はじめに―楽しく学びがいのある授業を―
1.生徒の主体性を活かす歴史の授業
2.討論が生徒の認識を発達させる
- 以後に続く班別の協議やクラス討論が彼らの時代像をより歴史の真実に近づく方向で発展させる
- 批判する方も答える方も、真剣に熱心に討論。みな生徒自身が自分で考え、なにより自分自身が納得できる答えを得ようとする ←彼らにとってかけがえのない自分の歴史認識が討論の対象だから
- 歴史を考えていく上でなるべく多くの確かな事実を踏まえる事、つまり実証性がいかに大切かを学ぶ
- 論理的な説明、オリジナルな意見の大切さなども学ぶ
- 授業の効果
- 次節
- 具体的な授業において、生徒の歴史認識がどのように発達し、認識主体としての成長がいかに図られるか。実際に即して考える。
4.認識の発達が生徒の意識を高める
- 歴史認識の発達が生徒のアイヌへ差別の問題への意識を高め、差別のない民主社会の担い手としての人格を育てる
- アイヌ意識の変容
- 孤立して貧しい生活をしていたから差別されていたとか、一方的に虐げられ迫害されていたかわいそうな民族といった、多分に否定的なアイヌへの意識 →授業を通じて新たに獲得したアイヌ像に照らして誤りであったことに気付く=生徒が自分の手で改善しようと、その第一歩を踏み出そうとしていることを示す
- アイヌが近世の日本にはない独自の文化を築き、北海道(アイヌモシリ)の自然の中で、狩猟や交易などによって国際性に富んだ豊かな生活を営んでいた自立性あふれる民族だったと、その存在を肯定的に捉える→以後の歴史はそのようなアイヌ民族を日本人が征服して、土地を奪い文化や社会を圧殺していった過程だったとして、以前には認識できなかった中曽根発言の不当性を強く意識
- 授業で身に付けた実証性、個性・主体性、論理性といった科学的歴史認識の方法→生徒たちのアイヌ像や江戸時代像に大きな影響と発達をもたらす→アイヌ人の立場に共感し、なぜアイヌへの差別が生じたのか、いかに撤廃できるのかを主体的に考えさせようとする意識を多くの生徒が持つ
- アイヌ意識の変容
5.アイヌ差別と日本人のアイデンティティ形成
- アイヌ差別の問題
- 日本型華夷秩序
- 幕府と外交権と貿易権を独占する海禁政策と、自らを将軍の「武威」と聖なる天皇を根拠として優れた存在(華)で、外交の相手を劣った(夷)とする位階制的な礼秩序 →「鎖国」とよばれる江戸時代の対外制度の本質
- 近世になって幕府権力が導入したこの日本的華夷秩序こそが、アイヌを夷として野蛮未開な下等な民族、日本人を華として文明的な先進の民族、という分断的で差別的な民族意識を、日本人がもつに至った理由
- 日本人の民族としてのアイデンティティ形成史における問題点を具体的に認識 →今日まで続く日本人のエスノセントリズム(自国・自民族優越主義)的な民族意識を自覚し、相対化していく事ができる →異質な相手の存在を認め、民族としての主体性を尊重して共生する事に価値を置く、今日のあるべき民族意識を模索しはじめる
- 授業を通じて、生徒の歴史認識の発達が、認識主体としての成長を実現するとは、このような事を言う。
6.生徒の主体的学習活動と社会科=歴史教育
- 生徒が主体的に歴史を考え、歴史認識を発達させるとともに歴史に対する思考力の向上をはかる授業
- 『歴史学研究』122号 1946年6月 国史教育検討座談会報告
- 「これからは歴史学者の立場からの歴史教育論が起こらねばならぬ。歴史学者は自ら歴史教育者としての自覚と責任を持たねばならない。」 ←国家が国定教科書などによって教授内容を決定し、教師の歴史観などの自主性が認められず、歴史研究者は歴史教育に無関心であったという戦前の歴史教育の在り方を批判・反省
- 「従来の教科書が多くの史実をただ断片的に羅列し、そのため歴史の勉強とは暗記することだと誤り考えられているが人類の歴史における進歩概念をもって内的関連を教え、歴史を考える学問とすべきだ。」 →ここには明白に網羅主義、暗記主義の歴史教育への訣別と概念的で構造的な歴史認識を主体的に探究するという、まさしく学問的な研究活動を生徒の学習として取り入れるべきだという方向性が示されている
- 「教授方法さえ適切であれば、生徒のみならず児童さえ非常に高度な学問的成果をも理解することが出来るし、事実彼等はそれに対する十分な興味をも示している。」 →子どもたちの伸びようとしている理性や旺盛な好奇心への信頼を表明
- 背景
- 実際
- 『歴史学研究』122号 1946年6月 国史教育検討座談会報告
- 初期社会科における歴史教育
- 生徒の主体的な歴史認識の活動、つまり歴史を考える事が歴史教育のあるべき方向性として主張された
- 1951年改訂『中学校・高等学校学習指導要領 社会科編Ⅲ』
- 「生徒の自主的活動をじゅうぶんに取り入れるべきであって、かつてのような、教師が生徒に歴史的事実の暗記をおしつけるだけのような学習態度は、当然否定されなければならない。」 →これまでの教師による一方的な教え込みを排す
- 「生徒自身が自己の思索と、合理的方法をもって、できるだけ正しい推論を出すことができるよう指導せねばならず、この意味で、生徒の史観も歴史学習を進めていくうちに、みずからの力で作り育てていくように指導しなければならない」 →生徒の主体認識活動を重視し、その認識主体としての成長を促す指導の必要性を指摘している
- 「歴史の学習は、現在を知るために歴史を学習するのであって、歴史のために歴史を学ぶのではない」 →問題解決学習としての歴史教育の観点が全面的に展開されており、生徒の歴史認識の全体性や発達への系統性がない →高校日本史の実践大きく発展できず
- 以後の社会科教育
- 子どもの主体的認識活動を重視しその認識主体としての成長を促す授業が大きく発展する方向では推移しなかった
- 事項解説を中心とする一方的な講義式の授業と括弧の中に適当な歴史的名辞を記入させ、その正確さと数だけを評価の対象とする学力観 ←学習指導要領改変、系統学習重視、知識伝達の科目編成、教科書検定、瑣末な知識を問う受験問題