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  • 平成元年告示高等学校学習指導要領の解説;『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』(実況出版 1989年12月) における世界史主題学習の分析

    改訂の背景と主題学習への影響

    改訂の背景

     平成元年に改訂された学習指導要領の社会的背景について、第1章総説第1節改訂の趣旨「1 改訂の経緯」では「今日の科学技術の進歩と経済の発展は、物質的な豊かさを生むとともに、情報化、国際化、価値観の多様化、核家族化、高齢化など、社会の各方面に大きな変化をもたらすに至った。しかも、これらの変化は、今後ますます拡大し、加速化することが予想されている」とし、「このような社会の変化に対応して、どのように学校教育の改善を図るかということが課題となっていた」と述べる。
     このような問題意識の下で、教育課程審議会の昭和62年12月24日の答申を踏まえて、学習指導要領が作成された。この答申で重視されたのが「学校を取り巻く社会状況の変化や学校教育の現状と課題」と「社会の変化とそれに伴う生徒の生活や意識の変容」への対応という観点(註2)であり、教育課程の基準の改定のねらいとして以下の4点が示された。

    • ①豊かな心をもち、たくましく生きる人間の育成を図ること
    • ②自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を重視すること
    • ③国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視し、個性を生かす教育の充実を図ること
    • ④国際理解を深め、我が国の文化と伝統を尊重する意欲と態度の育成を重視すること
    社会科における具体的な改訂事項

     この教育課程の基準の改定のねらいを受け、社会科ではどのような具体的な改訂があったであろうか。とりわけ重要なのが、高等学校における社会科が解体され地理歴史科と公民科に分かれたことと、この影響により地理歴史科では世界史が必修となったことである。解説において、社会科が解体された理由、地理歴史科が新設された理由、世界史必修についての理由がそれぞれ記されているので分析していく。まず、それぞれについて解説を引用すると以下のようになる。

    • 社会科解体の理由
      • 「高等学校においては、生徒の発達段階や科目の専門性を考慮し、また、国際社会に生きる日本人として必要な資質を養うことを重視する観点等から、中学校社会科における学習との関連を考慮して内容の充実を図るため、社会科を再編成して地歴科及び公民科の二つの教科を設ける」(註3)
    • 地理歴史科新設の理由
      • 「国際化の進展が著しい今日、歴史・地理学習を重視し、日本及び世界の各時代や各地域の風土、生活様式や文化、人々の生き方や考え方などの学習を通して、異なった文化をもつ人々と相互に理解し協力することができる、国際社会に主体的に生きる日本人として必要な資質を養うことが強く求められている。このような歴史・地理学習の重要性の高まりという時代的要請を踏まえ、新たに独立の教科として地歴科を設け、内容の充実を図ることとする」(註4)
    • 世界史必修の理由
      • 「国際化の進展をはじめとする社会の変化に対応して高等学校生徒に必要とされる資質を養うという観点などから、世界の歴史をすべての生徒に学ばせることとし、「世界史A」及び「世界史B」のうち1科目並びに「日本史A」、「日本史B」、「地理A」、「地理B」のうちから1科目の合計2科目4単位以上を必修としている」(註5)

     以上のことに共通している点はなにであろうか。それは「国際化」、「国際社会」という文言である。国際社会に生きるため、国際化による地歴重視のため、国際化の進展による社会の変化に対応するためと、大いにこの文言が強調されている。このことから、平成元年告示学習指導要領による社会科への影響についての重要な概念となるのが、「国際化」、「国際社会」であることが分かる。

    世界史における改訂の要点

     この概念は、教科及び各科目の内容の構成にも大きな影響を及ぼしているので、「3 改訂の要点」を見てみよう。ここでは「小学校及び中学校の社会科における学習の成果の上に立って、地理・歴史学習の一層の充実を図り、相互の関連に配慮しながら、日本や世界の各時代及び各地域における風土、生活様式や文化、人々の生き方や考え方などを学び、それを通じて過去や異文化に対する理解、国際的相互依存関係の理解、我が国の文化や伝統に対する認識を一層深め、これからの国際社会に生きる資質を培うようにした。そのため、社会の変化、特に国際化の進展などに対応し、生徒の発達段階や各科目の専門性や系統性に配慮し、各科目の目標に即して、基本的な事項を精選して、各科目の内容を構成した」(註6)とあり、次に各科目の改訂の要点が述べられている。

    • 「世界史A」は、諸文明の歴史的特質や交流の歴史を通して、前近代の歴史を概観させるとともに、近現代史については19世紀、20世紀の歴史を中心に一体化した世界の歴史を主題的にまとめて理解させるよう内容を構成した。
    • 「世界史B」は、従前の「世界史」の趣旨を踏まえ、前近代は歴史の大きな流れを文化圏ごとに、文化圏相互の交流にも着目させ理解させるとともに、近現代史は主題的にまとめて、理解させるよう内容を構成した。

     つまり世界史Aにおいては、前近代の学習は「諸文明の歴史的特質」、「交流の歴史」を通して概観し、近現代史の学習は19・20世紀を「一体化した世界」ととらえて「主題的にまとめて」理解させるものである。世界史Bは、従来の文化圏学習を引継ぎながらも、内容構成について「近現代史を主題的にまとめ」るものだとしている。つまり、ここでの共通点として、AもBも近現代史の内容構成を「主題的にまとめ」るように改訂されたということが分かる。では、具体的にどのようになっているであろうか。世界史A、Bそれぞれについて分析していく。

    「世界史A」と主題学習

    平成元年版「世界史A」の特性

     「世界史A」はどのようにして設置されたのであろうか。「世界史A」は、「世界史B」が従前の「世界史」の要旨を踏まえた科目であるのに対して、新たに設置された科目であるとされる(註7)。その理由として、国際化の重視により系統的な学習の必要性が発生したため世界史が必履修科目になったことをあげたうえで、「生徒の特性などに対応し選択の幅を拡大し、より履修しやすくするため」と述べられている。「世界史A」の意義としては、「近現代史を中心に内容を構成し」た特性があり「これからの国際社会に生きる新しい世代にとって近現代史を学習する」ものなので「「世界史B」を要約したものではない」とその重要性を強調している。つまりは、「生徒の興味・関心に応じて近現代史を中心とした世界史学習を選択できるようにした」と設置理由が述べられている。
     「世界史A」はどのような性格を持つものであろうか。解説では、現代世界の基本的構造とその変動について歴史的な観点から把握しようとする要求の高まりに応じるため、近現代の世界の形成の過程をわかりやすく学習させようとするものと記されている。内容構成の視点としては「文明史的な視点」「文化の交流及び比較の視点」をその性格の特性としている。まず、「文明史的な視点」であるが、文明という視点から歴史を考察させようとした理由について、「価値観、思想、イデオロギー生活様式などあらゆるものが変化し、国家や国民という枠をこえて、地球的または人類的な規模の課題の解決が要求」されたためであると説明している。具体的には、諸文明の歴史的特質、接触・交流、現代文明を扱うとしている。「文化の交流及び比較の視点」については、「国家や民族は、国際化の中で同質化されるのではなく、その文化的伝統、歴史的個性を相互に認めながら、共存していかなければならない」ため、「相対的」にものごとを見る視点を養い、柔軟な「歴史的思考力」を培うことを目指したものであると記されている。
     各項目の取扱いについても、一層弾力的にしたと述べ4つの大項目について説明している。その特性については、以下にまとめることができる。

    • 大項目「(1) 諸文明の歴史的特質」;各地域の文化の発展や「歴史的特質」を学習させる
    • 大項目「(2) 諸文明の接触と交流」;「同時代史的歴史像」をとらえさせる
    • 大項目「(3) 19世紀の世界の形成と展開」;「大きく世界の歴史をまとめる」
    • 大項目「(4) 現代世界と日本」;20世紀の政治史を概観させた後、中項目にしるされた「主題的な事項」の指導内容を、重点化

     これらの項目において、主題学習と関わってくるのは、「3 指導計画の作成と指導上の配慮事項」(2)指導上の配慮事項⑥多彩な小テーマの設定 の項目において述べられている内容の(1)、(2)と「主題的な事項」と述べられている内容の(4)についてである。以下では、その二つについて考察する。

    多彩な小テーマの設定とは

     「3 指導計画の作成と指導上の配慮事項」(2)指導上の配慮事項⑥多彩な小テーマの設定 の項目においては以下のような記述がある。「諸文明の特質、その接触と交流の多様さを理解させるため、内容の(1)、(2)の趣旨に沿った多彩な小テーマを設定し、授業展開を進めることが可能である」(註8)。この多彩な小テーマの設定を受けて、解説における「2 内容とその取扱い」において内容(1)、(2)についてそれぞれ小テーマに関する指示が出されているので、具体的な中身を見ていこう。
     まず大項目「(1)諸文明の歴史的特質」については、中項目「オ ヨーロッパとキリスト教文化」において、「都市と農村の社会と文化、合理的精神と科学・技術の進歩、ヨーロッパ世界の拡大とアメリカ・アジア、国民国家の形成と資本主義の発達といった主題を一、二設定し、内容を精選しながらヨーロッパ文明の特質をとらえさせるような創意工夫が望ましい」と述べられている。ここでは4つの小テーマが例示され、ヨーロッパ文明の特質をとらえることが目的とされている。小テーマ「合理的精神と科学・技術の進歩」は、前回の解説(1979年刊行)における「2 内容とその取扱い」(4)ヨーロッパ文化圏の形成と発展 の17〜18世紀のヨーロッパ文化の主題学習を引き継いだものと捉えることができる。
     次に大項目「(2)諸文明の接触と交流」については、末尾において「それぞれの中項目に適切なテーマを設定して、生徒の興味と関心を高めることも試みたい」と述べられ、各中項目に小テーマの例示がなされている。一覧すると以下の通りである。

    • 中項目「ア 2世紀の世界」;シルクロードの交易
    • 中項目「イ 8世紀の世界」;各文化圏の主要都市
    • 中項目「ウ 13世紀の世界」;マルコ=ポーロやイヴン=バトゥータの世界旅行
    • 中項目「エ 16世紀の世界」;コロンブスの航海、
    • 中項目「オ 17・18世紀の世界」;諸文明の建造物や芸術作品

     中項目アの例示「シルクロードの交易」は昭和35年版用の解説以来昭和45年版、昭和53年版と継承され続けているテーマである。中項目ウとエの「マルコ=ポーロ」、「イヴン
    =バトゥータ」、「コロンブス」など人物をテーマに設定することは、昭和45年版から取り入れられた人物学習、人物が主題選定の基準ともなった昭和53年版からの継承である。 「世界史A」では学習指導要領においても、その解説においても、一言も「主題学習」という文言は出てこないが、小テーマの設定の学習において、主題学習の継承や片鱗を垣間見ることができる。

    主題的にまとめる内容構成とは何か

     解説第1章総説第1節改訂の趣旨「3 改訂の要点」において「世界史A」について「…近現代史は主題的にまとめて、理解させるよう内容を構成した」とある。 これを受けて、解説の第2章各科目第1節世界史A「1 科目の性格と目標」(2)科目の基本的性格 において。内容大項目「(4) 現代世界と日本」は「・・・中項目に示された主題的な事項の指導内容を、変化する現代の世界に対応して、重点化し、柔軟な取扱いができるようにした」と述べられている。つまり、ここでは中項目が主題的な事項であることが分かる。内容大項目(4)とその中項目を見ていくと以下の通り。

    • 大項目「(4) 現代世界と日本
      • 地球的規模で一体化した現代世界の歴史を理解させ、そこに現れた歴史的課題について考察させる。この際、世界の動向と日本とのかかわりに着目させる
    • 中項目「ア 二つの世界大戦と平和」
      • 第一次世界大戦第二次世界大戦の原因やそれが及ぼした影響に着目させ、そこに現れた歴史的課題について考察させる。その際、世界の動向と日本とのかかわりに着目させる
    • 中項目「イ アメリカ合衆国ソビエト連邦
    • 中項目「ウ 民族主義とアジア・アフリカ諸国」
      • アジア・アフリカの民族運動や植民地独立の経過を理解させ、アジア・アフリカ諸国が抱える問題などについて理解させる
    • 中項目「エ 地域紛争と国際社会」
      • 第二次世界大戦の世界で起こった地域紛争、人種・民族問題などに着目させ、その歴史的背景や国際社会の構造などについて考察させる。
    • 中項目「オ 科学技術と現代文明」
      • 原子力の利用、情報科学、宇宙科学の出現など現代の科学技術の人類への寄与と課題に触れ、人類の生存と環境、世界の平和と安全などについて考察させるとともに、国際的な交流と協調の必要性に着目させる
    • 中項目「カ これからの世界と日本」
      • 諸国、諸地域の交流、相互依存がますます進む中で、多様性を認め合いながら日本が世界の諸国と共存する方向を21世紀を展望しつつ考察させる

     以上のような中項目となっているが、問題は内容を主題的に構成したからといって、それが主題学習になるのかどうかということである。ここでは、主題学習としてのねらいも主題選定の観点も内容の取扱いも主題の配当も構成時間も何一つ記されていない。だがしかし、次回の改定である平成11年告示学習指導要領の解説を見てみると、ここでの主題的に構成された中項目が主題学習に変容しつつ継承されていることが分かる。具体的には内容(3)現代の世界と日本における「オ 地域紛争と国際社会」、「カ 科学技術と現代文明」に関する記述である。「内容(3)のオ及びカは、先行するアからエにおいて20世紀の歴史的特質と展開過程を学んだ上で、人類の当面する課題を、生徒の主体的な追究を通して学ばせようとする項目である。それゆえ、例示された課題などを参考に、生徒の追究を促すような適切な主題を設定しなければならない」と記されており、その目的を「生徒の主体的な追求を通して、人類の課題についての歴史的視野からの認識を深めさせることにある」と言及している(註10)。このことから、平成元年版における主題的な中項目の構成は、後の主題学習の萌芽的なものとして位置付けることができよう。

    「世界史B」と主題学習

    平成元年版「世界史B」の特性と主題

     「世界史B」は従前の「世界史」を継承するものであり、「世界の歴史の大きな流れを、各時代、各地域の歴史の重要な事柄を中心に学ぶ科目である」(註11)とされる。その構成は、前近代と近現代で分かれており、まず前近代の歴史については「世界の各地域の文化の素地を成す文明の形成と発展の歴史を概観し」、「東アジア、西アジア、南アジア、ヨーロッパの各文化圏ごとにまとめて学習させる」とされている。近現代の歴史については「国単位の歴史ではなく世界史として構成されている」が故に「政治、経済、社会、文化の各領域を扱い歴史を総合的にとらえさせるような構成」であると述べられている。特に20世紀の歴史については、「現代の世界の構図を知る上で特に重要であるが、政治の流れを中心に大きな枠組みをおさえたのち、現代史の最も重要と考えられる主題を様々な角度から取り上げて学習できるような構成」であるとされる(註12)。これらのことを踏まえ、近現代史は「世界を一体化してとらえる視点」と「現代を理解する上で重要な事柄または主題でまとめる」という内容構成原理になっており、また、現代の世界の最も重要と思われる課題を歴史的に理解し考察できるよう内容「(7) 現代の課題」を設けたと記されている(註13)。
     では、実際に「現代を理解する上で重要な事柄や主題」でまとめられた内容「(6) 20世紀の世界」や内容「(7) 現代の課題」がどのような構成になっているかを以下に示す。

    • (7)現代の課題
      • ア 国際対立と国際協調
      • イ 科学技術の発展と現代文明
      • ウ これからの世界と日本

    これらの内容は、主題でまとめられていたり、課題を考察したりと、主題学習と似通ったものであるが、主題学習とはどのように関わってくるのであろうか。ここで、次の改訂である平成11年版用の解説を見てみよう。平成11年版における内容(5)地球世界の形成 は、平成元年版の内容(6)と(7)を組み合わせたものであることが分かる。そして平成11年版の内容(5)の中項目の後ろから三つ、つまり中項目エ、オ、カは、平成元年版の内容(7)の中項目と全て同じである。しかも、平成11年版ではその中項目において「内容の取扱い」で「例示された課題などを参考に適切な主題を設定し、生徒の主体的な追究を通して認識を深めさせるようにすること」(註14)と主題学習を行なうように記されている。つまり平成元年版における内容「(7)現代の課題」は、後の主題学習の萌芽というべき歴史的な位置づけであることが分かる。

    文化圏学習と主題学習の関連性の低下

     文化圏学習が本格的に始まったのは昭和45年版からであり、昭和53年版、平成元年版と継承された。後の歴史から見ると、文化圏学習は平成11年版では採用されず「諸地域世界と世界の一体化」という内容構成に変わるので、平成元年版は末期であったと言える。既に平成元年版で新設された「世界史A」では文化圏学習は採用されておらず、従前の継承であった「世界史B」にのみ取り入れられた。昭和45、53年版では、文化圏学習と主題学習の関連性が声高に叫ばれていた。なぜかというと、文化圏学習はそれぞれの文化圏ごとに断絶しやすく、文化圏ごとの寄せ集めになってしまうことが危惧されたからである。そのため、文化圏学習の断絶的な傾向を主題学習が文化圏交流を主題としてカバーすることが期待されたため、密接な関係性が叫ばれたのである。ところが、今回の解説では、一言も文化圏学習と主題学習の関係性について述べられていない。これは一体どうしたことであろうか。理由を考えるに、文化圏の概念の恣意性が強まったことがその要因として挙げられるだろう。昭和53年版用の解説でも、文化圏は地理との関係に考慮することが肝要であることが示されていたが、今回のものは「文化圏は歴史を理解するため設定された概念であり、歴史的空間的に固定化されたものではない。内容の(2),(3)及び(4)に示された文化圏以外にも文化史的にまとまりある地域を文化圏学習に取り入れることもできる」(註15)とし、地中海地域、インド洋地域、中央アジアなどの交流圏を設定し、接触や交流を時間的、空間的にとらえさせる工夫がうながされている。よって、かつては文化圏ごとの断絶が危惧されていたわけだが、文化圏を設定する恣意性が強まったので、柔軟に文化圏を編み直すことができるようになり、接触・交流の視点が強調されたため、主題学習との連携が薄まったのである。このため、文化圏学習と主題学習の関連性は低下したと言える。

    主題学習に関する記述の希薄化

     平成元年版「世界史B」における主題学習の趣旨は以下のように述べられている。「主題学習は生徒の歴史的思考力を一層深め、生徒の自発的な学習活動の展開を促すために導入されたものである。この学習の展開を通じて世界の歴史を様々な側面から学び、歴史への興味・関心を高め、歴史に対する一層幅広い、また深い理解を得させようとしている」(註16)。しかしながら、平成元年版用の解説には、方法面(学習方法・指導方法・指導形態など)についての記述が一切ない。この記述がないものは、主題学習が導入された昭和35年版用の解説と平成元年版用の解説のみである。しかも、指導計画についても「主題学習は、年間指導計画の中に適切に位置づけられていることが必要」、「いくつかの主題を選定する場合は特定の時代や地域に偏らず、観点の異なるものを用意するなど、様々な視点から学習できるよう配慮する」という文言しか述べられていない。このことは主題学習始まって以来、初めてのことである。主題学習の位置づけ、主題数、内容構成などについて一言も触れられていないのである。何時如何なる時にどのように主題学習を行なうかの位置づけが曖昧になったと指摘することができよう。

    主題学習の観点

     今回の改訂では、主題選定基準の観点として、「日本史と関係のある」主題と「人物」を主題として学習するものが姿を消した。前者については、文化圏学習の中に日本史の視点が内包されたから消滅したのだが、問題となるのは人物史学習である。人物史学習の起源は昭和45年版の解説からであり、当初は主題の一つとして人物を取り扱うものであったが、昭和53年版用解説では生徒に生き生きとした具体的な歴史を提供するものとして主題選定基準の観点にまで躍り出た。しかしながら、人物史学習は観点から消え去るどころか、学習指導要領のすべてから消滅してしまった。これは、人物学習の目的を「生き生きとした具体的な歴史」としてしまったことに問題があると思われる。人物史学習は歴史を身近なものに感じられるのはいいが、当世の人物の感情や考え方などは現代と全く異なる。にも関わらず、人物に生き生きさを感じさせようとしたら、現代人の感覚を過去の人物に投影するような所謂歴史小説や時代劇、大河ドラマのようなことになってしまうからである。このようなことが人物史学習が消滅した背景にあるのではなかろうか。その代わりに、人物そのものではなく、民衆や日常生活の中から生徒の興味関心を惹くような主題が選定基準の観点として取り入れられてゆく。
     今回の改訂における主題選定の観点は4つである。昭和35年版以来、45年・53年と継承され続けてきている「比較考察相互関連」、昭和45年・53年と継承された「時代別・地域別・国別に大きくまとめて学習できるもの」の変化形態である「同時代として世界の歴史を横断的に全体像をとらえさせるもの」、そして人物史学習の消滅と「文化人類学の活用による社会と文化」の発展的継承により生まれた「社会史」と「技術史」である。まとめると以下の通り。

    • ① 比較文化または比較文明の要点を導入して歴史を学習できるもの
      • 諸地域の歴史あるいは文化・文明について相互に比較させることにより、それらの特色、価値などを異なった観点から考察させる
    • ② 社会史的な観点を導入し学習できるもの 
      • 過去の社会の実態、人々の日常、人々の感性や意識を取り上げ、歴史の深層部分にも着目させるような主題で、歴史を身近な共感をもって、学ばせる。
    • ③ 同時代史としての世界の歴史を学習できるもの 
      • 世界史の世紀別の横断的な扱いで、世界の全体像をとらえさせたり、文化圏の枠を越えた広い人々や事物の移動や交流を考察させる
    • ④ 人間の生活や文明を支えた技術についてまとまった学習ができるもの 
      • 農耕・牧畜の技術、水利の技術、鉄の利用と技術、コミュニケーションの手段など歴史の進展を支えた技術と人間を主題とした学習で歴史への興味・関心を高め、理解を深めさせる

     このように今回の観点が設置されたわけだが、人物史学習で生き生きとした歴史を学ばせるものが、技術史で人間に対する興味・関心を高めさせ、社会史で歴史を身近な共感を持たせるものに変容した。特に、社会史の視座は重要であり、以後の主題学習で日常生活と世界史を関連させるものとしての役割を担うようになるであろう。

    小括

     平成元年における改訂では、「国際化」がスローガンとされ近現代史が重要視された。そのため、世界史が昭和35年以来再びA科目とB科目に分化した。A科目では、前近代は諸文明の歴史的特質・接触交流として、近現代は一体化した世界として主題的な内容構成がなされた。前近代では多彩な小テーマが設置され、近現代では主題的な内容構成が平成11年版で主題学習に発展することとなる萌芽となった。B科目では前近代が文化圏学習として扱われ、近現代が主題的に内容構成されることになった。A科目と同様、B科目でも近現代の主題的な内容構成が平成11年版では主題学習に発展することとなる。だがB科目では、主題学習に関する位置付けの叙述が希薄化し、指導計画において何時如何なるときにどこでどれくらい主題学習を行なうのか、明記されず、曖昧なものとなってしまった。しかしながら、主題選定基準の観点では、社会史の観点が取りれられ、日常生活と世界史の関連性により生徒に身近な共感をもって学ばせる学習の起源となったことに意義を見出すことができる。

    (1)文部省『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』実教出版 1989年 1頁
    (2)同 2頁
    (3)同 5頁
    (4)同
    (5)同 11頁
    (6)同 6-7頁
    (7)同 12頁
    (8)同 43頁
    (9)同 275頁
    (10)文部科学省『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』実教出版 1999年 35-38頁
    (11)文部省『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』実教出版 1989年 45頁
    (12)同 45-46頁
    (13)同 47頁
    (14)文部科学省『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』実教出版 1999年 294頁
    (15)文部省『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』実教出版 1989年 85頁
    (16)同 86頁