘッセ/里村和秋訳『荒野の狼』(臨川書店『ヘルマン・ヘッセ全集13』内収録)の感想

現代社会に適合できない知識人が悩むはなし。

人生の敗北者と描かれ生活に幻滅する男が次第に狂っていく。かつての栄光は露知らず、不器用に生きる毎日。大衆化する中で、価値のあるものが薄れてゆく。そして自殺を連想させるカミソリに怯えるようになるまでになるのだ。そんな孤独な男を救うのは救済者としての女性:ヘルミーネの存在。嗚呼結局はオンナが救いなるのかね。今までろくに大衆娯楽に染まる努力をしてこなかった男は女に振り回されるカタチで生存を取り戻していく。今までの人生は何だったんだ。孤高に努力してきたことは無駄だったのか?発狂しろ、発狂だ。狂人のみが入れる無数の並行世界に突入し、数々の並行世界の人生を疑似体験する。しかし救いと思っていたヘルミーネは自分がこうあって欲しいと願った理想の人間像を勝手にただの高級娼婦に投影していただけのこと。そして殺害。もしかしたら殺害エンドいがいの道もあったのではないか?それにはユーモア、笑いが必要だ。本当に必要だと思うもの以外は笑い飛ばせる能力が必要だ・・・