森暢平「島宇宙を漂流する「象徴」」 世界 第792号 167-175頁 2009年

  • この文章の趣旨
    • 象徴天皇制の終焉と終焉後の変容した姿を考える。
    • 天皇というシステムとこの国に生きる人たちとの劇的な変化を明らかにする。

『女皇の帝国―内親王那子様の聖戦』の世界

  • 皇族を萠えキャラとして認識(ex.眞子さま;「ひれ伏せ平民どもっ!」「秋篠宮眞子様御画像保管庫」)
    • 新聞やテレビが押し付ける、メディアによる感情の共有作用に反発
    • 共同体の共通感情や記憶の拒絶

希薄化する国民国家的公共空間の中で

  • 天皇とは、想像の共同体である国家において、その公共的空間を統合するもの
    • 和辻哲郎の統合機能の概念「生きた共同体」
    • 全体性の周縁にある存在に対して、それらを積極的に取り込む役割を果たしている。
  • 国民国家的な公共空間の希薄化(←グローバリゼーション、地域分権型社会)
    • 過去;理想志向型社会
      • 集団的感情や意志は中心に向かって集中、逆に個々人も全体意志を受け入れていた。
      • 共同体の理想=昭和天皇・美智子妃;象徴天皇制
      • 象徴は天皇でなくとも良い=「国民的な」スタア=共同体内部における「大きな物語」、共通の記憶や感情
    • 現在;島宇宙的な社会
      • ポストモダン的社会
      • 人々は閉じたコミュニティを分立し、その中のアトム化した島宇宙に閉じこもる。
      • 「国民的」なヒーローも誰もが憧れるアイドルも出現しにくい=全体性の拒絶
  • 島宇宙を漂流する「象徴」=「象徴天皇制の終わり」
    • メディアによる皇族プロパガンダ=抑圧的な情報→嗤い、さげすみ、萠えキャラの対象
      • アイロニカルな視点;ドス子の事件簿、失われた超越性をもてあそぶ「眞子さま萠え」
    • 天皇制が、小さい仲間内のレベルの感情共鳴に落ちた姿=「象徴天皇制の終わり」

主体的であろうとしたがゆえの葛藤

  • 超越者の審級
    • 昭和天皇は、戦前天皇制を背負った存在として、かつて行っていた何かを「もはや為さない」ことで戦後体制への転換を体現した。
    • ところが、そもそも象徴から出発した現在の天皇は、等身大の役割を通じて、天皇としての望ましいありかたを模索しなければならなかった。
    • 問題の根源は主体的であろうとしたが故の葛藤;超越者の審級の喪失

官僚が支えた皇室

  • 皇室を背後から支えてきたのは、自らの権威保持のために皇室が必要であった官僚たち
  • 「何かを為しえない」昭和時代には官僚的保守主義が効果的であった
  • 超越者の審級が喪失し、一般と同じレベルで何かを為さねばならない天皇を官僚はうまく演出していない
  • 皇族=「常に国民を考える」というフィクションが破綻したときに全体性を擬制する危機が始まる。