池野範男「社会科の基本的性格」星村平和編『社会科授業の理論と展開』1995年 10-15頁

  • この文章の趣旨
    • 日本の社会科教育は4つある。その4つとは(1)初期社会科「生活主義的社会科」,(2)日本生活教育連盟「社会批判主義的社会科」,(3)昭和30年版以降文部省「教養主義的社会科」,(4)教育科学研究会「科学主義的社会科」である。前2つは実用主義的社会科論、後2つは教科主義的社会科論といわれる。
    • 1989年版以降社会科学習指導要領から、社会認識における客観的な連関の強調が主体的な連関の強調に変化させられてしまい、教科主義的な特徴から「態度主義的社会科」へと変貌してしまった。

1.二つの社会科論

  • 社会科教育とは何か?
    • 社会科教育とは「社会認識を形成することを通して公民的資質を育成する」教科である。
  • 子供・社会・知識との関連において社会科教育論は2つに別れ各々2つの下位類型があり全部で4極。
1.教科主義的社会科論
  • 社会やその知識は子どもたちの存在とは切り離された客観的なものと考え、この客観的なものを教えようとすることが特徴。
  • 人間が作り出した文化や科学の客体物を受け取り自らのものにすることで、一定の知的啓蒙段階に到達できる。
    • (1)教養主義的社会科
      • 人間が獲得した知識総体=文化(地歴政経社会)=人間が自らを啓蒙する=基礎的基本的
      • 細分した領域固有の論理に基づいて領域全体の知識を提供する。
      • 基礎的・基本的事実は明確に根拠付けられているわけでないので時代や状況で流動化する。
    • (2)科学主義的社会科
      • 社会科学の知識が重要であるとするところが特徴。
      • 理論的知識の論理的習得が目指される。
2.実用主義的社会科論
  • 子どもたちの内的能力を育成することによって、社会を分かる社会認識の能力を育て、社会生活への影響力を高め、社会的有用性を期待する。
    • (1)生活主義的社会科
      • 子どもたちの社会背かつとの結合を重視
      • 自らの問題、生活行動の問題に際していくつかの解決案が浮かぶだろう。しかし、この解決案を実際に行ったらばどうなるのかを考えると、新たな問題が生じる。この新たな事態で、個々人がどのような判断を行うのかを考えさせる。
      • 日常生活と連続していることに生活主義的社会科の特徴がある。
    • (2)生活批判主義的社会科
      • 社会問題を個人のレベルから社会全体のレベルへと高め、社会問題の解決をより批判的・実践的に行う。
      • 社会問題は子どもたちが根本的に解決できるわけもなく、ユートピア的教育になる。
3.まとめ
  • 教科主義的社会科論は、子どもとは独立した外的な存在としての知識を教育の主要な到達目標に置くのに対し、実用主義的社会科論は、子どもたちの日常の社会生活と連続した社会問題解決の可能性の探索を教育の主要な目標に置くことにある。

2.我が国の社会科教育論史

1.出発点としての22・26年版社会科
  • 初期社会科の特徴「問題解決学習」と「相互依存関係」
    • 問題解決学習
    • 相互依存関係
  • 初期社会科の欠陥
    • 個人と社会の結合の保障
    • 理論と実践、客観的知識と態度の関連の保障
2.社会科教育の可能性(1)
  • 初期社会科は二通りの解釈をされた。上田薫の「個性的理解」論と勝田守一の「シヴィック・エデュケーション」論である。
    • 上田薫の「個性的理解」論
      • 社会科の中心概念として子どもの思考体制と「個性的な理解」を提起する。
      • 「子どもの持つ個性を尊重」し、子どもが「個性的な事実、個性的な問題解決」を社会科教育で作り出すようにするべき。
      • 問題解決が個人的な実践的なものとされると極めて曖昧なものになってしまう。
    • 勝田守一の「シヴィック・エデュケーション」論
      • 社会科学がもたらす知識や機能を取り込んで、「近代社会の建設に必要な個人」の形成を行う。
      • 社会科学を行動と結合させ、社会科を実践的な社会科学研究として構想
      • 教科主義的側面と実用主義的側面を持っていたが、構想で止まり具体化せずに終わった。
3.社会科教育の可能性(2)
  • 初期社会科は上田薫「個性的理解」論が正等とされたが、これに三つの批判が出た。
    • 日本生活教育連盟の視界批判主義的社会科「社会問題解決学修論
      • 問題の社会性・解決の構造性・社会への批判性
    • 昭和30年版以降学習指導要領の教養主義的社会科「基礎的基本的知識教授理論」
      • 基礎的基本的な知識を終えこむことで、社会生活を正しく理解させる。
      • 現実の社会生活に必要なものを子どもたちに与えるという一般的教養の教育を社会科教育の課題にした。
      • 基礎的基本的知識は国家によって統制されイデオロギー闘争を導く。
    • 教育科学研究会社会科部会やアメリカ新社会科の科学主義的社会科「理論的知識教授理論」
      • 教育で目指すべきものは個人性ではなく、客観性や科学性である「科学と教育の結合」の主張。
      • 社会科は「内容を科学的に構成」し、「子どもの社会認識を学校教育を通して科学的なものに深めていく」社会科学科と定義
      • 教育科学研究会の主張する社会科学科はマルクス主義認識論に基づいていた。それはあまりに概念的な抽象化を目指しすぎたために、科学の系統を教育の系統に適切に組み替えることが出来なくて教条主義的な実践に陥り、子どもにマルクス主義を押し付ける結果になった。
      • アメリカ新社会科論は事実と価値を分離し、価値教育を社会科教育から排除し、事実の世界に留まり純粋客観的な社会科学の世界に社会科教育を限定しようとする。
4.まとめ
  • 社会科
    • 初期社会科
      • 上田薫「個性的理解」論・勝田守一「シヴィック・エデュケーション」論
    • 日本生活教育連盟
    • 昭和30年版以降文部省
    • 教育科学研究会

3.社会科教育の現状と課題

  • 1989年版以降社会科学習指導要領から、社会認識における客観的な連関の強調が主体的な連関の強調に変化させられてしまい、教科主義的な特徴から「態度主義的社会科」へと変貌してしまった。
  • 社会認識を客観化させず、主観化させてしまう恐れがある。社会認識の形成や公民的資質の育成を個人化や主観化へ向かわせている。
  • 故に本来の社会的な次元、公共的な次元、客観連関を再度取り込む必要がある。